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第2回 入学前説明会など


大学あるある話(エピソード)


 合格通知をもらい、所定の入学手続きを済ませたら入学式に出席するまで何ら予定がないということはない。例えば総合型選抜試験といった形での選抜試験の場合は、合格者が本学でやっていけるだろうという保証はあったとしても、本人に基礎学力があるという保証はない。そのため理系の大学では通信制の教育支援企業とタイアップして高校の教科の総復習をするための教材を送りつけたりすることが少なくない。また、文系理系を問わず最近では学事暦の関係から入学式前に履修登録等の説明会・ガイダンスを実施するところが一般になっている。
 今回は、そんな入学前説明会等についてDくんとEくんに登場を願い、彼らから教訓を得ることにする。

Dくんの場合「合格通知書の合格は何の意味がある?」

 「合格したのに入学するまでに送り付けて来た通信教材で高校数学を復習しておくようにというのは問題じゃないんですか?」とは開口一番のDくんの言葉である。このDくんは、ある理由から高校を卒業した後、都内の飲食店に就職すると同時に社会人入試の形(編入学試験の受験)で大学合格を勝ち取った私の教え子である。彼の志望理由書の指導がきっかけなのだが、合格報告後も時々報告を受けていた。Dくんによれば、学費に含まれているものであり、編入学後に授業に付いていくために必要な準備学習であるとの説明をT大学教務課から受けたとのことであった。
 志望理由書の指導を始めた当初の彼の国語力(特に文章力はなかった)は合格に程遠かった事、化学は好きでのめり込めるがその他の教科は全くダメだと聞いていた事を想起すると、大学の学びを修得するための基礎学力があるとの判断が困難だったと強く推察される。その一方でそのDくんのその後の成長について編入学試験を通して合格と判断したのだから、大学の学びを修得できるとの評価・期待も得られたという事でもある。
 では、合格通知書を受け取った際に、Dくんは、この通知書の意図をどのように理解しておくべきだったのだろうか。

Eくんの場合「聞いてないのに、ひどいじゃないですか」

 入学式が無事挙行され、第2週目の授業日程が終わりかけていた時に私の研究室に飛び込んできたのがEくんであった。ドアのノックもあったかどうかも定かでないぐらいに彼は慌てて入室し、私を見つけるやいなや、「履修ガイダンスがあったなんて聞いていないのに、教務課から履修登録ができていないって連絡がありました。これ、どういう事ですか!!」と怒鳴った。どうやらEくんは入学前に大学側が郵送した書類一式を確認していなかったらしい。通常、この郵送物の中には学費支払いに関する手続等の説明だけでなく、当年度の学事日程や学内外の施設利用の案内等が同封される。これは小・中・高いずれでも同様だが、全てを保護者任せにしてきた子であれば、有り得る挙動である。
 Eくんの場合、更に良くなかった点として、ズルい先輩に出会ってしまっていた事がある。ここにいうズルい先輩とは、第1回の授業は「ガイダンス程度」だから出席する必要はないし、面倒だと思う手続きは放っておいたら「大学側がやってくれるから大丈夫」とアドバイスし、「困った事があったらいつでも相談においで」と頼もしいセリフを残したにもかかわらず、いざ本人が困った際に音信不通になる先輩をいう。慌てて連絡をとったが反応が無いので私の所へやって来たという次第である。
 彼が気づいて自分で判断しなければならなかった事は何だったのだろうか。

所見

 大学入試の方法は一段と多様化している。いわゆる大学共通テストを利用して大学入試を実施する「一般選抜」だけでなく、指定校推薦や公募推薦といった推薦方式を採用する「学校推薦選抜」、高校時の成績や小論文、面接時の評価を総合して入学の可否を判断する「総合型選抜」のほか、社会人や帰国子女向けの「特別選抜」がある。
 一般選抜は毎年1月に実施される大学入学共通テストを受験し、その得点をもって2月から3月にかけて実施される各大学の個別学力検査(2次試験)を受験することによって基本的には合否の判定が出る。一方、学校推薦選抜は高校による推薦書や要求される内申点を満たす事で、大学入学共通テストの受験を免除すなわち、基礎学力については高校側が保証するという試験である。また、総合型選抜とは従来アドミッションズ・オフィス入試(AO入試)と呼ばれていたもので、学校推薦選抜と異なり、受験生の基礎学力についても大学側が判断するという試験である。基本的に学問を学ぶために必要な知識、技能、思考力、判断力および表現力があるかどうかを査定することになっており、換言すれば受験生の可能性を評価する大学入試の方法であると言える。
 次に入学前説明会は入学準備説明会とか入学前準備説明会とかと呼ばれることもある。そこでは基本的に入学前の準備、生協などの学内の施設説明のほか、在学生の代表等からキャンパスライフの実際が紹介されたりする。新入生およびその保護者にとっては、これらの情報を整理して入学式そしてその後の大学生活に臨むことになる。コロナ禍においてオンデマンドで実施したり、録画視聴に代替したりという対応をしていたこともあってか、一部の大学では資料一式を郵送したり、ペーパーレスの推進の一環としてメール送付に代替するところが増えている。
 同時に懸念されつつあることは、若い世代になればなるほどスマートフォンの小さな画面で全てを処理する傾向が高まっていることである。簡単に言えば、大きなディスプレイをもつパソコンも使わないし、紙・ペーパー資料には見向きもしないうえ、他人の話よりも身近な友人知人の話に依存する人が増えているということである。前者(ディスプレイの大小の問題)は一覧できる情報量の大小に直結する問題であり、それを大学側が担保すべきか、それは新入生・保護者側が担保すべきかについて早急に解決する必要がある。一方の後者(自分で考えない問題)は従来から懸念されている問題であり、新入生一人ひとりが、自分の足で一歩踏み出す勇気が持てるかどうか。保護者が子離れする勇気が持てるかどうかというふうに自律を求めていた頃の方針を維持するか、それとも「学生はお客様」「学生様」として大学側が瀬局的に支援していく方針へと転換するかの岐路に立っている。

ポイント

 Dくんは合格通知書を得た後、一般選抜の合格者と同様の学生として扱われると想像していたわけだが、この通知書をどのように受け止めるべきだったのだろうか。受け入れる側の立場から言うと、基本的に一般選抜合格者以外は高校までの基礎学力を十分に修得しているとは考えていない。なぜなら、学んだ事を正確に回答する能力があるかどうかを判断するのは一定の時間を与えてその時間内に回答させる教場試験でなければ評価することが困難だからである。
 現在の大学が交付する合格通知書については、一般選抜の場合を除き、ほぼ共通している。この通知書をつうじて合格者に伝えているメッセージは、本学において学問を学ぶ素地があることを証明するというだけである。ここがDくんの押さえておくべきポイントであった。なお、本人の名誉のために補足しておくと、彼は留年することなく無事に学士号を取得したうえ、大学院へ進学し修士号を得て就職した。もちろん入学前の通信教材をこなして基礎学力を定着させたからこそ無事に大卒となれたわけであるし、キャンパスライフの中で学問に触れたからこそ大学院への進学機会を勝ち取れた。
 今後、「本学において学問を学ぶ素地があること」を証明するだけに飽き足らず、入学前に高校までの基礎学力の定着・振り返りを要求する大学は増えるかもしれない。あるいは、特定の学問にいたっては専門書の読了を求めたり、学外体験を求めたりといったこともユニークな取り組みとして出現するかもしれない。いずれにせよ、高校までの基礎学力の獲得という視点から、大学側の提案に納得できるかどうかがポイントであろう。
 Eくんは、いわば入学前説明会をすっぽかし、大学の先輩の甘言を信じ込んで履修登録をし忘れるというチョンボを犯した。Dくんが自分で判断しなければならなかった事は何だろうか。基本的にはやることをやっていないDくんの「ずぼらな性格」が災いしたと言わざるを得ず、やることはやる程度のずぼらな性格に直す必要がある。余談であるが、面倒な事を後回しにする癖がある人も同じく要注意である。面倒な事は少し後回しにする程度、その日にできる事はその日の内にやる程度に直す必要があろう。
 そのうえでのポイントは、大学には様々な大学生が存在することを知り、自分はどうすべきかを真剣に考える、ということであろうか。例えば、歌手である故高石ともやの歌に『受験生ブルース』がある。その歌詞の一節を引用しておこう。

マージャン狂いの大学生
泥棒やってる大学生
八年も行ってる大学生
どこがいいのか大学生

高石ともや『受験生ブルース』より

 その後、Eくんは一度、私の研究室を訪れて来た。訪問理由は志望理由書の添削であった。話を聞くと、都内の私立大学が実施する3年次編入をつうじて学歴ロンダリングをしようと計画しているとのことで、その志望理由書を見て欲しいというのである。私が赤ペンを入れたところは3カ所あった。第1に「S大学は不親切で自分のやりたい事をサポートしてくれなかった。貴学のホームページを見ると学生主体の学びをサポートすると書かれていたので志望した。」という部分に下線を引き、読む人はどう思うか?とコメントを付けた。そして第2に、「就職実績を見るとFラン大学と比べものにならず、自分の希望する職種に就職できると期待できるから志望した。」という部分を囲み、無意味であると書き、第3に「自分でどうすればよいか分からないときに答えをくれる期待が持てる貴学への進学を志望する。」という部分に二重線(=削除の意味)を引き、志望とは言えないとコメントを付した。Eくんが先ず学ぶべきは、大学という空間がどんな空間なのかだろうと思う。

タスク・課題

 合格通知書を得た皆さん、皆さんには次年度から大学生になる資格がある。同時に、今回のエピソードを読んで一抹の不安を感じた人もおられると思う。何をどうしたら良いのかと右往左往している人もおられるかもしれない。そのため、総合型選抜試験などの面接時に質問を受けた際、回答している私のテンプレートを披露しておくことにしたい。
 まずは自分が高校時代に嫌いだった教科の教科書を再度読んでおくぐらいはしておこう。それさえ嫌ならば、直近の大学入学共通テストで出題された問題にチャレンジしておこう。全国紙の新聞であれば同テストの翌日に回答付きで掲載されているから、最寄りの公立図書館で確認できる。
 次に、高校時代にやり残した事で、大学に入学するまでにできる事はやっておこう。なぜなら、高校生は二度とできないからである。なお、前述したように大学側から通信教材などが送られてくるかもしれない。そうである場合は是非、変な抵抗はしないで粛々と対処しておいて欲しい。
 最後に以上のタスクを完了してもなお不安が残るときは、ニュース時事能力検定(N検)の試験対策に取り組んでみよう。N検はニュースの読み書きをつうじて現代社会に生きる人間として求められる基礎能力を評価する試験であると私は考えている。ちなみに高校生であれば、3級、準2級、2級が受験対象の目安とされている。
 一方、入学前説明会において提供される情報量は膨大であるから、その全てを確認せよというのは困難であろう。そのため最低限次の3点は確認し、自分のスケジュール帳に書き留めておいて欲しい。
 第1に、1年間の学事日程である。例えば世間的には祝日であろうとも通常授業が実施される場合がある。各種の奨学金制度を利用しようとする場合はその申請締切などの日程も忘れずに書き留めておくことである。
 第2に、履修ガイドである。4年間という大学生活の中で自分が取得しなければならない科目について把握することは当然であるが、同時に現時点でその履修をするために1週間の日課表がどのように埋まっていくのかを趣味レーションしておくことをおススメしたい。必ず出席しなければならないコマの見通しが立てば、余暇の過ごし方を検討しやすくなるからである。
 第3に、BYODについてである。大学学部によっては推奨するパソコンのスペックであったりが示されている。大学推奨パソコンをおススメする気は毛頭ないが、そのスペックを満たすパソコンの要否および手配の見通しはつけておこう。ちなみに文系の大学学部であれば、高いスペックが要求されることは少ないので、OS直結のシンプルな構成の端末を私はおススメしている。WindowsOSであればSurfaceシリーズ、MacOSであればMacbook、ChromeOSであればChromebookというふうになり、基本的には汎用性の高いWindows端末の利用を前提に進められることが多いように思う。

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