『フィスト・ダンス』 第154回 「負けて覚える喧嘩かな」
<堂々と負けよ>
晃星中三年生の菅原、井堀VS大中1年生の信士と紀夫の戦いは、意外にも1年生が死にもの狂いで奮闘したせいで、判定とするなら3対0だが、善戦する結果となった。
翔太にすれば、もっと一方的にやられるかと思いきや、翔太の目が気になるのと、ツッパリ少年の意地なのか、殴られても音をあげず、健気にも信士と紀夫はやり返していた。
双方、疲れてきて、つかみ合ったままのところで、翔太が丈次に目配せして終わりとなった。
「菅原。どうだ、うちの1年坊、なかなかやるだろ」
マーボが、どうだといわんばかりで言った。
「ええ、1年坊でこれだから、大中はタイマブです」
菅原は左目の周りを赤く腫らしてニンマリした。
それを聞いていた信士と紀夫は、両目の周り、口の端を赤く腫らして、やったぜ!とでも言いたげな顔で翔太の方を見た。ご主人様、やりました、とでも言いそうな忠犬のような2人だ。
「菅原。今度からうちの1年坊と街で会ったら仲良くしてやってくれ。それだけの根性はあっただろ、こいつら」
トミーは、信士と紀夫の方に顎をしゃくった。
菅原は、間髪を入れずに、「ええ」とうなずき、安堵の表情を見せた。
信士と紀夫は共に170センチ近い大柄で、菅原たちと変わりはないが、その顔つきは、まだ1年生だった。
その2人が、まさか喧嘩をさせられるとは夢にも思わず、翔太が怒っていると思って、必死の形相でやったのだ。
これで情けない負け方をすれば、翔太の怒りはもっと激しいものになるだろうと、1年生ながらに考えたのである。
信侍と紀夫がどれだけのものかは、翔太には日頃のトレーニング、鍛錬の様子から容易に想像できただけに、大健闘、「火事場のバカ力」みたいなものだった。
菅原たちが、案に相違してケジメをつけられず、翔太たちから責める言葉もなく、安心の境地で帰ったあと、翔太は一同を『マタドール』に連れていった。
翔太を中心に向かい側に丈次、大作、信士、紀夫が座っている。
「なんで、やらされたか、もう、わかってるな。信士、紀夫、どうだ?」
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無期懲役囚、美達大和のブックレビュー
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