地域まちづくりを覚醒させる7システム
はじめに
2024年2月18日、建築士会主催「地域まちづくりサミット2024―愛知のまちづくりの現状と課題」が開催された(註1)。三矢は、全体進行とパネルディスカッションのモデレーターとして参画する栄誉を得た。事例報告では、有松(名古屋市緑区/歴史的街並み、伝統産業)、錦二丁目(名古屋市中区/エリアマネジメント)、豊橋(リノベーション)、幅下(名古屋市中区/歴史的建物活用)の4つがあり、その後100分におよぶ壮大なパネルディスカッションが展開した。当日、三矢が総評としてコメントした内容の概要を以下、備忘録的に記述しておく。
7つの専門システム
豊橋の黒野さんが報告の中で、例えば芸術祭を街として受け入れる際「人々が集い、建物を掃除する(使える状態にする人、クリーナー)」「建築士がアーキテクチャとして整える(耐震他)」「インストーラーが舞台を作る(壁がないところに壁を用意して、コンテンツを受け入れる準備をする)」「アーティストが作品を設置する(作品などコンテンツを制作、提供する)」の4ステップがある、という指摘をした。あわせて黒野さんによると「アート作品を受け入れるのも、テナントを受け入れるのも(商店街としてコンテンツを受け入れる立場からすると)基本的にその流れは一緒、とのことであった(アーティストもテナントさんもコンテンツを供給する人、サプライヤーである)。このフレームワークを基軸として、パネリストらと協議を重ねる中で、この4ステップのメインシステムを補完、強化、促進するサブシステムが3つ存在することが明らかとなった。3つのサブシステムとは以下の通りである。
第一に「カスタマー(顧客)」の存在である。アート作品を見にくるお客さん、あるいはカフェなどのテナントを訪れるお客さん、さらには住民として「住む」というコンテンツを営むお客さん、ワークスペースとして「仕事をする」というコンテンツを営むお客さん、いずれにせよ、そこに発生するコンテンツを顧客として消費し、お金を払ってくれる人がいないと上記のメインシステムは起動しないし、持続可能でない、との指摘があった。その上、このカスタマーの中でも愛を持って常連的に関わってくれる顧客は、上記メインシステムのうち「掃除をする人」として巻き込んでおくことが有効である(クリーナーはカスタマーになりうる)。
第二に「事業化する人(プロデューサー、ディレクター、プロモーター)」の存在が有効である。これは不動産事業を経営するセンスという見方もできる。昨今の若手建築家にもこうしたセンスを発揮する例が見られるが、一般的とまでは言えないため、これを建築士の役割として決めつけてしまうのは危険であろう。むしろ文系出身者や不動産事業者といった、建築士との連携や協働が期待される別の専門家の登場があることでメインシステムが生き生きと展開、推進可能となる。
第三に「空き家になることを察知する人、社会的な価値ある建物を察知する人(センサー)」の役割も重要である。パネリストらによるとそれは地域役員かもしれないし、ガス屋さんかもしれない。新聞記者かもしれないし、研究者かもしれない。様々な立場の人が「あの建物をどうにかしなければ!」と状況をキャッチし、アラートを鳴らすセンサーの役割を果たす人がいてこそ、地域社会資源としての建築ストックが見事に機能する物語が始まる。
以上のように、メインシステムとして「クリーナー」「アーキテクト」「インストーラー」「サプライヤー」の4つがあり、これを補完・強化・促進するサブシステムとして「カスタマー」「プロモーター」「センサー」の3つがあることを理解することが肝要である。
「地域まちづくりの相談先」の必要性
こうした7つの専門システムが十全に機能することにより、都市(地区)は生き生きと再生、再創造されていくのであるが、改めてパネリストの皆さんに地域まちづくりの課題を問うたところ、有松の中村さんは「相談する先が欲しい!」との問題提起をしてくれた。自分たちは絞りという伝統産業を守り育むことと歴史的街並みを守り育むことを同時並行で進めてきた。実際に有松は1973年に有松まちづくりの会を発足し、当時のスクラップアンドビルドの風潮に抗い、良いもの、本物を守る運動を起こし、継続してきた。そこから半世紀が経ち、地域住民の中にも歴史的景観を守り、地域の個性や歴史、文化を大切にしていこうという意識を育んできたものの、相続税など各種の社会制度により「今住んでいる方が亡くなった先に、街並みを守り続けていくのは困難(この50年で、歴史的景観は半減している)」であり「高い専門性と第三者的な視点で、地域まちづくりに取り組む住民の相談に乗ってくれる先」の必要性が指摘された。こうした社会的価値(建築ストック)を保存、再生、再創造していくことは公共性、公益性の高い取り組みであり、市場原理とは別の論理や倫理で向き合う存在である必要がある。このため、その担い手は行政や、あるいは建築士会のようなパブリックな主体が担うことが期待されよう。
まちづくりセンサーになろう!
最後に、地域まちづくりを自分のこととして実践していくにあたり三矢から「皆さんは今日から、地域まちづくりセンサーになろう!」と提案した。我がまちの宝を把握し、その有り様や行末に関心を持つこと、そこから地域まちづくりの物語は始まる。それは住民であっても、事業者であっても、建築の専門家であっても、ジャーナリストや研究者であっても、あるいは行政であっても構わない。むしろ「多様な人が、それぞれの専門的視点でまちをみている状態を作ること」が重要である。
こうした偉大な気づきと発見に満ちたフォーラムに参加できたことに感謝しつつ、本稿を閉じることとしたい。
註1:地域まちづくりサミット2024の概要はこちら。
※写真はUnsplashのJarred Kyleが撮影したもの