『フィスト・ダンス』 第158回 「一同で高校を制覇(せいは)するぞ!」

<男たちの皮算用>

3年生の2学期も11月ともなると、劣等生といえども、進学か就職か、進路を決めなければならない。
大中の面々には、就職といっても極道への就職だが。
おおむねの進路は決まっていたが、清正、隼人はやとたくみが未定だった。

「で、どうすんだ、清正」

『マタドール』の奥の院には、翔太、マーボ、トミー、清正、隼人、巧、晃一、和生かずおがいた。

「やっぱ、進学する。母ちゃんも大丈夫だから高校だけは行っときなって言うしな。極道になるにしても」

マーボにかれた清正は、嬉しそうに答えた。清正の家庭も大中では一般的なシングルマザーで、仲よしの母は水商売の人である。
女手一つで育てる苦労は今も昔も変わらないが、総じて、この時代の水商売の女性の方が現代よりも収入が良く、生活苦とまではいかない。
翔太の先輩の純一、西の兄弟の家もシングルマザーである。
翔太の周り、特にツッパリ少年の家庭は、平均して離婚歴があるのが普通で、藤田のように父親が3人目というのも珍しくない。
水商売に従事し、ヤクザと付き合う母親は、別れても次のパートナーはまたヤクザというのが多い。
ヤクザ好きなのだ。
しかも、大半は別れたヤクザより偉いヤクザと付き合うのである。

「おっ、進学か。じゃ、暁星ぎょうせいだよな、もちろん」

晃一の声がはずんでいる。

「おお、暁星だ。晃一とは生学でも張り合えるじゃん」

清正はニンマリした。
清正と晃一は、菊山道場の練習での組手でも、本気モードで火花を散らす仲だ。
互いに、マーボ、トミーに追いつけと、意気も軒昂けんこうだ。他のメンバーとは頭ひとつ抜けてきた。
マーボが暁星に進学し、番長になるのは当然の「鉄板コース」だが、卒業できるか?となると覚束おぼつかない。
なんたって、最高の抑止力になっている翔太のそばを離れるのだ。
希代きたいのワルだけに、なにをしでかすか、わかったものではない。
マーボが中退となれば、次の番長は清正で決まりだ。甲南こうなんの伊達もその予定で、マーボなきあとは、清正の下の副番長を狙っての暁星進学だ。

「隼人、おめえは、どうすんだ?」

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