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みざくらの樹 # 15 - 「ミスター・大河」西田敏行さんを悼む
毎週土曜日の18時。視聴予約していた「人生の楽園」(テレビ朝日)のオープニングで「今週は何かいいことありましたか ?」と温かく語りかけられて始まる自宅宴会。この時間を目指してその日のアテをつくり、ささやかな週末の喜びを噛みしめるのがこの何年もの習慣となっていた。しばらくは続くと思っていた日々だが、今日、11月9日をもって一区切りを迎えることになってしまった。ナレーションを担当した「人生の案内人」西田敏行さんが2024年10月17日に急逝され、最後の収録分が本日放送されるそうだ。お身体の不調も伝えられていたけれど、それにしてもこんなに早くお別れすることになったのが残念でならない。
西田さんの出演作は多いが、最初に印象に残ったのはドラマ「西遊記」(1978年・日本テレビ)での猪八戒。「池中玄太80キロ」(1980年・日本テレビ)での主演も人気になったが、あまり熱心に見た記憶はない。私にとって西田さんと言えば、なんといっても大河ドラマへの出演となる。出演作14作、主演4作は最多記録とのことである。まさしく「ミスター・大河」と称えられる大金字塔であろう。
リアルタイムで観た西田さんの大河は「おんな太閤記」(1981年)での秀吉役でこれは準主役という位置だが、この頃は主演のねね、佐久間良子とは格の違いはあったと思われるものの、なにかと「おかか」とねねを頼りにするところなど大人気の大河となった。その後の大河はリアルタイムではなく後にまとめて観ることが多くなったが、最近見て感心したのは、まず「葵 徳川三代」(2000年)の二代将軍徳川秀忠役。秀忠は偉大な父親、家康(津川雅彦・名演)の陰に隠れてパッとせず、家康に怒られてばかりいるのだが、父の死後は成長して徳川家の屋台骨を守ろうとするところがよく描かれている。年上の女房・お江(岩下志麻)にゾッコンで、なにかとベタベタするシーンが多いのだが、どうもこのあたりは西田さんお得意のアドリブ連発のようで、その空気が画面に伝わっていた。
西田さんのシリアスな性格俳優面を評価するのが、時代劇研究家の春日太一で(この方は私と好みがほぼ同じなのでよく読んでいる)、「武田信玄」(1988年)での山本勘助の演技を絶賛しているが、私も同感である。淡々黙々とミッションをこなす山本勘助は、「風林火山」(2007年)の内野聖陽とはまた違った魅力がある。シリアス路線と言えば、「花神」(1977年)で、山県狂介(のちの山県有朋)を演じていたが、福島県出身の西田さんはこの役には思うところがあったのではなかろうか。その後、「八重の桜」(2013年)に会津藩の家老、西郷頼母を演じられたのは感無量だったかもしれない。私が一番好きなのは「跳ぶが如く」(1990年)での西郷隆盛である。この大河は私的には大傑作だと思って繰り返し観ているのだが、大・西郷を演じるには当時の西田さんは少し若かったのかも。もう少しあとだと、円熟味のあるまた違った西郷を観られたかもしれなかった。ただ、この作品は最終話まで司馬遼太郎の描いた世界観に忠実に描かれ、西田さんは西郷の演者としては一、二を争う存在になったと思う。
「人生の楽園」での西田さんのナレーションはいつも温かった。いろいろな理由で第2の人生に踏み出した人々にエールを送り、子どもたちにも優しい声かけをして、まるで本当にそこに出向いているかのようだった。最後の「応援してまあす !」がもう聞けないと思うとさみしくてたまらない。西田敏行さん、長年にわたり、私たちの日常に潤いを与えてくださってありがとうございました。どうぞ安らかにお眠りください。お祈りしています。