『フィスト・ダンス』 第146回 「切磋琢磨(せっさたくま)」
<誰が強いのだ!?>
「翔太は寝なくても平気なんだよな。普通は眠い時なのに」
「ええ、そうらしいですけど、ちっとも眠いと思わないんで」
天野が、うんうん、とうなずいているが、なぜか小さな頃から寝ないで本を読んでいるので、尚奏に叱られてばかりいた。それでも読書を一向にやめなかった。
「俺は、いくら寝ても眠いぜ。だから毎朝、鬼ババアと戦いだ」
「鬼ババアじゃないだろ。あんな、いいおばさんを」
清正がマーボを宥めると、一同から、そうだ、の合唱の声があがり、マーボは知らんぷりをしている。
「俺も眠いんだよなあ。ガンガン、トレーニングした日は、バッタリでずーっと寝てるぜ」
和生が言うと、何人も、そうそう、と言っている。
中学生は成長期で、「寝る子は育つ」というが本当だ。就寝後、特定の時間が経過すると、成長ホルモンが分泌し、疲労回復、筋肉の補修と肥大、体を大きくする、などの作用があるが、寝ないというのは、この点では有害だった。が、当時の翔太には、そんなことは知らず、ひたすら、自分のやりたいことに時間を投じていた。
「今日も寝ないで考えるんだろ。明日から頼むぜ」
「ああ、任せとけ」
翔太はトミーに答えた。
「で、翔太、最近は全くの敵なしだろ?」
「ええ、そんなとこです。相手が俺のことを知ってれば喧嘩にもなりません。だから、こいつらのやるのを見てるだけです。それにマーボ、トミー、清正も減ってきました。名前が売れているんで」
街でツッパリ少年と遭遇しても、大半は翔太のことを知っていたし、マーボ、トミー、清正も有名人で、喧嘩になることはない。
遠くから互いにガンを飛ばし合っても、こちらが大中とわかった時点で、相手の態度が豹変するのが常となっている。
マーボらは、半ば自慢で、半ばつまんねえと不平を言っているが、翔太は、そんなもんだと気にしていなかった。
最近は、椿町での夜の修行で実戦を経験するか、翔太の名前を知っていても、翔太本人とわからない輩を相手にするくらいだが、さっぱり相手にならなかった。
最近の翔太たち3年生の相手は、来年以降を睨んで高校生だった。それすら、名前が売れているので、実戦までいかないことが増えている。
そのぶん、他の3年生や2年生の丈次ら、1年生の大作らが頑張っているというところだ。
「そのぶん、自分たちがやってます。どっかで生学と興行ができると自分たちも名前が売れるんですが」
晃一が言うと巧、和生たちも、やりてえなあ、と言っている。最近は、大中と知ると腰が引ける学校ばかりなので、高校生といえども興行の相手にはなり得なかった。
そのせいで晃一たちは、くやしい思いをしていて、菊山道場でのトレーニングでは清正が集中して狙われ、互いに白熱した空気を漂わせていた。そのこと自体は、強くなるためにプラスだった。
翔太の性格上、なあなあは許容しなかったが、それ以上に清正へのライバル意識が、メンバー間の競争にプラスに働いていた。
そうした集団になったのは、やればやっただけ強くなり、成果が明確にわかったことに加え、メンバーたちが勝ち気で根性があったからである。
最初のトーナメントの時、翔太が各人の中から、どんな状況になっても弱気になることがない者を選んだことは大正解だった。
やはり、人は性格、考え方で結果が変わるのである。
どこまで強くなれるかは、そのまま、その人の己への厳しさ、目標の高さ、実行する意志の強さを表わしている。自己弁護ばかりの弱虫は、弱いままで終わるのだ。
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無期懲役囚、美達大和のブックレビュー
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