腕時計の長針が、予定時刻から四分の三周ほど進んだところで、会計を済ませてカフェを出た。 待ち合わせ場所に勿論彼の姿はなく、連絡も来ていない。そもそも、待ち合わせ時刻ぴったりにカフェに入るあたり、こちらももう慣れたものなのだ。こうなることは最初から分かっていた。 やれやれといった面持ちで、ズラリと並ぶ過去の通話履歴をタップして電話をかける。二度は不在着信表記となり、三度目の五コール目で、やっと彼のくぐもった声が聞こえた。 『……ンン…、何…?』 「ミッキー?」 『…ゔん
「なぁ」 店内に流れる小音量のラテンミュージックが空気に溶け込み、不思議と、パンチートの声だけがはっきりと通るように聞こえた。 私は動揺を隠すように、『何、』とだけ返事をして、とっくに空になったグラスに口をつける。 アルコールのせいか、パンチートは薄らと頬を染めていて、熱の籠ったような瞳を向けられ、ドキリとした。肘と肘が触れ合うほどの距離でそのままじっと見つめられ、更に胸が高鳴る。 「オレ、るいのこと本当に愛してるんだ。心から。」 思わず両手で口を覆うと、返事を
天国。そう、まるで天国だった。 数年前のあの時、私は見つけたのだ。私にとっての幸せを。この場所に通う理由の"全て"を。 あれから数年。私はきっと、今日この時のために今まで生きていたんだと思う。 「それではお姉さん、ミッキーとミニーのところにどうぞ!」 +++++++++++++++ 以前からディズニーリゾートというテーマパークやミッキーマウスのことは好きで、年間パスポートは持っていた。確か最初は、周りに年間パスポートを持っている知り合いがいるというのがきっかけ
2017年、秋のある日。 私の世界に"推し"が誕生した。 姉に誘われてなんとなしに同行したその『ハロウィーン・ミュージックフェスティバル』で、私は落ちたのだ。 そもそも音楽フェスなんてものにあまり関心がなかった私は、購入必須であるコーラ味のドリンクを行儀悪く啜りながらステージ上の光景を眺めていた。ちなみに、コーラだと断言しなかったのは、ベリーの風味がしたような気がするからだ。 奇妙な柄のシルクハットを被ったDJらしき男が、ハンドサインや簡単な振り付けをレクチャーして
やられた。そう確信したのは、残業が始まってすぐのことだった。沈黙の中、隣に座る同僚の男が、落ち着かない様子でマウスをくるくると動かしている。 「……。」 「……。」 そもそも、少し前から嫌な予感はしていた。定時になった途端、同僚達が一斉に席を立ち、うっすらとした笑顔で「お先に!」と退社して行ったから。たまたま全員予定があるって? 偶然今日に? そんなわけあるか。 あれは冷やかしのような、ただあいつらが内輪で盛り上がる為の、なまぬるい何か。学生時代に何度も感じたことが
「みひろさん、ありがとうございます…! 僕その、なんて言ったらいいか…」 「いえいえ、そんなに気にしないで。次から気をつければ大丈夫ですよ。」 ミニーマウスの衣装をハンガーごと抱き抱えた後輩は、ぺこりと頭を下げると、急いで幕裏通路へと走って行った。彼は手に持ったドレスを、今とは逆の袖幕へと運んで行ったのだ。 ここブロードウェイミュージックシアターで行われるショー、ビッグバンドビートでは、25分という短い時間の中で出演者が何度も早着替えを行う。 その為、衣装や小道具があ
「それでは、チケットをお持ちの方は受付を開始しますのでお並びください」 震える手でチケットを握りしめた私は、電飾付きの赤い文字で公演タイトルが掲げられているその建物を見上げた。 半年前、当選の手紙とチケットがポストに入っていた時は夢かと思って頬をつねった程だ。 あのグーフィーと、あのシアターの、あのロビーで…! 握手ができるなんて本当に本当に夢みたい……! きつい筋トレも、食事制限も、メイクの練習も、今日のために頑張ってきた。 大好きなグーフィーの目の前に行くんだから、
うん、いい天気じゃないか。 気に入っているワインが入荷すると聞いて贔屓の店に向かっていた俺は、道中で見覚えのある赤色を目に留めた。 ジュエリーショップのガラス窓に張り付き、険しい顔でショーウィンドウを覗くパンチートだ。 どうしてパンチートが、宝石店なんかに…? 普段の様子を見ていても、宝石に用があるとは思えない。 「パンチート、一体何してるんだ?まさか犯罪に手を染める気かい?いくら親友でも賛成はできないね」 「わっ!ホセ!違うに決まってるだろ!?……ハァ、」 滅多にため息
「オリオン、私の可愛い子よ。…どうか、どうか無事でいて…」 一日中暗闇に覆われていたその日。 星屑の微かな光だけが静かに照らす夜更け、城の裏口で、女は腕の中の赤子を抱きしめた。 赤子は己の運命も知らず、曇りなき笑顔で母に向かって小さな手を伸ばす。 母は、彼の名が記された水浅葱色の柔らかい布に包まれる我が子をそっと従者の腕に抱かせると、首飾りを外し、伸ばされたその短い腕へと巻きつけた。 (金に困った時、せめてもの助けになればいい。) 生き延びたとして、自らを守
「へぇ〜、まだ完成してないもんなんだな。あんなに苦労したのにさ」 呑気な声で呟き城壁を見上げているのは、じきに弓兵隊の指揮を任されることになっている頭の弱い男だ。 最下級の身分でありながら奴が王国軍に身を置いているのは、隣国の武術大会で優勝したからに他ならない。 その腕がなければ奴隷あがりの者が城に出入りすることなど不可能だ。 「なぁ、完成したらここが俺の持ち場になるわけ?」 奴にはまるで教養がない。 王族である私にも態度を改めん馬鹿者だ。 返事がないことを
「陛下!」 カストルの声が聞こえた。 死んだかのように見えた義兄は、最期の力で私に掴みかかると、道連れにすると言わんばかりに体重をかけ、地面へと勢いよく倒れ込んだ。 自らの死を悟ってなお殺意を持ち続ける執念は恐ろしいものだ。 義兄は私に勝負で勝ちたいわけではない。 ただ、私に死んでほしいのだ。 徐々に強くなっていく後頭部の痛みと反比例するように、意識が薄れていった。 ……………… 「…ぃ、…おい!」 高く澄んだ声にまぶたを開くと、目の
※キャラ崩壊 配役は エレフ…メルヒェン オリオン…エリーゼ ぶらんこ…レオンティウス エリーザベト…ミーシャ エレフ「ドイツの服は窮屈だな」 オリオン「文句言うなよエレフ…俺なんか女装なんだからな!」 エレフ「お前何でそんなに似合ってんだよ…流石の俺もびっくりだよ」 オリオン「うるせー!もうさっさと復讐しちゃおうぜエレヒェン」 エレフ「誰がエレヒェンだ!…まぁいい始めるぞ。宵闇の風に揺れる、愉快な黒いぶらんこ。君は何故、この境界を越えてしまっ
「エリーザベト」 名を呼べば娘は喜びとは程遠い表情で振り返るが、すぐに柔らかな笑みを浮かべる。 「何ですか?お兄様」 「お父様と呼べと…まぁいい。今日は赦してやろう」 今日は娘の生誕日。 誕生日など喜んで祝う歳でもないが、私達にとっては忘れられるわけがない日だ。 「ふふ、覚えておいてくださったのですね…」 社交辞令のような礼を一つしてエリーザベトは私に背を向けた。 「待て。祝いの品を受け取っていけ」 律儀に止まる娘に二つ折りの板
ミーシャ「…今夜は月が綺麗ね」 μorφ「ィヤ…貴柱ト話シティルト何ダカ落チ着カナィダケ…」 ヴィオレットorオルタンス「あら、ムシューには私のアムールが伝わっておりませんの?」 ライラ「あはは、ハグして欲しいなら素直に言えばいいじゃない!」 エル「うん大好き!でもパパの方が大好き!」 シスター「私は神に仕える者です。…だから、貴方の事が好きというのは秘密にしていてくださいね」 ぶらん子「おら食い物くれる奴はみんな好きだ!だぁからもちろんお
レオン「そんな事はないよ。私がそれを証明しよう。」 エレフ「問題ねぇな。俺、不幸には慣れてるんだ。」 オリオン「知ってる?不幸なんて見方次第で幸せに変わるんだぜ?」 スコルピオス「根拠の無い事を私が信じると思うか?」 タナトス「我ハ死。不幸ナド恐レハシナィ。」 オルフ「そうですか。まぁ別に関係ありませんが」 イヴェール「君が側にいる幸せに勝る不幸なんてないよ」 シャイターン「ソンナモノ、我ガナギ払ウ」 メルヒェン「では不幸にした
レオン「おはよう。新聞を取ってきたぞ。…誉めてくれるか?」 スコルピオス「お手だと…?私が易々と命令を聞くと思うな!!」 エレフ「な、なんだよ…何度撫でたって俺は絶対懐かないからな…………(撫でられてる最中はご満悦な顔)」 オリオン「なぁ!なぁ!散歩行こうぜ!…疲れたぁ!?えーお願い!お願い!」 オルフ「…遅いですよ。何時間ここ(玄関)で待っていたと思ってるんですか」 タナトス(仔)「……ォ前ハ我ヲィジメナィカラ好キダゾ…」 イヴェール「お