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「コミック乱ツインズ」 2025年3月号(その二)

 「コミック乱ツインズ」誌、2025年3月号の紹介の後編です。今回は特別読切の三作品を取り上げます。

『牛頭と椿』(鶴岡孝雄&濱崎徹)
 旅の途中、破落戸たちに襲われていた盲目の娘・琴を救った旅の武士・病葉半四郎。後添いに父を殺された上に家を追い出され、いま危うく自分も殺されかけた琴は、仇討ちのために剣の達人である半四郎に指南を願い出ます。
 やむなく引き受けた半四郎ですが、意外にも素養のあった琴は腕を上げていき、いよいよ仇を討とうと江戸に出てきた二人。そこで椿の目が治りかかっていることを知った半四郎は、複雑な表情を見せます。というのも……

 仇討ちを狙う娘と、その指南をすることになった武士というのは、時代劇では珍しい題材ではありません(それこそ本誌でも先月号にも娘仇討ちものが掲載されていたわけで)。しかし本作は、半四郎がタイトルの「牛頭」ほとんどそのままの特異な容貌という点に、大きな特徴があります。この半四郎の異様に迫力溢れるビジュアルは、まさに漫画でなければ描けないものでしょう。
(本当に申し訳ないことに一瞬ファンタジー漫画なのかと思ってしまったほどに……)

 異貌の男と盲目の娘というと、時代劇ではどうしても『快傑ライオン丸』のトビムサシを思い出す――というのはさておき、本作はヒロインの目が見えないことで保たれていた均衡が終盤崩れかけることで、新たなドラマが生まれるのが巧みなところです。
 そしてそこからのラストシーンもまた、漫画だからこそ描けたものと感じます。

『古怪蒐むる人』(柴田真秋)
 シリーズ連載の第三回は、「怪僧墨跡の事」と題して、タイトルのとおり奇怪な僧侶と筆に関する物語。毎回怪異に遭遇する主人公・喜多村は、今回は知人のさらに知人で、能書家の男・水野にまつわる奇譚を聞かされることになります。
 ある日、道で奇妙な僧侶に声をかけられた水野。書の会に出席するのだが、筆に自身がないので手を貸してほしいという僧侶の言葉を、訝しみつつも承知した彼の身には、ある異変が……

 という前半部分だけでもユニーク(類話を読んだことがあるような気もしますが)ですが、後半部分はさらにユニークな展開を見せます。手を貸した結果、僧侶からの「礼」を受け取った水野。その「礼」のおかげを被った彼は、しかし――というわけで、思いもよらぬ皮肉な結末を迎えることになります。
 本作はこれまで、怪異を描きつつもどこかとぼけた、そして皮肉な空気を漂わせた物語を描いてきましたが、今回もそれは健在というべきでしょう。

『凛九郎』(玉彦)
 ほぼ一年に一話のペースで掲載されてきた本作も今回で第四回。元御庭番最強の男・凛九郎が、行く先々で事件に巻き込まれた末に、圧倒的な暴力で敵を粉砕する――という趣向の物語ですが、これまで悪代官一家・古巣の御庭番頭・御家騒動の糸を引く悪人と相手取ってきた彼の前に今回現れるのは、箱根の湯治場を自身番として牛耳る顔役一味となります。

 若い頃に任務で傷を負い、この湯治場に辿り着いたところで子連れの浪人に助けられた凛九郎。久々に来てみれば恩人の浪人は追っていた仇に返り討ちに遭い、その子供は湯女になっていたという状況。そしてこの娘が顔役一味に酷使されているのを知って、彼が黙っていられるはずもなく……
 というわけで物語的には一種の定番シチュエーションであり、クライマックスももちろん凛九郎の暴力が爆発することになります。その意味では意外性はありませんが、凛九郎のむしろ殴り込んだ後の方が淡々としているキャラクターや、顔役を前にした時の独特のセリフ回しは妙に印象に残ります。

 次号は叶精作が新連載『紅と藍(仮)』で早くも復帰。表紙&巻頭カラーは『そば屋玄庵』、特別読切で『玉転師』(有賀照人&富沢義彦)が登場です。

前の号の紹介記事はこちら。


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