『雑感97 米中ハイテク覇権戦争』

(9月3日記)

今回のテーマは、「米中ハイテク覇権はけん戦争」です。

アメリカは2022年10月に、中国向けの先端半導体、その製造装置の輸出につき、事実上、禁輸としました。
半導体については、雑感8990を参照して下さい。

さかのぼるとトランプ政権時代の2019年、中国通信機器大手の華為技術ファーウェイを、事実上の禁輸とするエンティティ・リスト(禁輸企業リスト)に追加しました。
バイデン政権は、企業ではなく中国全体に対して先端半導体の輸出を禁止、その製造装置などを持つ日本とオランダにも同調を強く求め、従わせています。

半導体製造工程の専門家・細分化が進み、前工程では日米欧の大手メーカーが独占しています。
日本は本年、2023年5月に、経産省が省令を改正し、輸出管理対策に高性能半導体製造装置など23品目を追加し、7月23日から施行、オランダも9月1日から強化と発表しました。
中国は「中国製造2025」のもと、巨額の補助金を出して、半導体の国産化を進めていますが、前工程の国産化率は10%未満のままです。

先端半導体の製造には、極端紫外線EUV露光システムが必要となります。
オランダのAMSLの同システムは、回線幅7ナノメートル以下の先端半導体の製造に欠かせない装置で、今の時点では世界唯一のサプライヤーです。
これがなければ、中国は一世代前のDUV深紫外線露光システムを用いて、14ナノメートル以下の半導体の製造を目指すしかありませんが、対応する製造装置のサプライヤーもASMLと日本のニコンしかありません。
はん用と先端の境界は14~16ナノメートルです。1ナノメートルは10億分の1メートル、詳しくは雑感8990でチェックして下さい。

中国も報復措置として、7月3日に材料のガリウムを輸出規制の対象とし、8月から施行しました。
こうしたことは、半導体、それを使うAIが軍事的に重要になってきたからであり、安全保障と密接な関係があるからでした。
近年、AIの急速な進化により、技術力が軍事を大きく動かす時代となってきました。
AIは戦闘ロボット、ドローンなどの最新兵器に使われ、戦術策定、指揮にも活用されています。

中国の場合は民間企業イコール政府という関係で、軍民両用のデュアルユースは優位です。
2022年10月の第20回共産党大会で、習近平国家主席はアメリカに対抗し、AI開発と、活用する「知能化戦闘」の重要性を強調しています。
中国はAIと無人機システムを合体する「AIによる軍事革命」を実現しようとしている、とも言われています。

今はアメリカがリードしていますが、2022年に最も引用されたAIに関する論文100本のうち、アメリカは68本でトップ、2位は中国の27本でした。
しかしアメリカは前年比で7本減、中国は4本増で、AI分野の論文発表では半数以上を中国が占めています。
AI分野の特許数25万件のうち、60%が中国なのです。
ただ、先端半導体の製造装置とノウハウがないというのが弱点ですが、それがずっと続く保証はありません。既に7ナノまでは自国で作っています。
スパイ天国の日本から情報が流れるのは時間の問題でしょう。

アメリカは、他の技術移転も止めようとしています。
監視カメラ、画像認識技術など、輸出規制の多国間枠組みを作り、オーストラリア、デンマーク、ノルウェーを参加させ、続いてカナダ、フランス、オランダ、イギリスを組み入れる予定です。
対象も、バッテリー、サイバー、海底ケーブル、宇宙と、防衛事業全体になっています。
中でも最も力を入れているのが半導体で、国内で527億ドル、約7兆円強もの補助金を出しています。

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