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『天晴!な日本人』第46回 剛毅朴訥(ぼくとつ)、仁(じん)に近しを体現した秋山好古(よしふる)大将(7)

海軍大将兼極東総督のアレクセーエフは、アジアとの外交も担っていた、軍人というより高級官僚でした。
好古と大庭は、日清戦争時とは比較にならないほど強化された旅順の要塞も見せてもらっています。
途轍とてつもない量のべトン(コンクリート)と3000人の清国人苦力クーリーを使って補強され、700門の重火砲を配置し、陸海軍の兵力10万人をってしても絶対に3年間は持ちえるとされた、東洋どころか世界一の堅固な要塞と言われるようにまでなっていたのです。
のどから手が出るほど欲しかった不凍港の旅順は、ロシア海軍の大根拠地となりました。要塞が完成した後、機密保持のため、3000人の苦力たちは全員が殺されています。
苦力とは、最下層の主に肉体労働者のことで、1800年代のアメリカの大鉄道工事にも従事し、過酷さのため、多数の犠牲者が出ました。

4週間の視察を終えて帰国した好古の提出した報告書は、対ロシア戦略・戦術を練る参謀本部にとって大きな力となったことは言うまでもありません。
好古のロシア陸軍の感想は、騎兵については、数も質もロシアがはるかに上、そのため、戦術・馬術と勇気で勝つしかない、砲兵もロシアの方が優位、日本は戦術で勝つしかない、歩兵は日本が格段に上、というものでした。
しかし、好古は何よりも日本の若い将校たちに、「勇気を持て」と、考えていたのです。

<戦場においての好古>

政府と外務省の交渉もむなしく、ロシアと開戦になりました。
1904(明治37)年2月10日、宣戦布告をしています。この時の日本は、「勝つ」というより「負けない」ことが最優先でした。

彼我ひがの経済力・戦力を比較すれば、後の昭和の大東亜戦争時の日米より大きな差がありました。
国家の歳出規模を示すと、日本は2億5330万円、ロシアは20億7166万ルーブルで、円とルーブルではほぼ等価なので、ロシアは8倍の国家予算ということになります。外貨準備高もロシアの20億ルーブル以上に対して、日本は2億円弱でした。
負ければ、ロシアの植民地にされるであろう、いや、列強にも侵食されるであろう、という悲壮な覚悟でした。

また、不運にも、「今信玄」と称された、作戦の神様の田村怡与造いよぞう少将が前年10月に疲労とストレスによって急逝してしまったのです。
この危機に、自らの降格を辞さず、参謀次長になったのが、児玉源太郎こだまげんたろう中将でした。この人も立派な武人であり、『天晴!な日本人』で紹介する予定です。
台湾総督兼務から就任しています。内相と台湾総督は親任官で、参謀次長は勅任官とランクが低いのです。
誰もが、大臣から参謀総長ではなく、次長への二階級降下など引き受けないであろうという中、御国のためなら気にすることではないと、進んで任にあたったのです。

明治の政治家が偉大だったのは、開戦前から講和を構想していたことでした。伊藤博文にわれて、金子堅太郎けんたろうがアメリカに、末松謙澄すえまつけんちょうがイギリスに飛び、日本の正当性を両国の世論に訴えると共に、講和の道を探っています。
尚、金子はアメリカのセオドア・ルーズベルト大統領とハーバード大学の同窓で、交友のある人です。その金子が渡米前に児玉を訪ねて勝算をいたところ、勝算はない、五分五分との回答でした。児玉は、あのメッケルが絶賛した軍人でもあります。

軍に動員命令が下されたのは2月5日でした。まず、三つの師団からなる第一軍が編成され、ロシアの総司令官クロパトキンを睨みつけた闘将の黒木為楨ためもと大将が司令官です。
黒木大将は、西郷隆盛、大久保利通と同じ町の出身で、剛勇かつ情のある優れた将軍でした。
緒戦の勝利は全軍の士気に強く影響するばかりではなく、戦費のとぼしい日本が欧米で外債がいさいを売って資金調達するのに重要なポイントになります。日本は弱い!となれば、いくら利息を高くしても買ってはくれません。
外債というのは、利息が年何%で、何年で償還(返済)しますよ、という日本の債券で、国債を海外で売るものと考えて下さい。
この外債募集(販売イコール借金すること)には、ダルマの異名がある高橋是清これきよが大車輪の活躍をしましたが、それというのも緒戦を黒木大将が勝ったからでした。
高橋も紙数があれば紹介したかった人物で、明治人、豪傑が揃っています。現代とは同じ日本人とは思えないほどです。

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