光るきのこの栽培
植物を育てるのが好きだ。
新芽がスクスクと背を伸ばし、一生懸命上を目指していく力強さと、そうして実りを迎える瞬間に立ち合えた時の喜びはひとしおである。
何か見つけるたびに買っては大事に育ててきた。
ほうれん草栽培キットではやっと生えた紐のような痩せ細り草がゆっくりと枯れる様子を眺めただけで終わり、桜の木は芽すら生えず土の中で息絶えた。
なんで私が触れたもの全てシシガミ様が歩いた後みたいになるの。
毎度反省する。
どうせうまく育てられないんだから、手をつけてはいけない、植物育てるアプリで満足してなきゃなって。
ある日調べ物をしていたところ、春になると、ヤコウタケという光るキノコの栽培キットが販売されるという情報を知った。
1…2の…ポカン!
わたしはこれまでのしったいをきれいにわすれた!
そして!わたしはあたらしくぶつよくをおぼえた!
しかしこの栽培キットが人気で、欲しいと思った時には売り切れで買えずじまい。
残念だったが翌年、なんとヤコウタケ栽培キットを知人が送ってくれたのだ。
「大事に育てる」と感謝のLINEを送ると
「君は植物育てられるタイプじゃないから期待はしてないよ(^^)」と返事が来た。
私はこのキノコの名前を知人の名前にしてやった。
透明のケースに腐葉土と種菌を入れ、霧吹きで全体を湿らせて蓋をすればセット完了。丸岡が元気に育ってくれるのが楽しみだ。
育て始めてから10日が経った。
栽培方法は定期的に表面を湿らせるだけなのだが、丸岡は息を引き取ったかのように何も起こらない。
これは桜の木と同じ結果になるかも…と思いながら数日。とても小さい、白い点が現れ始めた。
丸岡の赤ちゃんが生まれたのだ!
そこから数日間、私はこの小さな点からキノコの形になるその神秘的な過程を見届けた。
点は増え、やがていくつかの点は混ざり大きな白を生み、その表面は徐々に蜘蛛の糸のようなもので覆われていった。
私は思った。これ丸岡じゃなくてカビだなぁ。
知識は全くないけどきのこは菌糸から生まれるのかしらと、ネットでヤコウタケを栽培した方々の観察記録を見てみる。
どのきのこもカビが生えたところからは生まれなかった。そもそもカビ生えてなかった。
これは私、水のあげすぎか何かで失敗していますね。
それに気づいたらもう泣きそうである。
知人が、私が育てたいと言っていたことをずっと覚えてくれていて、サプライズで買ってくれて、しかもわざわざ家に送っていただいたキットで、私は一生懸命カビを育てているの…?
諦めはつきつつも一応そのままお世話をし続けた。
数日後、カビの中の小さな白い点が一つ、ぷっくりと立体的に浮き出てきた。
徐々に大きくなると真ん中に黒い点を作り、目玉のような玉ができた。説明書通りのキノコの成長過程だった!
白いカビに囲まれて黒い点がよく目立つ…
丸岡あなたカビから生まれて来てくれたん?
生まれる意外なところって桃か竹だけかと思ってたわ。
丸岡の生命力、というか知人の、自分の名前のキノコを死なせてなるものかという意地の強さを感じた。
そこからは順調だった。
小さな玉がマッシュルームみたいな頭になってゆっくりと伸びていき、それと同時に傘が開いていく。
電気を消すと、丸岡はエメラルドグリーンに淡く光った。
体の中から光が漏れ出てきているような輝き方だった。翁が見た竹もきっとこんな風に中から光っていたかもしれない。とても神秘的でため息が出てしまうほどだった。
そんな神々しい丸岡の足元はカビだらけだった。申し訳なくてため息が出た。
ちなみに、数日経ってしなりとしたきのこを抜くと、また新しいきのこが顔を出すらしい。
期待しなかった通り生えてこなかった。