『天晴!な日本人』 第111回 荻野吟子(4) 「人生の大転換」
吟子は古市に誘われて一八八四(明治一七)年、新富座で開かれたキリスト教の大演説会を聴きに行ったことを契機として、信仰心を持つようになりました。大演説会では女性の地位向上と、男女同権が説かれ、吟子は、「これだ」と目覚めたのでした。
新富座とは、九世市川団十郎の演劇改良運動の拠点となった歌舞伎の劇場で、新富町にあったのです。
一八八七(明治二〇)年六月、吟子は本郷教会の海老名弾正牧師の洗礼を受け、聖書を愛読書とするようになっています。海老名はこの時代のスター的牧師で、近くの明治女学校の学生をはじめ、夥しいほど、信者を増やした人です。
吟子の勤勉さは、聖書の文字が小さくて視力を低下させるおそれがあると考え、わざわざ自分で筆写して大きな文字の聖書を作ってしまったところに見られます。
その他、禁酒と廃娼運動に共鳴して、一八八六(明治一九)年一一月に発足した「東京婦人矯風会」の発起人にも名を連ねました。明治時代、女性の地位向上のために、矯風会が果たした役割には絶大なものがあります。
田中正造の章でも述べたように、国会の婦人傍聴禁止の条文を撤回させたのも一つです。吟子は以後、社会的にも名士、力のある婦人として、女性の地位、権利向上のための運動に参加しています。
女性に参政権を与えよ、という「普通選挙運動」にも参加しました。当時は治安維持法によって、女性の政治結社への参加も禁じられていたのですが、矯風会、他の活動によって撤廃され、女性も参加できるようになっています。
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