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【実写ADVゲームの系譜】やるドラ・ダブルキャストからデスカムトゥルーまで(後編)

本記事は「【実写ADVゲームの系譜】かまいたちの夜から428まで(前編)」の後編です。もし前編をご覧になっていない方は、先にこちらをお読み下さい。前後の繋がりなく「インタラクティブシネマ」に興味のある人はそのまま読み進めて下さい。

ところでみなさんは、インタラクティブシネマというものをご存知でしょうか。

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これも前編で紹介した実写ADVに負けず劣らず、世間一般によく知られていないジャンルです。前編でも述べたのですが、私はこのインタラクティブシネマが、衰退しきった実写ADVというジャンルに、このシネマ(映画)の側から復活を促すのかもしれない、という希望を持っています。

本記事ではインタラクティブシネマの歴史と、日本初の本格インタラクティブシネマ「デスカムトゥルー」に至るまでの歴史を話していきたいと思います。

ゲームで映像をADVする先例

インタラクティブシネマに入る前に、日本で発売されたゲームでありながら映像主体で作られた作品を見ていきましょう。ここで見るのは、「RAMPO」(1995年発売)と「やるドラ ダブルキャスト」(1998年発売)の2つ。

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「RAMPO」に関して、私自身プレイしたことのないゲームを挙げてしまうのは忍びないのだが、映像が用いられたADVの先駆として紹介しておく。1995年、セガサターンで発売された実写アドベンチャーゲーム。ネット上にも情報が少なく、聞きかじりのことをここであまり言ってしまうのもなんなので、興味のある人は調べてほしい。プレイ動画を見る限り、映像をプレイするというようなものではなく、3Dポリゴンで作られた世界の中で、人物を動画で表現しているという表現が正しい、詳しくはこの動画を。

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もうひとつの「やるドラ ダブルキャスト」は、プレイステーション向けに発売された、言わずとしれた名作ADV。こちらは実写ではなくアニメ映像だが、ずっとフルアニメーションで物語が進行する。豪華。内容としてはギャルゲー的で、記憶喪失のボクっ娘、赤坂美月と過ごす映画部での夏休みが描かれる。こう書くととても属性が多いですね。そしてストーリー上の一番の魅力は、美月の…。こちらの方が発売は早いが、「ひぐらしのなく頃に」のような人間のホラーが好きな人におすすめしたい作品

流れる映像に対して、この「やるドラ ダブルキャスト」では選択肢を選ぶことで、物語が分岐する。この点「RAMPO」に比べても、格段にインタラクティブシネマに近いように思われる。しかしインタラクティブシネマと決定的に違う点が存在する。それはQTE、Quick Time Eventという概念だ。

インタラクティブシネマの時代へ

QTE、Quick Time Eventの概念は、先程のダブルキャストから1年後、1999年に発売された「シェンムー」で発明された概念である。ちなみに「シェンムー」はドリームキャスト製のフルCGのアクション・アドベンチャー。ちょうど技術が向上したことで、CGでアクション性の高いゲームがたくさん出てきている時期。QTEは、この技術の向上で可能になったものといえる。

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わかり易い例が、「バイオハザードシリーズ」や「Heavy rain」など。上の写真は、quantic dreamの「Heavy rain」から。これらのゲームは通常の操作(歩くなど)とは別に特別な場面で、リアルタイムのボタン・スティック操作を求められる(例えば上の場面だったら、時間内にスティックを右に倒せば、息子にちゃんばらで勝つ)。この要素がQTEと呼ばれるもの。

時間制限に慌ててしまって失敗すると主人公に災いが降り掛かったり、逆に成功することで違ったストーリーになったり。このゲーム内に沿ってリアルタイムで選択することによって、分岐やフラグを起こし、違ったストーリーを選択させる。現在インタラクティブシネマと呼ばれるものは、映画にこのQTEを導入したものである。

「LATE SHIFT」「ブラックミラー:パンダースナッチ」

ここから一気に現代の話になる。2017年、「LATE SHIFT」はSteamで発売されたインディーズゲーム。公式には「フルモーションビデオの犯罪サスペンスゲーム」とあるが、実写の映画をもとに構成されたゲームであることから、ここではインタラクティブシネマと同等のものとして扱う。

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画像はSteamページから。現在Steamで発売されている実写ゲームの中で、最も代表的なものがこの「LATE SHIFT」である。まるで海外ドラマのようだが、コンピュータゲーム。ただしこの俳優が演技した映像の中に、リアルタイムで選ばなければならない、選択肢(QTE)が表示される。Steamには、同系統の実写ゲームが複数存在し、「THE BUNKER」「COMPLEX」など、評価の高い作品もちらほらみられる。

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名称はどうあれ、映画とゲームの融合が試みられたのはこれの発売された2017年周辺以降である。この「LATE SHIFT」を起点にすこしずつ、映画でゲームするという手法がSteamといったインディーズゲームの世界から、試みられだした

そして、2018年末に配信されたNetflixインタラクティブ映画「ブラックミラー:バンダースナッチ」はインタラクティブシネマのさらなる可能性を感じさせる。この作品はNetflix内で視聴ができる映画、にも関わらず、視聴を進めていくと、以下のような選択肢が発生する。

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時間制限付きで、流れるように物語は進行する。プレイヤーは彼に選択を下し、ストーリーを分岐させる、それも映画の媒体で。そのストーリーも秀逸で、ゲーム製作を行う主人公がゲームと現実の境界を混同してしまうという内容。

ただの映画だったらそれだけなのだが、”私”がゲームとしてそのストーリーに参与するとなるとその意味は大きく変わってくる。これは「映画」と「ゲーム」「主人公”私”」と「画面を見て操作している”私”」が混同され、曖昧になっていく過程と重なるのだ。私の存在をストーリーの中に取り込める、これが映画がゲームの手法によって新しい表現として獲得できる、インタラクティブシネマのさらなる可能性だといえる。

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ストーリーもゲームとしてあまりにもきれいに完成させられている。映画並みの尺の短時間にもかかわらず、ADVとしての本分を詰め込まれており、終始圧倒され続ける作品。ADVゲーム好きで、見たことがない人はぜひこのためにNetflixに入って欲しいくらい。

話を戻す。「LATE SHIFT」「ブラックミラー:バンダースナッチ」両者を見てもらうと分かる通り。インタラクティブシネマは、ゲームの文脈からでなく、映画の文脈からやってきた。そして映画としてゲームの手法を取り入れた。これらの作品は「ゲームを実写にする」のではなく、「映画に選択肢を加える」という発想が中心にあるものである。そして「映画に選択肢が加わる」とはどういうことか。それは映画の物語とは異質な”私”を、物語に組み込んでしまうということである。

映画に対してゲームの手法を加えること、それによって物語の中に”私”の存在を顕在させること。映画のキャストに私が加わってしまうことで、それはただの映画だったものとは、違った効果を生み出す。それがインタラクティブシネマが新たな物語表現の手法として持つ大きな可能性である。

初の日本製インタラクティブシネマ「デスカムトゥルー DEATH COME TRUE」

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そんな中、日本でもインタラクティブシネマ型のゲームが発売された。「デスカムトゥルー」である。シナリオ兼ディレクションは、ダンガンロンパシリーズのシナリオを務める小高和剛。彼のスパイク・チュンソフトからイザナミゲームズへの独立後初となる作品である。PS4版の発売を待ちたいのでまだしばらくはプレイできない。しかし私はこのゲームの評価以前にまず、日本からこのインタラクティブシネマ型のゲームが出てくれたこと、そして再び実写のADVを新作ゲームとして遊べることに喜びたい。

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小高和剛がシナリオを務めること、スパイク・チュンソフト離脱後初のゲームということや、主演助演に豪華俳優陣を置いていることで、現在ADVというジャンルにしてはこのゲーム、かなり注目されている。

私はもちろんこのゲームそのものもとても楽しみだ。しかしこれまで一緒に見てきたとおり、日本の実写ADVは現在まったくタイトルが作られず市場は衰退しきってもはや消滅している。私はもう一度、実写ゲームを通して得た感動を得たい、そしてその感動をより多くの人にも知ってほしい。願わくは、このゲームがきっかけとなり、様々なところでこの実写とゲーム、ゲームと映画の融合的なコンテンツの面白さが知られてくれたら、それによって様々な人が作品を手にとって、再び刺激的なゲームが沢山作られてくれたら。むしろその気持ちの方に強く、期待を込めながら、この記事を書いています。

この記事がきっかけであなたも、普段知らないけれどたくさんの素敵なゲームを知ってくれますように。案外面白いですよ、知らないものも

後編・インタラクティブシネマサイド終了、余談

改めて書きますが、これは単体でも読むことができますが一応後編です。前編では、現代のインタラクティブシネマに至る更に前の実写ADVの流れを追っています。よろしければこちらの前編もどうぞ。

加えて、本記事中ではNetflix「ブラックミラー:バンダースナッチ」に寄って話をしたのですが、Steamで発売されているインタラクティブシネマをもっと知りたい方は、こちらの記事(外部サイト)が参考になるので、おすすめです。

以下余談、というよりも本記事の補足です。

別記事になりました。

おわり

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