【作家】それでもあなたは目指しますか?
noteコンテスト
言葉はコミュニケーションのツールである。
誰かに何かを伝えたいことがある限り言葉は無くならない。そして、その伝えたい思いの強い人が、職業としての作家やライターを目指すのだろう。
先日書いたnoteコンテストの記事には、自分のnote記事としては異例とも言えるたくさんのスキをいただいた。それだけnoteコンテストは関心を集めているようだ。
記事を書いた後に、藤原華さんの他の記事も読んでみた。
そこには、文章を書く時には、正直そこまでするんだ、そこまでしないとダメなんだと感じるような驚きの内容が書かれていた。記事を読んで衝撃を受けた読者も多いのではないだろうか?
しかし冷静になって考えてみれば、編集者とは本を売るため、記事を読んでもらうためのプロフェッショナルなのだ。
資本主義という利益を追求する競争社会において編集者を仕事としているのであれば、そこまでやるのはある意味当然のことなのかもしれない。
編集者に限らず、会社勤めで創意工夫を求められる職種であえば、誰もがベストを尽くすプレッシャーに日々晒されながら仕事をしているのではないだろうか?
その意味では、編集者として作家(の卵?)の作品に対して厳しい態度で臨むのは当然のことなのだ。
藤原華さんのnoteコンテストについては、賛否両論含めて多くの意見が発せられたが、これは作家やライターを目指す人たちが多いことの証左でもある。
上記記事を書くことで、クリエイターたちの本気度を垣間見ることができたのは貴重な体験であった。
かくいう自分もプロフィールでは、作家を名乗っている。
もっとも、自分はKindle本を1冊出版しただけのしがない作家に過ぎないのだが…。
そんな自分でも、本を出版したときには「これで売れっ子作家になったらどうしよう…サイン求められるかな?」などと要らぬ妄想をして、ニマニマしていたのは事実だ。
現実には、そのような未来が訪れることはなかったが…。
作家という肩書には、人を惹きつけ狂わせるような魔力が秘められているのかもしれない。
この記事では、多くのクリエイターたちが夢見る作家やライターという仕事について考えてみたい。
作家デビューは狭き門
作家になる道筋としては、下記ルートが知られている。
〇〇新人賞受賞 → 作家デビュー!
だからこそ、noteのクリエイターたちもデビューの足掛かりとすべく、各種noteコンテストに精力的に応募しているのだろう。
しかし、このルートを辿って作家デビューまで漕ぎつけるのは、なかなかに困難な道のりのようだ。
作家デビューに関する統計データの類は見つけられなかったが、下記インタビュー記事で興味深い内容が語られている。
インタビューを受けているのは、兼業作家の八木圭一さんである。
八木圭一さんは、2013年に宝島社第12回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞し作家デビューしている方だ。このインタビュー時点では、会社員を継続し兼業作家として活動している。
その理由として、次のような業界事情を語っているのだ。
デビュー人数:年間に200人
5年後の継続率:5%以下
必死の思いで各種コンテストで大賞を受賞したとしても、実際に作家としてデビューできるのは、年間200人しかいないのだ。
比較対象として相応しいかは不明であるが、最難関と言われている東京大学の入学定員は年間3,000人ほどである。つまり毎年3,000人の東大生が誕生している計算だ。
それに対して、作家デビューできるのは毎年200人と1桁人数が少ない。
作家になるのは、東大に入るより15倍も狭き門である!
しかも、5年後も継続して作家を続けられる確率はたったの5%、すなわち200人デビューしたとしても10人しか残れない厳しい世界なのだ。
これは、デビュー作は評価されても、2冊目以降が振るわないケースが大半だということを意味しているのだろう。
八木圭一さんも、「新人がすぐに食べていけるほど、この世界は甘くはありません」とコメントしている。
この数字だけ見ると、「作家とは普通の人が目指して成れる職業などではなく、特殊な才能を有する者のみに与えられた天命」なのかなという気がしてくる。
上記は小説家という枠に限った話で、劇作家やコピーライター、エッセイストなどに裾野を広げて考えれば、もう少し間口は広がるのかもしれないが、それでも狭き門であることに変わりは無さそうだ。
そういう状況がわかっていても作家やライターに成りたい人が多いのは、彼らには「どうしても伝えたいことがある」からなのかもしれない。
文筆業を2軸で考える
作家やライターという仕事は、細かく分類するといろんな種類がありそうだが、ここでは自分の頭の中をざっくりと整理するために、2つの軸を設定して考えてみたい。
プロか?アマか?
1つめの観点は、プロフェッショナルか?アマチュアか?の違いだ。
プロフェッショナル:報酬あり
アマチュア:報酬なし
外面は同じように文章を書いていても、報酬の有無により大きな違いが生じる。
報酬が無ければ自由気ままに書けるが、報酬を得ていればまったく自由に書くわけにはいかなくなる。
お金の出し手はお客様であり、客商売において「お客様は神様」なのだ。
文筆業におけるお客様とは、仕事を発注する出版社やその先に存在する読者、スポンサーだ。文筆業といえども、お客様の意向を無視した活動は許されないのだ。
商業出版においては、お客様のリクエストや制約に従った内容の文章が当然ながら求められる。
小説などにおいては書き手の自由度がある程度担保される気もするが、それでも売れない作品は商品として成り立たない。大御所作家でもなければ、編集者を通じた提案・指導が適宜なされると考えるのが普通であろう。
お金が絡んでくる以上、プロフェッショナルとアマチュアでは、書く動機も異なってくる。
プロフェッショナル:他者の為
アマチュア:自分の為
他者の為に書きたいという気持ちの強い人は、プロフェッショナルとしての適性が高いと言える。逆に、自分の為に書きたいという気持ちばかりが先行してしまう人はアマチュアで終わる可能性が高くなってしまうだろう。
クリエイターにとって書く動機はとても重要だ。プロフェッショナルとアマチュアとを分け隔てているのは、誰のために書くのかという動機の違いなのかもしれない。
書く動機を分類の第1の軸とする。
作家か?ライターか?
2つめの観点は、作家か?ライターか?の違いだ。
ある人は、作家とライターの違いを、取り扱う題材の所在に着目して、次のように定義している。
作家:自分の内
ライター:自分の外
確かに作家の題材は自分の内にあり、ライターの題材は自分の外にありそうだ。「なるほどな」と思う。
これをもう少し押し進めて考えると、記事の内容に基づき、次のように言い換える事ができそうだ。
作家:主観的
ライター:客観的
作家は自分の内面に従い、徹底して主観的な内容の小説やエッセイを書く。他方でライターは取材や調査に基づき、徹底して客観的な内容の記事を書く。
こう考えると、作家とライターは似ていて非なる職業と言えるのかもしれない。
主観と客観の違いを分類の第2の軸とする。
図で表現すると
上記で2つの分類軸を設定した。
第1の軸:動機 他者の為?自分の為?
第2の軸:内容 主観的?客観的?
これを図にして表すと次のようになる。
縦軸は書く動機、横軸は記事内容の違いを表している。
この図によれば、文筆業は4つのカテゴリーに分類できる。
プロ作家:主観的・他者の為
プロライター:客観的・他者の為
アマチュア作家:主観的・自分の為
アマチュアライター:客観的・自分の為
まとめると、内容が主観的=作家、客観的=ライターであり、動機が他者の為=プロ、自分の為=アマチュアとなる。
自分の立ち位置
上図を用いて、自分のnote記事の立ち位置を考えてみる。
まず、純粋に個人的な想いを綴った記事は主観的なエッセイ風の記事であり、作家に分類されるだろう。
気になったことを調べてまとめた記事も書いているが、これは客観的な内容であり、ライターに分類されそうだ。
しかし、そのような類の記事であったとしても自分の性格上それでは飽き足らず、独自の視点で深堀したり、自分に当てはめて考察し自分の見解を述べたりしているから、かなり主観的な内容も含まれた記事となっている。
そのため純粋なライターが書いた記事とは言い切れず、見方によっては集めてきた情報を素材にしたエッセイなのだと解釈することができるかもしれない。
けっきょく主観に基づいて書いている自分の記事は、形態によらず全てエッセイなのかもしれない。
書く動機としては、人に伝えたいという思いは強いが基本的には自分の為に書く文章になっている自覚がある。
他者の為に書く文章とは、一言でいえばサービス精神に溢れた文章のことだろう。
読者を飽きさせない読者ファーストの工夫がこれでもかと盛り込まれた文章に仕上がっているかと自問したら、その自信はない。
自分の文章は、よくいえば自由気まま、悪く言えば独りよがりの自分ファーストの文章になってしまっている。
そのことが自分がプロには成れない大きな要因の1つだと考えている。
もっとも、これは自分ファーストの文章がダメだということを必ずしも意味していない。
プロには成れなくても、楽しく自分ファーストの文章を書ければ幸せという考え方もあるからだ。
自分には読者ファーストの文章は書けそうにないが、書いたnote記事でスキを貰うのは大好きなので、少しだけ他者の為に書く文章を意識しようと思う。
自分のnote記事の立ち位置は、アマチュア作家とアマチュアライターに跨った領域にあり、ややアマチュア作家寄りに位置すると思われる(下図)。
あなたのnote記事は、現在どの立ち位置にいるだろうか?
プロフェッショナルを目指している人は、読者ファーストの文章が書けているだろうか?
自分の現状を客観視することで、今後向かうべき方向性が見えてくるかもしれない。
文筆業の実態
最後に、文筆業に従事する人たちの実態について見ておこう。
プロ作家やプロライターの従事者は、この日本に何人存在しているのだろうか?雇用形態は?収入はどの程度なのであろうか?
従事者数
プロ作家やプロライターの従事者数は、総務省の国勢調査の結果より知ることができる。
国勢調査では職業を細分化して人数を調査している。文筆業は次の分類項目(大分類 → 中分類 → 小分類)に該当する。
小分類では「著述家」と「記者,編集者」の2つのカテゴリーに分けて集計されているが、定義を見ると、前者がプロ作家、後者がプロライター及び編集者に概ね対応しそうだ。
著述家には、小説家の他、シナリオライター、エッセイスト、コピーライター、翻訳家、評論家など多様な創作者が含まれる。関連業界全体の人数と捉えるべきであろう。
記者には、コンテンツライターの他、新聞記者、雑誌記者、通信記者など報道機関に勤務する人も含まれている。こちらも関連業界全体の人数であり、編集者も合算して集計されていることには注意が必要である。
下のグラフは、文筆業の従事者数のトレンドを示している。意外にも、40年前から大きな変化は見られないようだ。
直近の2020年調査は、次の結果となっている。
文筆業の従事者数の合計数は114,060人で(編集者含む)、業界全体ではかなりの数にのぼる。
日本の人口は126,146,099人なので、文筆業の従事者は約1,100人に1人の割合であることがわかる。
雇用形態
雇用形態を見ると、著述家は個人事業主(フリーランス)が78%と多いことがわかる。
プロ作家は特殊技能を要する職業であり、社員として雇用するよりも、必要に応じて外注する方が終身雇用が前提の日本企業にとっては使い勝手がよいのであろう。
企業としては、需要が無くなったら発注しなければよいのだ。
それに対して、記者・編集者は81%が雇用者・役員で組織の人間となっており、著述家とは真逆の傾向である。
プロライター及び編集者は、適性があれば経験により技能が向上する職業と考えられ、企業にとってもノウハウを有する人材を社員として内部に抱えておいた方が有利なのだろう。専門性の高い記事や、単価の安い記事のみ外注に出しているのではないかと推察する。
収入額
プロ作家やプロライターの収入額は、千差万別だ。
例えば、本の印税収入を考えた場合、売れっ子作家であればそこそこの収入(売上)が期待できるだろう。
一方で、WEBライターの報酬はあり得ないくらいに安いという話も聞く。
文字単価は経験年数などで変わるようだが、執筆に要する時間を考えて時給換算したら、コンビニのバイトとどちらがマシかというレベルだ。
本業としては生活が成り立ちにくいので、WEBライターは主に副業の人が従事しているのかもしれない。
プロライターとして生活するためには、文字単価いくらの世界で戦うのではなく、専門性を高めたり、取材を伴うまとまった仕事を受注する戦略が必要のようだ。
上記は、1件あたりの報酬額であるが、年収としてはどの程度稼げる職業なのだろうか?
文筆系のフリーランスの年間収入に関する興味深い資料がある。
一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会が発行している「フリーランス白書2019」だ。
下記は、文筆系フリーランス219人の年間収入(売上ベース)に関するアンケート結果である。
ここで言う文筆系には、ライター、イラストレーター、編集者、翻訳、通訳が含まれている。
文筆系フリーランスの年収は、200万円未満が32%、400万円未満が58.9%である。1000万円以上稼いでいる人もいるが、その比率は3.7%と少ない。
企業の雇用者として活動するライターの懐事情は別にして、文筆系フリーランスの年収はたいへん厳しい状況にあるようだ。
それでも作家を目指しますか?
この記事では、作家やライターという仕事について考えてみた。その中で、夢のある職業である一方で、厳しい実態も見えてきた。
ここまで読んだあなたに問いかけてみたい。
「それでもあなたは目指しますか?」
もし、その答えが「YES!」なら、自分は全力でエールを贈ろうと思う。
※この記事は、作家やライターという仕事に関する個人的な見解を述べたものです。これが絶対的に正しいという主張ではなく、正解はクリエイターの数だけ存在すると考えています。
※この記事は、個人の見解を述べたものであり、法律的なアドバイスではありません。関連する制度等は変わる可能性があります。法的な解釈や制度の詳細に関しては、必ずご自身で所管官庁、役所、関係機関もしくは弁護士、税理士などをはじめとする専門職にご確認ください。
また本記事は、特定の商品、サービス、手法を推奨しているわけではありません。特定の個人、団体を誹謗中傷する意図もありません。
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