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転がる石の上機嫌 #6

◎ モヒート ◎


もうすぐ真夏というわりには暑いけどカラリとしていて、町中のバルでテイクアウトしたモヒートを飲みながらほろの付いた古い車の後部席に座り、流れる景色をぼんやりと眺めていた。

濃くて青い空。
広がる無数の雲。
地平線の向こうには赤い岩肌の山々があり、辺りは平原だけが続いていた。

時折、背の高い見慣れない熱帯植物や野生の動物を遠くに確認したけれど、あっという間に後ろに過ぎ去って行く。

頭の中を不意にブエナビスタソシアルクラブの『Chan Chan』が流れた。
明るくて力強いのに、どこか物哀しさが漂う旋律。

土埃をまき上げながら、車は結構な速度で走っていた。
ガタガタと振動し、その度に体も小刻みに揺れる。
車のボディの塗装は剥げ、窓にガラスは無く、当然エアコンも付いていない。

その代わりに夏の空気と、土や草の匂いをいっぱいに含んだ風が車内に入り、頬や髪に優しく当たるのが気持ち良かった。
猫のように目を細め、思いきり深呼吸をする。

運転席ではハンチング帽のドライバーが指でリズムを取りながら陽気な歌を口ずさみ始めた。
麻のシャツから覗く浅黒い肌の彼のうなじには薄っすらと汗が浮かんでいて、私はそれを確認した後、また窓の向こうにそっと視線を移した。

"ここに来て良かった" とあらためて思った。
動き出す前に胸の内に渦巻いていたドロリとした感情も、諸々の不安や葛藤も、心配事も、それが何だったのか思い出せないぐらい今はとても自由で身軽だった。
今さら言うまでも無いけれど、旅はなんて素敵なのだろう。

目的地は決まっているけれど、後は何も決めていなかった。
どこを経由するのか。
どんな手段を選ぶのか。
どのくらい時間を費やすのか。

きっちり決めてしまうのが、性に合っていないのかもしれない。
大事なことだけしっかり抱いて、後は風に任せよう。
そう自分に言い聞かせた。

手にしていたプラカップに唇を付け、モヒートを一口啜る。
ミントとライムの入った爽やかなお酒が清涼感とともに喉を通過し、お腹の底に心地良くひんやりと落ちていった。


・・・・・


こんにちは。
お変わりはないですか。
こちらの7月は、明るい曇り空から降るしとしと雨でのスタートでした。

月に1度の更新予定だったブログなのに6月はついに穴を開けてしまい、誰に強制されたわけでもないけれどちょっとだけ自分が悔しいです。
まあ自業自得なのですが…(苦笑)。

梅雨というとイメージ的に「雨と紫陽花」がパッと浮かびますが、そんな湿度の高い場所をふっと離れてみたくなり、綴った文章の中で空想旅行をすることにしました。

想像力さえあれば、人は誰でも何時でも好きな場所に行けてしまう。
素晴らしいですね。
イメージしたものが読んだ方にもうまく伝わっていると良いのだけど。
ヘンテコな部分もあるかと思いますが、そこを含め楽しんでいただけたら嬉しいです。

・・・・・

カクテル、ビール、白ワイン、冷酒
etc.
夏に似合うお酒は色々ありますね。

あなたはお酒を飲みますか?
どんなお酒がお好みでしょう。
今度ぜひ教えてくださいね。

暑さには十分注意して、どうぞ楽しい夏をお過ごしください。


#転がる石
#7月
#モヒート
#脳内トリップ
#ブエナビスタソシアルクラブ

有料スペースでは記事のテーマに合わせて短い「石」の紹介と、ちょっとした写真を載せています。
さて今回は…お楽しみにしてくださいね。

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