限定感こそ持続可能性のカギ!校舎リノベでうまれた施設で、「ここにしかない」を味わう。
こんなところにサステナブル vol.4
こんにちは。コピーライターのつかもとちあきです。
これから2回にわたって、切り口を変えて「リノベーション」の取り組みを紹介していきます。リノベーションはSDGsが目指す11「住み続けられるまちづくりを」や12「つくる責任 つかう責任」に沿ったトピックです。
今回訪問したのは、廃校になった小学校をリノベーションした施設「グルッポふじとう」です。図書館をはじめ、児童館、コミュニティカフェ、地域包括支援センター、こどもとまちのサポートセンターなどで構成されています。
愛知県春日井市の高蔵寺ニュータウンにあるこの施設。少子高齢化の影響を受けて廃校となった藤山台東小学校の施設を、教室の床や間取りをそのまま生かしながらリノベーションしていることが特徴です。施設を運営する高蔵寺まちづくり株式会社の奥田良太さんと、図書館長の伊藤なつみさんに、館内を案内していただきました!
奥田さん(左)と伊藤さん(右)のお二人にお話を伺いました!
校舎を生かしているからなのか、初めてでも安心して入っていける雰囲気の館内。また、「多世代交流」をコンセプトにしていることもあり、館内ではだれもが利用しやすいように、独自でデザインした分かりやすいピクトグラムを使用。SDGsが目指す「誰一人取り残さない」とも合った建築方針ですね。
取材に訪れた日は、3階の会議室で市民向け講座が開かれていました。テーマは、老後のマイホーム活用術。空き家増加が懸念される、高蔵寺ニュータウンならではの講座です!教室いっぱいに集まった参加者の方々は皆、真剣に講義に聞き入っていました。
「本を手に取る人目線」でレイアウトされている書架や、整理番号順に整然と分類されている書架など、図書館は目的に合わせて利用でき、多世代の、多様なニーズに応えようとしているんだな、と、感じました。
ニュータウンの歴史を保存し、紹介する激レアコーナーも!
「かつて主婦の有志が独自で”タウンニュース”という媒体を立ち上げて、細かく地域情報や暮らしのあれこれを記事にしていたんです。自分たちで広告どりまで。気合いがちがいますよね」と、伊藤さんが教えてくださいました。自分たちのまちのことを、自分たちで考えて、解決する。そんな誇りが感じられる“グルッポふじとうならでは”のコーナーでした。
伊藤さんと、グルッポふじとう立ち上げ時から建築技師として関わってきた奥田さんにじっくりお話を伺いました。
いろんな人がいるって、楽しくて、むずかしい。
―学校ならではの構造を生かしてリノベーションされているなと感じました。運営の面では、どうですか?
伊藤:私はこれまで学校図書館に勤務してきたのですが、やっぱり、学校の施設をリノベーションした図書館と学校図書館では違いますね。ターゲットが広いですから「誰のための施設か」を、いつもスタッフと試行錯誤しながら企画展示したり、コーナーを入れ替えたりしています。
奥田:伊藤館長も仰るように、高齢の方からお子さんまで、幅広い世代が利用される施設なので、設計する時に“場所の濃淡”のようなことは意識しました。静かに過ごしたい派も、コミュニティをつくって楽しみたい派も、みんなが楽しめるよう、運営していきたいです。
反応を見ながら、変化する。大切なものは、伝えつないでいく。
―多様なニーズへの対応が求められているのですね。
伊藤:図書館って、元々はみんなの認識として「調べに行く場所」だったんです。目的を持って来るから、本が整然と分類された状態がよしとされてきた。でも、だんだんと行く目的が多様化してきました。情報との偶然の出会いに期待する人が増えたんですね。だからこの図書館でも、季節と結び付けて本を紹介するコーナーを設けたり、作家を招いた講座や、地域の企業を招いたコラボイベントを展開して、“みんなの情報拠点”という機能がプラスされてきています。でも、図書館学的には、本当にそれでいいのか、という葛藤もあります。一人ひとりが自分の視点で本を選び、自ら調べる価値や喜びも、ちゃんと発信していきたい。それこそが“図書館ならでは”だと思うからです。奥田さんは、建築学的な立場から、どう思いますか?
奥田:“ならでは”という視点は大切ですね。ニュータウンの話につながるんですが、高蔵寺ニュータウンができた高度成長期って、みんなが同じ団地に住んで同じ暮らしむきを求めてきたんです。でも2000年代になると、他人と一緒は嫌で、「あなたじゃなきゃ」「これじゃなきゃ」「ここじゃなきゃ」という“限定感”を人々が追い求めるようになった。だから僕たちは、建築して終わりではなくて、この施設に来た人のリアクションを見ながら、この場所でしか味わえない体験をうみだしたいと思っています。
―ここでしか味わえないことを見つめ直しつつ、新しいニーズにもこたえて、ここに来たいと思ってもらう。両軸が大切なんですね。
奥田:はい。まちを若返らせることって難しくて、元に戻らないと考えた方がいい。でも、それを悲しむんじゃなくて、空いた空間をポジティブに受け止めて、そこに暮らす人たちにとってのかけがえのない、ほかにはない居場所にしていくことが大切です。それが、まちを持続可能なものにするヒントだと思っています。
伊藤:個人的には、図書館でヤングアダルト世代を専門にしてきたので、中学~大学生にも自習室以外を利用してほしいなと思っていますし、イベントに参加して世代間交流をしてほしいです。高蔵寺というまちの「ここでしか味わえない」を知って、いいな、と思ってくれたらいいですね。そうすることで、視野を広げることにもつながりますからね。
奥田:交流から、すべてが始まりますよね。伊藤館長は、児童館の方とか、サークル活動をされている方にどんどん話しかけている。そういう普段のふれあいって、社会的に健康な状態だし、机上の空論ではない、本当の意味でのまちづくりなんですよね。
伊藤:ははは(笑)。すぐに話しかけちゃうんです。図書館学で有名な言葉があって「図書館は成長する有機体である」というんですけど、図書館が生き残るために、そこにいる人もサービスも常に成長すべき、という意味なんです。今こそ、その言葉と向き合うときだと思います。このまちの変化の波に乗りながら、このまちの唯一無二の価値を、これからの世代が受け取りやすいかたちで保存していきたいですね。
変わっていくことを受け入れながらも、残したい価値を意識し、伝えていくこと。このまちが変化しながら持続可能なものとなるように、“ここならでは”をリレーしていく様子を、小高い丘の上にあるグルッポふじとうの“学び舎”が、あたたかく見守っているような気がしました。