『フィスト・ダンス』 第160回 「『伊太利(イタリ)亭』での会談」

<「覚悟は、あります」の藤田>

「お久しぶりです。今日は自分のために忙しいところ、すみません」

藤田が大きな体をかがめて、頭を下げた。翔太も、忙しいのにどうも、と一緒に頭を下げた。

「いやいや、可愛い後輩からのハイダシとあっては、何をさて置いても出てくるぜ。それが翔となればな」

久々に見る純一は、髪の毛をオールバックになでつけ、グレーの光る素材のシャツに、やはり、濃紺の光る生地のジャケットと、フラノのグレーのズボンを身に着けていた。
この時代のヤクザは角刈りが主流で、服装も古臭いイメージだが、純一はさすがにオシャレで垢抜けている。
新参の若者でも、きっと稼いでいるのだろう、と伝わってきた。

純一と会ったのは、以前にも連れてきてもらった『伊太利イタリ亭』である。

「もう少ししたら、うちのバカアマも来るから。翔の顔が見たいんだとよ。うるせえけど辛抱してくれ。藤田もな」

純一は、そう言うとタバコを唇の端にくわえ、金色のダンヒルのライターで火を点けた。

「京子さん、相変わらず元気いっぱいなんだ、あの人のことだから」

「そうだ、元気すぎて、うるせえ。けど、あれは気もきくし、いいバシタになる」

バシタとは、女房のことだ。

「それで純さん、電話で話した件だけど、みきおのこと頼みます」

「純一さん、自分、いろいろ考えたんですけど、純一さんの舎弟から始めたいんです。なんとか、お願いします」

純一と向かい合って座っている藤田が、姿勢を正して頭を下げた。

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