パブリックマインドと事業者(後編)-事業者も市民も共に輝ける都市
1 名古屋と事業者市民
前編にて、「パブリックマインドをもつ事業者」を巡る社会状況の変化と、公民連携を巡る議論に対する筆者の私見を述べた。話は飛躍するが、名古屋地方において、パブリックマインドをもつ事業者(事業性をもって都市を再生・再創造する者)という意味では、錦二丁目エリアマネジメント会社の前衛性はここで改めて説明するまでもない(公益に資する都市再開発の先駆者)。こうした前衛的プロジェクトへの尊敬の念は抱きつつ、名古屋市内では、様々なタイプのパブリックマインドをもつ事業者(事業者市民)の勃興がある。それを感じたのが、先日の地域まちづくり助成金審査会だった。今回の地域まちづくり助成にエントリーいただいたまちづくり団体は、表1のとおり。
2 事業者市民が顕著な団体
表1を手掛かりに、事業者市民との関係性を見ていく。
②は、名古屋駅東地区にあり、ミッドランドスクエアなどを含む街区の都市再生を担う団体である。高層建築が並ぶエリアで大手資本の関りが強いのだが、今回エントリーいただいた事業者らは、名古屋の地に古くから根付き、名駅周辺の発展の荒波を共に生きてきた。
③は、「千種アーススクエア」と呼ばれるイオンモールを含む大街区を中心に、名古屋工業大学との連携による取り組みだ。昨年までの説明では、事業者の社会貢献的まちづくりの要素が強く、悪く言えば住民不在の傾向があり、審査会からも注文をつけさせてもらっていた。今回は、周辺の地区代表の方々との連携体制が整ってきており、住民と事業者そして大学による協働が期待される。
⑥は、堀川と新堀川が合流する宮の渡し(熱田宮の宿の玄関口)の南側を活動エリアとしている。団体名にある内田橋は、丁度、堀川と新堀川が合流する地点付近にある。この内田橋に連なるエリアで、昨今、名古屋市の取り組みの一つ「商店街オープン」でも実績を残してきた。筆者も、今回のプレゼンで初めて知ったのだが、新規出店のお店が続々と誕生している注目のエリアである。
⑦は、②のエリアの南東にあたる区域で、ビルの老朽化が進み、建て替えを含む再整備が期待されるが、その合意形成に長年苦労をしてきた団体である。堀川にも面しており、ひょっとしてマイクロデベロップメント的なアプローチも考えられるし、一方で、都市更新の定石としては、高度利用による再開発事業も組み込みたくなる複雑な環境におかれている。
以上により、⑦は「つくる」まちづくりに向けた構想や実践が期待されるし、他の②③⑥に関しては、既成市街地を基盤として、公園や道路、緑地や商店街の余白的な空間を「つかう」まちづくりに向けた構想や実践が期待されるエリアである。
3 審査会の総評で指摘したこと
申請内容は、②が組織基盤を固める助成であり、その他の③⑥⑦はいずれもまちづくり構想を策定するための助成であった。特に、ここでリストアップした団体に関しては、事業者市民の存在が顕著であり、次のような展開への期待を述べた。
第一に、「事業者と市民のパートナーシップへの期待」である。本稿の前編で指摘したこととつながるが、名古屋の地域まちづくり制度の前提として「市民、住民主体」があり、過去の審査会でも「市民のニーズや課題は何か」「まちとしてのビジョンは何か」を問いかけてきた。この考え方は引き続き重要だが、ここまで思いをもって名古屋のまちづくりに関わろうとしている事業者がいるのであれば、もしかすると「(住民の思いはどうあれ)事業者としては、このまちをこうしたい!」というパッション(まちづくりマインド)を前面に打ち出し、その内容と、市民の思いがどう重なるのか、重ならないのかを見定め、重なる部分で協働する、という都市戦術がベターな可能性がある。「市民が主、事業者が従」ではなく、「イコールパートナーとしての市民と事業者」の可能性に期待したい。
第二に、「事業者連合による都市経営への期待」である。土地建物の管理運営に関わっている事業者が連携、連合しようとしている現実をみると、国が「エリアマネジメント」のガイドラインで示しているような「共同による都市経営」の可能性も見えてくる。具体的には、駐車場の再配置や共同経営、土地建物の管理業務を一括発注することによるコストダウンと都市への還元、共同による建て替え、である。こうした共同による土地建物の経営が「共同による都市経営」の基盤(=事業者連合による都市経営)となる期待もある。
第三に、「市民としての事業者への期待」である。ここまで、事業者と市民を二元論的に区分けしてきたが、一方で「事業者もまた市民」という視点も重要である。例えば、英国のエリアマネジメント会社では、その取り組みの評価指標として「従業員の労働環境満足度」がある。「このまちで働いていて楽しい、嬉しい、心地よい」と事業者の従業員の皆さんが感じてくれるような環境づくりと、今回提案されているまちづくり(パブリックスペースづくり)が連動していくと最高だ。
4 まとめ
以上のように、今回の地域まちづくり助成審査会では、名古屋における、事業者市民の存在感の高まりと可能性の萌芽を感じ取ることができた。これは、東京や大阪とも引け劣らない「本物の公民連携、シン公民連携時代」の到来だ。下手をすると「巨大資本による身勝手な開発/市民によるささやかで魅力的な場所づくり」の対立の構図を招いてしまうが、今回明らかになった事業者市民らの適切な活躍があれば「事業者も市民も輝ける都市の未来」が拓けるのではないか。そんな期待あふれる場であった。
表1 地域まちづくり活動助成の申請団体一覧(名古屋市)
①特定非営利活動法人 市民まちづくり風の会
②名駅四丁目まちづくり協議会
③鶴舞・千種エリアマネジメント協議会
④藤が丘まちづくり協議会
⑤星崎学区連絡協議会
⑥明治・内田橋堀川まちづくり協議会
⑦名駅花車・船入地区まちづくりの会