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1200年の時を経て、 現代の名工が手がける”新しい赤津焼”

2022年の秋、東邦ガス「みたすくらす」×JR東海「いいもの探訪」のコラボレーション作品が登場します。今回新たに制作されるのは、愛知県瀬戸市の経済産業大臣指定伝統的工芸品「赤津焼(あかづやき)」のお皿。名古屋マリオットアソシアホテルのシェフが講師として赤津焼のお皿を使う「スペシャル料理教室イベント」の開催も決定しました。


名古屋マリオットアソシアホテルのシェフによる料理教室
「シェフのレシピでおうちごはん」参加者募集中!
※受付終了しました。


「赤津焼」は、「瀬戸焼」の中でも瀬戸市街地の東方にある赤津地区で焼かれる焼物のことを指し、日本六古窯にも数えられる長い歴史を持つ工芸品です。今回は弄月窯(ろうげつがま)で日々赤津焼と向き合い、前衛的な作品を創り続ける伝統工芸士 梅村知弘さんにお話を伺いました。

【取材した人】梅村知弘さん(伝統工芸士)
「赤津焼」の窯元『弄月窯』を開く知弘さんは、本家である初代から数えて四代目。織部釉(おりべゆう)を得意とし、日常使いの器から茶器、花器、美術陶芸など幅広い作品を手掛けている。


そもそも赤津焼と瀬戸焼ってどう違うのですか?


――よろしくお願いいたします。そもそも赤津焼は「瀬戸焼の一種」ということでしょうか?

梅村:はい。瀬戸焼は陶磁器の一大産地として皆さんご存じかと思いますが、「本業」と呼ばれる陶器と「新製」と呼ばれる磁器に大きく分けることができます。赤津焼は本業の方、中でも尾張徳川家の御用窯の流れを持つ伝統的な陶器を製作しています。瀬戸焼という大きな括りの中に赤津焼が入っているという訳です。

――赤津焼はこの地でどれくらい昔から作られていたのですか?

梅村:奈良時代に焼かれていた「須恵器」という土器が赤津焼の始まりとされています。赤津地域は昔から良質な陶土の産出地だったので、優れた陶工がここに根付いてその技も受け継がれていきました。
そして平安期には華やかな模様が生まれ、鎌倉期には様々な装飾技法が編み出されて黄金期を迎えました。茶華道が発達した桃山期から江戸期にかけては、黄瀬戸志野織部御深井(おふけ)など各種釉薬の技法が確立され、尾張藩の御用窯として栄えました。現代においても7色の釉薬12種類の装飾技法による多彩な表現力で、実用品としても芸術品としても多くの人に愛されています。なのでさかのぼると…1200年ぐらいの歴史がある焼物になると思います。

――1200年!?その間、受け継がれてきた伝統の線上に「弄月窯」があるということですね。先ほどのお話にあった7色の釉薬と12種類の装飾技法について詳しく伺ってもいいですか?

梅村:そうですね。やはり7種類の釉薬は赤津焼の大きな特徴です。草木の灰を用いて美しい緑色を生み出す「灰釉(かいゆう)」や、黒色の表面に茶褐色の斑模様が出る「小瀬戸釉(こせとゆう)」、淡い青が涼やかな「御深井釉(おふけゆう)」、他にも有名な「織部釉(おりべゆう)」「志野釉(しのゆう)」「鉄釉(てつゆう)」「黄瀬戸釉(きぜとゆう)」があり、そのどれもが個性的な色を生み出しています。

それに加えて装飾技法も長い歴史の中で培われてきたものです。へらで模様を彫る「へら彫り」や、型押しで模様を付ける「印花」、竹櫛や金櫛を使って模様を描く「櫛目」など、12種類もの装飾技法が存在しています。多彩な釉薬と装飾技法から生まれる作品は、同じ赤津焼と言えども作家によって全く異なる味わいを持ちます。その奥深さが多くの人を魅了しているのかもしれませんね。

――確かに、これも、それも赤津焼なんですね… 自分でいろいろな窯元の作品を見て、贔屓の作家さんを見つけるのも楽しそうです。一度制作工程も拝見したいのですが…

梅村:もちろん!かいつまんでにはなりますが、ぜひ見ていってください。


栃渋入れで生まれる優雅な趣 ~赤津焼の制作工程


【陶土調合】
調合した陶土に対してしっかりと「菊練り」を行います。

「菊練り」を行うことで、土の中に残っている空気を抜きます。

【成形】
作品のデザインやサイズに合わせてカタチをつくります。

まずは手で、大きなカタチをつくります。
「ろくろ成形」や「手びねり」、板状の陶土を様々な型で成形する「たたら」など、
いずれかの手法(または併用)で成形します。
ろくろ成形の際には柄ごてやたまごこてをはじめとした手製の道具も使います。

【素地加飾】
串や縄を用いて模様を付けていきます。

【下絵付け】
成形と素地加飾を終えたら、室に20時間ほど保管。その後1週間ほど天日干しをして土の中の水分が飛んだら、いよいよ絵付けです。

釉薬の下に細さの異なる筆を使って絵を描いていきます。
やり直しがきかない工程なので、梅村さんの表情も真剣そのもの。

【施釉】
艶を出すために表面を釉薬で覆います。赤津焼では基本的には、素焼きをせずに釉薬を施す「なまがけ」という技法を用いています。

赤津焼の命とも言える釉薬づくりも大変な作業。

【焼成】800~1180℃の窯に入れて焼成します。

赤津焼は24時間程度焼き続ける必要があるため、
1度の焼成で一般家庭の約3カ月分のガスを使用することも。

【栃渋入れ】
織部釉を使用した場合、焼成後に仕上げとしてどんぐりの渋を溶かした液体の中にこれも24時間ほどつけ込みます。

「栃渋入れ」の工程により釉薬のヒビに渋が浸透し、作品が持つ優雅な趣が引き出されます。

【完成】
これで、赤津焼の完成です。細かな装飾を施した芸術性の高い作品など、ものによっては、ひとつ完成されるのに数カ月かかることもあります。


伝統工芸士 梅村さんのこだわり


――土がまるで魔法のように器のカタチに変わっていくんですね…!繊細な絵付けの技術や栃渋入れのような奥深い技法にも驚かされました。梅村さんご自身の制作に対するこだわりもお聞きしたいです。

梅村:実は自分が一番好きな工程は絵付けなんです。昔から絵を描くのが好きだったので。ウチには代々伝わる図案帳があって、それを参考にしながら描いているのですが、自分ほど細かな絵付けをしている作家は他にはいないと思います(笑)

――この葉脈も全て手描きの「線」なんですね! …想像するだけで気が遠くなってきました。

梅村:好きなんで、ついつい際限なく描き込んでしまうんですよ(笑)。それでなくとも、土モノで直接絵付けする焼物は、瀬戸と美濃と唐津だけ。桃山時代から続く文様や絵柄をひとつひとつ手で描き上げることで、工業製品にはない「温もり」や「安らぎ」を作品から感じていただけるようこだわっています。

――ちなみに制作工程の中で、一番苦労するのはどの工程ですか?

梅村:やっぱり焼成ですね。どんなに時間と手間暇をかけて作り上げた作品も、最後の焼成で失敗しては台無しです。それまでの苦労が一瞬で水疱に帰すので、焼成が一番神経を使います。釉薬を使いすぎると下絵がボケてしまう2等品になってしまうのですが、それも焼いてからしか分からないので、焼成は一番緊張しますね。 


伝統を守りながら、今の時代にマッチする作品づくりを

――ありがとうございました!最後の質問ですが、今後力を入れていきたい取り組みについて教えてください。 

梅村:織部釉をはじめとする赤津焼は御年配層で興味を持たれる方が多いのですが、今後はもう少し若い方にも興味を持っていただけるよう今の時代にマッチする作品づくりもしていきたいです。伝統的な古典文様を活かしながら、どこまで遊び心を発揮できるか自分でも挑戦してみたいですね!

――こちらの大皿なんて、洋風のお部屋や玄関にもマッチしそうです。このくじらの絵もすごく可愛いですね。

梅村:動物シリーズは百貨店さんの催事で限定販売したものです。嬉しいことにすぐに売り切れてしまうほど好評でした。お客様やまわりの人からも「こういう絵柄が欲しい」とリクエストが次々来ている状態で…つくる方は結構大変なんですけどね(笑)。ただこういった作品のアイデアはどんどん湧いてくるので、これからも積極的に取り組んでいきたいと思います。

僕らの赤津焼は、ひとつひとつが精魂込めて作り上げた作品です。なので、年齢や性別を問わずいろいろなシーンで長くお使いいただける作品づくりを今後も目指して行きたいですね。


「みたすくらす」×「いいもの探訪」コラボ料理教室のために、赤津焼の新作お皿を制作中!


先にご紹介したコラボ料理教室のレシピに合わせて、梅村さんが新作のお皿を制作中!料理教室の講師を務める上西シェフからのメッセージもこちらの記事からご覧いただけます(料理教室記事へリンク)。料理好きの方も、伝統工芸に触れたい方も。みなさま奮ってのご参加をお待ちしています!

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