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【映画】「ドクターX」もう続きは致しません

『劇場版 ドクターX FINAL』を鑑賞した。

※ネタバレにご注意ください。 #ネタバレ


映画の感想

『Doctor-X 外科医・大門未知子』は、2012年からテレビ朝日系列で放送が始まった医療系ドラマで、2021年までにシーズン7まで制作された人気シリーズだ。

スピンオフドラマとして『ドクターY〜外科医・加地秀樹〜』も作られたが、映画化は今作が初めてだったとは意外であった。そして、映画タイトルにFINALが付いていることからもわかる通り、一連のシリーズの集大成ともなっている。

多分これが最後の作品だと自分は受け取った。

物語は、医療界のトップに君臨する東帝大学病院やその関連病院の外科医局が舞台となっており、患者そっちのけで権力争いや保身に走る医師たちの様子がコミカルに描かれている。

そんな彼らと対峙し腐り切った医学会を痛快にぶった切るのが、米倉涼子演じる大門未知子だいもんみちこだ。どこの病院や医局にも属さず叩き上げの腕だけで勝負するフリーランスの女性外科医である彼女は、ドクターXの異名を持つ。

医療系ドラマと言えば『白い巨塔』が有名であるが、『ドクターX』では、その病院の権力の象徴である白い巨塔での出来事が徹底してデフォルメされコミカルに描かれているのが特徴だ。

白い巨塔の代表格が西田敏行演じる蛭間ひるま院長だ。権力欲とお金への執着心の塊だが、憎めない性格の持ち主でもある。

今作が西田敏行の遺作となってしまったが、情けない役やコミカルな演技をやらせたら右に出る者がいない当代随一の喜劇役者だった。

西田敏行の演じた芝居では池中玄太や浜ちゃん役もよかったが、『ドクターX』での蛭間ひるま院長役も当たり役だったのではないか。

彼の才能が存分に発揮されていたと思う。

もう一人の重要な役どころである岸部一徳演じる神原名医紹介所の神原晶かんばらあきらとの毎度お決まりの掛け合いもドラマの見どころであった。

神原の「メロンです。請求書です」のセリフで渡された高額な請求書を見たあとの蛭間ひるま院長のリアクションは、何度見ても面白い。大金ゲットしたあきらさんがスキップで小躍りしながら立ち去る姿も大好きだ。

この二人の太い演技力がなければ『ドクターX』はここまでメジャーにはなっていなかったことだろう。

蛭間ひるま院長の部下役では、遠藤憲一演じる海老名えびな勝村政信演じる加地かじ鈴木浩介演じる原の三人は外せないだろう。

海老名えびなは上には絶対に逆らえない性格で何なら靴でも舐めてしまうくらいの腰巾着ぶりだが、その努力(?)はいつも報われることなく貧乏くじばかりを引いている。遠藤憲一はイカツイ顔つきながら情けない芝居がよく似合う役者だ。

加地かじは上の立場の者には媚びへつらい、下の立場の者には暴言を吐くわかりやすい性格だ。大門未知子だいもんみちこに対しても「フリーランス?バイトみたいなものだろ?」とマウントを取ろうとするが、いつもやり込められている。根はいいヤツなのかもしれない。

原は、いつまで経っても大門未知子だいもんみちこに名前を憶えて貰えない影の薄さが売りだ。

医局の人々の蛭間ひるま院長への返事はなぜか「御意ぎょい」だが、戦国時代のような時代錯誤感が白い巨塔を象徴しているようで秀逸に思う。

大名行列のように医局員を大勢引き連れて行進する院長回診も健在だ。

蛭間ひるま院長が、時々部下に対して「御意ぎょいは?」と催促してしまうシーンも面白い。悪役が似合う俳優は数多いるが、この芝居を演じることができる俳優は西田敏行しか思いつかない。

本当に惜しい人を亡くしたものだ。

大門未知子だいもんみちこの名セリフの一つに「致しません」があるが、これは医局員が皆やらされている諸々の雑務を「一切致しません」とぶった切るときのセリフだ。要するに、医師免許がなくてもできる仕事は致しませんというのがフリーランスたる大門未知子だいもんみちこの雇用条件なのだ。

一切のしがらみない立場から忖度なしで言い切るその姿は、痛快この上ない。

彼女の名セリフとしてもう一つ外せないのが「私、失敗しないので」だ。

難手術に挑もうとして止められたときとか、不安な患者を前にして、スラッとした長い脚を伸ばして挑発気味に言い放つその姿は何ともカッコいい。

実は今回の映画で、なぜ大門未知子だいもんみちこがそのセリフを言うのかが解明されている。

小さい頃、大門未知子だいもんみちこは内気な子だった。医学生のときも解剖実習で気絶してしまうほど気弱だった。

ペルー(?)で恩師の神原晶かんばらあきらと出会い、戦乱の中数々の難手術をこなして腕を上げていった。自信満々に見える彼女であるが、実は今でも手術をするのは怖いという。

だからこそ「私、失敗しないので」と言い切ることで、自らを鼓舞していたのだ。同時にそれは患者を安心させる言葉でもあった。

例え誰であろうとも、目の前に命がある限りどんなことをしても助ける。今作でもそれを証明するようなエピソードが描かれていた。

そんな思いが「私、失敗しないので」には込められていたのだ。

『ドクターX』のヒットは、一般には大門未知子だいもんみちこの歯切れのよいセリフが閉塞感の漂う世の中で受けたことによるとされている。

しかし、ドラマに厚みと面白さを付加したのは、間違いなく脇役の蛭間ひるま院長とあきらさんの存在であった。彼ら二人が欠けたらこのドラマは存在しなかっただろう。

その意味では、蛭間ひるま院長を演じた西田敏行の逝去とともに『ドクターX』は終わったのだ。

「もう続きは致しません」ということなのだろう。


※2024年10月17に永眠された俳優・西田敏行さんのご冥福をお祈りいたします。

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