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意外だった能力開発費の低さ

書籍『FACTFULNESS(ファクトフルネス)』が世界的にベストセラーとなりましたが、私も自分の思い込みや古い知識による事実誤認に気づかされたときは、面白さを感じます。そういった意味で2020年に受けた理論政策更新研修で印象に残っている話があります。

日本では米国・英国・フランスなど欧米主要国と比較して、GDPに占める能力開発費(OFF-JT)の比率が著しく低く、また、OFF-JTの割合は長期的に減少傾向にある。『2020年版 中小企業白書』より

というものです。なぜ印象に残っているかというと、欧米企業に比べて、従業員の能力開発に日本企業の方が積極的だと思い込んでしまっており、私のイメージと異なっていたためです。皆さんのイメージはいかがでしょうか。

能力開発費欧米比較

日本の能力開発費が海外に比べて高いという話を聞いた記憶を思い出すことができませんが、
「欧米企業は、転職が当たり前なので、育成するよりも能力を有している人を採用する。」
「日本企業は、終身雇用や家族的経営の文化が残っているため、従業員に成長の機会を与え育成するはず。」
といった情報や類推から、日本企業は人的資本投資に積極的だと思い込んでいたのかもしれません。

もしかすると日本企業はOJTに力を入れているためOFF-JTへの投資が少なくなっているかもしれません。
本来、自分の印象と異なったり出所不明だったりする情報は、疑ってかかることも忘れずに、元データや集計方法を確認すべきです。しかし、厚生労働省『平成30年版 労働経済の分析』からの引用らしく、各国の能力開発費をどのように集計するのか調べる手間を惜しんで、今回は情報を鵜呑みにしました。

また、白書には人的資本投資を行うことで労働生産性が向上したというデータも掲載されていました。明記されてはいるわけではありませんが、私は「政策テーマ(働き方改革・人づくり革命)に基づいて社会人の学び直しやリカレント教育を推進していこう!」という経済産業省からのメッセージだと読み取りました。

しかし、このデータは、人材に投資しなかったがために諸外国に比べ生産性が伸び悩んでいるとも読み取れる反面、経済が停滞していたため仕方なくコスト削減に取り組んだ結果なのかもしれません。成長のきっかけを探している企業には良いテーマだと思いますが、経営が安定しない企業が取り組むためには数ステップ踏む必要があるように思います。
人材の育成を、能力開発費(コスト)とみるか人的資本投資(投資)とみるか、捉え方の違いだけでも印象が違うかもしれません。私の勤務先は、人材の成長が生産性に与える影響の大きい産業です。しかし、研修費などの予算をこっそり覗いてみたところ、費用を削減していく計画のようです。全従業員を対象にしていた通信教育の奨励金を廃止して、優秀層へ集中的に投資するなど、どうにかして費用を削減しようとする地道な努力がみられます。良し悪しは別にして、白書が示している能力開発費が縮小傾向にあるというデータとも一致しています。

話は変わりますが、教員免許更新制が廃止されるようです。理由は、教職員の業務負荷や費用負担もさることながら、講習内容に対する「現実と懸け離れており、実践的な内容ではない」などの不満が大きかったとの見解が示されていました。
受講者が求めるものが全て正しいとは限りませんが、教員免許更新研修にしても、社会人の学び直しにしても、(理論政策更新研修のような)自ら受けたくなる魅力的な研修が増えれば、日本の未来が明るくなるのかもしれません。

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<補足>
理論政策更新研修は、中小企業診断士の更新要件のひとつである「新しい知識の補充に関する要件」として実施する研修で、登録有効期間5年間で5回修了(4時間/回、6,600円/回)する必要があります。

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