クラウドファンドとグラウンドファンド
1 祝!クラファン成功
筆者・三矢は、縁あって愛知県春日井市にある高蔵寺ニュータウンの廃校リノベーションプロジェクト「ノキシタプレイス」のクラウドファンドを支援してきた。目指していた290万円に対して、3,499,626円の志が寄せられ、無事に2024年6月のグランドオープンへの弾みをつけることができた。ここまでの経過をメモに残しておく。
2 オールドニュータウンとしての高蔵寺
愛知県春日井市にある高蔵寺ニュータウン(since1968/日本で二番目に古い大規模ニュータウン/人口約4万人)。ここはいわゆる「オールドニュータウン」である。まちびらきから半世紀が経た今、人口減少と超高齢化の荒波にさらされ、例えば団地内の小学校が廃校となる例がいくつか出てきた。その一つ、廃校となった藤山台東小学校(愛称:ふじとう)を地域の拠点施設として生まれ変わらせるプロジェクトが「高蔵寺まなびと交流センター グルッポふじとう(註1)」であった。この施設は、地域包括支援センター、ギャラリー、コミュニティカフェ、交流スペース、児童館、図書館、子育て支援施設、こどもとまちのサポートセンターなどからなる複合施設である。施設管理(指定管理者)は、高蔵寺まちづくり株式会社が担っている(一部の業務を、まちのエキスパネットに委託)。
3 子育て支援、障がい者の自立支援、社会的包摂
この廃校利用の企画プロデュースに深く関与してきたキーパーソンの一人が、NPO法人まちのエキスパネット代表の治郎丸慶子さんである(エキスパネットの前は子育て支援に注力)。NPO業界でひときわ輝きを放つ彼女のパワフルさは、僕でなくとも知る人が多い。上記のグルッポでは、廃校をリノベーションする前に企画された、現地フィールドワークとアイディア出しのワークショップにおいて筆者・三矢はファシリテーターとして参加させてもらった。この施設が開館したのが2018年、今から6年前の事だ。
NPOまちのエキスパネットは、もともと障がい者の自立支援・地域共生をテーマにしたNPOであるが、グルッポを手掛かりに高蔵寺ニュータウンの賑わいの核をつくる活動にも参画し始めた。三矢の解釈では、当事者の立場から地域共生を目指してきたエキスパネットでの経験を下敷きとして、むしろ社会的包摂を目指したまちづくり活動に力点が拡張し、新たな事業展開も見据えて、社会福祉法人まちスイング(註2)が発足された(まちスイング理事長は治郎丸さん)。
このように、時代の要請、社会の要請をいち早く察知し、既存の制度や事業がまごまごしているうち社会課題の間隙への大胆な救いの一手をうってきたのが治郎丸さんだ。彼女は愛知県地方を代表する社会起業家といえる。
4 ノキシタプレイスのクラウドファンド
既に終わったことなので、以下、白状しておく。2024年2月に、治郎丸さんから「ノキシタプレイス(西藤山台小学校の廃校リノベ)のクラウドファンドを始めたので、三矢さんの応援コメントが欲しい」と依頼を受け、実際にコメントを寄せさせてもらった(註3)。詳細はサイトをご覧いただきたいが、目指したファンド金額は290万。内訳は、大型テントとアウトドア用机やイス、調理器具(障がい者が働くお店の備品)である。
正直に言って、自分はこのクラウドファンドを達成するのは困難だと思っていた。というのも、ノキシタプレイスというプロジェクトが文字通り「ごちゃまぜ」であり、公民連携が空間的にも入れ子で複雑だからだ。廃校となった小学校の体育館が残され、ここは行政関与が残っている。それ以外の校舎は取り壊され、その敷地を民間3社で借り受け、そこに「コミュニティカフェ、就労支援、まちなか保健室、フィットネスジム、クリニック、ナーシングホーム、障がい者のグループホーム、居場所」を組み合わせた複合施設を建設し、これら全体を軒下(ノキシタ)で結びつける、という空間デザインとなっている。
こうしたごちゃまぜ状況を聞くと「なんで行政がお金を出さないのか」とか「民間事業者が関わっているなら、そこが負担すればよい」と投げやりな対応をする人が多くいてもおかしくない、と僕は考えた。言い換えると関係者以外に、このプロジェクトに共感してお金を出してくれる人はどのような人なのかイメージがわかなかった。そこで僕は、全国の市民ファンドに精通している長谷川友紀さん(コミュニティ・ユース・バンクmomo共同代表)に相談した。結果「ノキシタプレイスが建設された後に、実際に使う人」を主なターゲットにするのがいいのではないか、と助言をえた。また、その実現に向けた包括的な策として、①(社会福祉法人であるため)クラファンが寄付控除の対象であることを明記すること、②クラファンをやっている間はこまめに情報発信(実現している流れを可視化)すること、③リアルな関係・場づくり(イベントやパーティ、説明会、オンライン含め)をすること、と教えてもらったので、これを治郎丸さんに共有した。
5 グラウンドファンド?
クラファンの途中経過は治郎丸さんからも聞かされていた。そのころから「クラファンのやり方がわからない人が続出していて、普通に振り込んでいただけた方が沢山います」という情報は得ていた。想像するに、超高齢化した高蔵寺ニュータウンにおいて、地元の共感者がいざクラファンをやろうとすると、クラファンの登録作業や支払方法の設定、返礼品の選択や入力などがあり、インターネットに疎い方にはハードルが高かったのだろう。しかし人々はここで諦めず、バーチャルな、雲の向こう側(クラウド)ではなくて、婆ちゃん的な、目の前の場所・土地(グラウンド)でファンドレイジングをしようと決意したのである。
結果、クラウドで集まったお金が1,525,000万円、グラウンドで集まったお金が1,974,626万円であり、婆ちゃんリアリティ(?)の方が多額のファンドレイジングを成しえた!
6 ごちゃまぜ方式のファンドレイジング
ここに至って、僕はクラウドファンドを否定するつもりは全くない。逆に、クラウドファンドという文化やシステムがなければ、このグラウンドファンド(?)も集まらなかったと思っている(補足しておくと、上記ファンドレイジングの他、プロジェクトの一つであるグループホームに向けた個人寄付金が別途550万円寄せられた)。
僕が言いたいのは、特にまちづくり系のファンドレイジングを巡っては、資金調達以上に近隣住民の関係・コミュニティを育むこと、まちのファンとなる人たち同士がつながっていくことの価値が絶大である、ということだ。ゆえに、今回のような展開(クラウドファンドとグラウンドファンドのごちゃまぜ方式)は誇るべき先進事例であり、今後の参考にすべき方法論を示唆しているのではないか、と言いたい。
ともあれ、僕の視点からすれば、新しい常識を創り出したと言っても過言ではない今回のクラウドファンド成立には感動した。まちスイングの皆様おめでとうございます!
【参考文献】
註1:グルッポふじとうHP
https://www.kozoji-nt.com/gruppo/
註2:まちスイングHP
https://www.machiswing.jp/#about
註3:ノキシタプレイスのクラウドファンド
https://camp-fire.jp/projects/view/666683?utm_campaign=cp_share_c_msg_projects_show
※冒頭の写真はUnsplashのKatt Yukawaが撮影したものです。