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柳川・博多 2024 後編 - 華のおんなソロ旅
この秋、柳川・博多を訪れた記録の後編です。
2日目、柳川の立花邸で昼食を摂ったあと、柳川駅に戻り博多まで電車。今日は博多座でスーパー歌舞伎「ヤマトタケル」の観劇である。実は今回の旅の主目的はこれなのだ。
今年はなぜか日本の伝統芸能鑑賞が続き、それぞれ良い経験だったが、やはり長年好きだった歌舞伎は別格だと感じていた。ただ、毎年のように観てきたが、劇場は歌舞伎座と新橋演舞場、国立劇場に限られている。どうせならいろいろな劇場に行ってみたいと思っていたところ、この秋、博多座でスーパー歌舞伎が上演されるという。名前だけは昔から知っていた名作で一度観たいと思っていたので、久々に博多に出向くことにした。
哲学者の梅原猛氏と二世市川猿翁(三代猿之助)がタッグを組んだ本作は、歌舞伎界に新風を吹き込んだ名舞台である。令和の世になって初めての上演になるが、中村隼人、市川團子、中村壱太郎、中村米吉という若手を中心としたキャストに、市川中車、笑也、笑三郎、猿也、門之助などの澤瀉屋のファミリーが脇を固める。先の主演4人は、ダブルキャストで約3週間の昼夜にわたり相手役を変えて、8パターンの演目が観られるという楽しい趣向である。私は断然、ヤマトタケル/大碓命(おおうすのみこと)を隼人、兄橘姫/弟橘姫を米吉が演じる回を選んだ。だって一番の「美男美女(?)」なんだもん(笑)。観劇ではあまり前の席はかえってよくないのであるが、今回はよくお顔が見える席でよかったわ。
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スーパー歌舞伎は、シネマ歌舞伎で「ワンピース」を観ただけで実際の観劇は初めてである。評判は知っていたけれど、私にも、どこか正道ではないというような偏見があったように思う。だが、この壮大なスケールの物語にはすっかり魅了され、4時間という長丁場(に長い幕間休憩が挟まる)にもかかわらず、全く苦にならなかった。美しい衣装、豪華絢爛の舞台はまるで海外のオペラ公演を見るようである。主役、ヤマトタケルの早替わり、歌舞伎とは思えないような長時間にわたる大立ち回り、そして最後の宙乗りまで息もつかせない。この初演は、あの三代猿之助自身。驚異的な身体能力だったのだろう。思えば、私が歌舞伎を最初に観たのが国立劇場での猿之助の最後の宙乗りであった。今さらながら彼の偉大さを痛感されられる。
主演の隼人は大変美しいルックスで、若々しく爽やかなヤマトタケルであった。この作品は澤瀉屋のお家芸で、いろいろと思うところもありそうだが、この魅力的なヤマトタケルがこれで見納めなどということにならないよう心から祈る。團子が独り立ちするまでのつなぎのような扱いをされてよい人ではない。中車さん、よろしくお願いしますね。米吉は、声といい立ち居ふるまいといいかわいい女の子にしか見えない、最近お気に入りの女形。これからいろいろなところでお目にかかれそうで楽しみである。
博多座は地下鉄駅からすぐ直結しているし、前には停留所があり博多駅行きのバスが多く、帰るのにも便利な場所であった。
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3日目はどこかで観光をと考えたが、時間が少々半端。まず考えたのがベイエリアに出向くことで、朝、博多駅前ターミナルから路線バスに乗って25分ほどで福岡市博物館前の前に着く。驚いたのは、この路線バスが高速道路を走ることで、思いがけず港の大型客船などが見えて面白かった。
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福岡市博物館はたいそう立派な建物で驚かされた。この博物館には何があるかというと、あの金印「漢委奴国王(かんのわのなのこくおう)」印である。歴史の教科書の最初に出てくるので、いやでも読み方を覚えたあれのこと。これは福岡の志賀島で発見されたので、常設展示されている。印面は見たことがあったが、蛇の持ち手がついていたとは知らなかった。108グラムということで、模型が持ってみたら案外に重かった。ここで見るのはそれくらいかと思っていたのだが、他の展示室も興味深く、結構時間を費やした。
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バスに乗って、福岡PayPayドームの脇を通って天神まで。今度は大濠(おおほり)公園を散策することにした。ここで見どころを確認して行こうとして勇んで歩いたのだが、福岡城址に行く気になってしまったのが失敗のもとだった。歩けど歩けど着かない。また、城の址である。小高いところに登るハメになるに決まっているでははないか。さらに悪いことに今回は最終日にも関わらず、なぜか余計な荷物を先に送り返すことをしなかったため、重い荷物を抱えながらまだ暑い道をうろうろとすることになった。全く学習しないのお。おかげで日本庭園は観ることができなかったが、ここは65歳以上は無料だというから、その年になったらまたリベンジに来ることにしよう(笑)。
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地下鉄からは空港まで直行なのはありがたい。今回は教訓がいろいろとあり、飛行機のセールで安い便にしたら、比較的遅く出て早く帰る便になった。そのおかげで現地入りが遅くなり早く切り上げなければならず、もったいない時間の使い方になってしまった。何度も行くところではないので、少し追加料金を出しても滞在時間が長くなるような計画を立てるべきだった。
空港、大宰府以外では20年ぶりに訪れた福岡だが、なかなか居心地のよいところだった。限られた人としか接しなかったが、なんだかあったかい感じの方が多かったように思う。柳川の川下りのときの業者さん、立花邸でも親切だったし、博多座の飲み物の売り子さんは親し気に声をかけてくれた。帰りのバスで、年配の人が「トイレが近いから早く行って」などと軽口を利いたら、「私もそうですからよくわかりますよ。もうちょっと待ってね」と茶目っ気のある運転手さん。観劇のあとの高揚もあって、バス内はほのぼのとした雰囲気に包まれた。旅先で、またここに来たいなと思うのはこんなときである。
グルメに関しては、福岡4大名物(もつ鍋・水炊き・ラーメン・うどん)のどれも口に入らなかったが、せひまたの機会に。
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