酒ヤクザとの闘い
知人のAさんは、お酒が大好きで、めっぽう強い。いや、強いというと、どんなに飲んでも変わらず平静を保っている人を言うのかもしれないが、Aさんは飲めば声が大きくなり、話も大きくなる。まあ、普通に酔うのだけど、そこからが底なしだ。酒量とともにどんどん声が大きくなって、話も大風呂敷でフカしてくるが、酒のペースは一向に落ちず、それに長い。そんなタイプの強さだ。一言でいえばめんどくさい。
私は仕事柄、シラフでも酔っぱらい相手のコミュニケーションは苦ではない。だけどAさん相手だと飲まないとうるさいので(物理的に、耳が)、お酒を飲むのだが、一緒に飲んでいるとこちらも楽しくなってきてついつい飲みすぎてしまう。めんどくさいけど楽しいヤツなのだ。長い戦いを終えて、家に帰ってから、そして翌日がとてもつらくて毎度後悔するハメになる。
勝負の世界では、相手の土俵でに乗らず、自分の得意とするところで戦うのが鉄則だが、Aさんを相手に酒を飲むこと自体がすでに相手の術中にはまっている。だとすると、あのAさんの声のデカさは相手に酒を飲ませる戦略なものかもしれない。
そんな酒ヤクザと会食する時は、覚悟とある種のあきらめをもって臨むのだが、ある日の会合で、Aさんに立ち向かおう、堂々と戦おう、と決めた。
会合Xデーに備えて体調を整え、直前にドラッグストアに寄ってヘパリーゼを投与、家にはハイチオールを準備した。そして仕事の都合で1時間ほど遅参をして到着した会場では、すでにAさんは出来上がっているらしく、店員さんに案内されなくてもどこの個室にいるかわかるほど、その声がフロアに漏れていた(個室の意味ねー)
そこからはいつも通りで、Aさんの「まあ飲め」、「一緒に飲まないやつは信用できない」なんてアルハラ発言もありつつ、楽しい話をして飲み進んだ。こちらは飲むペースを遅め、Aさんには「次何にします?」、「どうぞどうぞ」と飲ませることを意識しつつ、二軒目、三軒目、私は門限があるのでここで失礼を。
飲むペースを緩めたけど、日本酒とウイスキーとウイスキーとウイスキーとテキーラとテキーラがきいたとみえて、ハイチオールを飲んだ翌朝も頭が痛んだ。昼頃になって、無敵のAさんからLINEがきて、なんと今朝は寝坊をして遅刻をしたらしい。その文面をみたときの信じられなささと、申し訳なさと、ついにしてやったという嬉しさが同居した感情はなんというんだろう。でも、自分もガッツリ二日酔いだから、勝ったわけではなくて相打ちだよね。
後日、同席した人にきいてみれば、私が離脱した後の4軒目で大酒を飲んだらしく、それが原因じゃないかって。つまり相打ちですらなかったのだ。そして先日、忘年会の案内がきた。年末にAさんとひさびさ相まみえる。
酒ヤクザの抗争はつづく。