書評:『まっくら 女坑夫からの聞き書き』
午前2時に起きて炭坑(ヤマ)に行き、辺りも坑内もまっくらな中、カンテラの取っ手を口に咥えてくだっていく。水はでる、ガス気もある、崩落の危険と隣り合わせの環境で働く。
本書はタイトルにあるよう、聞き書き(インタビュー)で、炭坑で働いていたおばあさんの思い出話とそれに対する著者の評で一つの章を構成する。炭坑では明治から昭和の初めにかけて女性は後向き(あとむき)として、男たちが掘って取り出した石炭を外まで運び出す役割を担っていた。
男と同格の役割を担う女性のプライドや、過酷な労働環境、それと同時に納屋(今でいう社宅)で助け合って暮らす鉱山での生活を描いている。
炭坑では死が近いところにある。太陽の恩恵を受け、農業で歴史を作ってきた日本人からすれば、日の光のない坑内で働く鉱山労働はまるで生きて墓の下に入るような仕事だった。ヤマでどろどろになって働く彼らは、町や村の人からは蔑まれる。
坑内では競争をしながら働き、納屋に帰れば生活や子育て、お金のことまで助け合う。おばあさんの口からは方言交じりで、一見同時には成立しないような過酷さと、明るさと、強さが混ざり合って語られる。
明るさや強さは生き残った者だけが持つ生存者バイアスなのかもしれない。だが、たとえ危険で搾取的といわれるような仕事であったとしても、彼女たちの言葉からは、働くことの尊さを感じる。今日の「働く」は仕事の「労働」の部分だけをとった言葉に成り下がってしまったが、この時代の「働く」、あるいは本来の「働く」ことの意味は、その外周部分、つまり共同生活を営む人びととの人間関係や、夫婦(夫は先山・掘りだし作業、妻は後向き・運び出し作業に当たった)、子どもとの関係も含め、生活全般にかかる言葉だったように思う。
夜露がぽとりと落ちるように「まあだ働きたいですのう」(P280)といった、おばあさんの言葉が重く心に残る。
森崎和江『まっくら 女坑夫からの聞き書き』