『フィスト・ダンス』 第143回 「武者修行のマーボ」
<丈次よ、強くなれ!>
どこに消えてしまったのか、すっかり腹ごしらえをして、シノギを放ったらかして、「散歩」に出かけたマーボ、その護衛と監視を兼ねた清正と丈次らが戻ってきたのは2時間も経ってからだった。
「どこ行ってたんだ、マーボ?」
「へっへっへっ。偵察だ、偵察。このど田舎に強え奴がいねえかなってな。ほら、昔の武士がやってた、なんとか修行ってやつよ。ま、このマーボ様に敵う奴なんていなかったけどな」
翔太に問われたマーボは、全く悪びれることもなく、しれっと答えた。悪びれるなど、マーボには露ほども期待していない翔太は、苦笑いした。トミーと晃一、いや、清正と丈次も苦笑するしかなかった。
「やったのか、マーボ」
「おお、晃一。やったって言っても大した奴はいなかったぜ。なっ、清正、丈次。弱すぎるくれえだったよな」
「ああ、全然、相手にならねえや。あれで生学っていうんだから、どうもならん」
「いや、清ちゃん。俺たちが強すぎるんだよ。だって、毎日、鍛えられてたんだよ、俺たち。ねっ、翔太先輩、そうですよね!」
丈次の言う通りだった。強くてあたりまえだ。毎日、何年も鍛えてきたのだ。しかも試行錯誤しながら、格闘技のエッセンスを採り入れてトレーニングし続けてきたのだから、弱い方がおかしい。要は本当にやるか、やらないかなのである。
「そうだ。もっとも落伍者がなく、ついてこれたのは各人の根性と努力だけどな。特にマーボなんて真っ先にサボると思ったのに、よくやってきたよな」
「ま、まあな。俺は根性だけはあるかんな」
翔太に評価されたマーボは、どうだ、と言わんばかりに鼻の穴をひろげて得意気だ。翔太が微笑ましいと感じるマーボの表情だ。マーボは単純で正直だ。そこがいい!
このマーボが少年院にも送られることなく、曲がりなりとも3年生になれたのは、マーボを知る者からすれば奇蹟である。
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無期懲役囚、美達大和のブックレビュー
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