
休職期間満了による自動退職が有効とされた例(平成27年9月4日大阪地裁)
概要
被告会社に雇用され、家庭用ゲームのソフト制作業務に従事していた原告が、精神障害を発病して休職した後に復職したところ、被告会社から、労務提供不能状態にあるとして復職を取り消された上、休職期間満了を理由に自動退職扱いにされたことから、被告会社に対し、復職取消しは無効であり、また、上記精神障害は、被告会社の従業員である被告A、Bから受けたパワハラ並びに被告会社の安全配慮義務違反により発病した業務上の疾病であり、休職期間満了による退職は認められないと主張して、被告会社に対し、従業員たる地位確認並びに賃金及び賞与の支払を求めるとともに、被告らそれぞれに対し、不法行為に基づく損害賠償の支払を求めた。
結論
棄却
判旨
Aが,平成22年2月8日,元従業員に対し,職場における言葉遣いを注意したこと,これに対し,元従業員が,翌日に,それに反発する内容の日報を同僚であるBらに送信したことが認められるが,上記日報には,Aが長時間にわたり元従業員を叱責したことは記載されておらず,また,Aが,元従業員が作成した報告書について,細かく変更するように執拗に求め,無意味な作業を行わせたこと,元従業員の企画を無断で変更したこと,抜き打ち的に開いたミーティングで元従業員を吊し上げたことを主張するが,いずれも,行為の日時等の特定を欠き,認めることはできないこと等から,Aが元従業員に対してパワハラを行った事実は認められず,Aに不法行為責任があるとはいえない。
2回目の面談においては,約1時間半にわたり,元従業員と上司であるC及びグループ長であるDとの間で,元従業員に対する評価についての問答が繰り返され,Cが,元従業員に対し,仕事の内容や職場における対人関係について相当に厳しい指摘を行った上,「このままチームにいても,あなたにやってもらう仕事はありません」,「どうしてもゲームの制作にこだわるのであれば,当社では難しい」などと述べたことが認められるところ,これらの発言は,ゲームの制作以外の部署への異動を促すものであり,直ちに退職を強要するものとはいえず,そして,Cが,元従業員に対し,元従業員の人格を否定するような発言をしたことを認めるに足りる証拠もないこと等から,Cがパワハラを行った事実は認められず,Cに不法行為責任があるとはいえない。
元従業員は,平成22年の7月と9月の前後の月の労働時間はさほど多いとまではいえないこと,裁量労働制の対象労働者であったこと,上記期間における主要な業務であったデータベース作成業務は,自ら志願して引き受けた業務であること等から,上記期間の労働のみで又は他の何らかの事由と相まって心身の疲弊をもたらし,本件疾病の発病につながったとまでは認められず,本件疾病と相当因果関係があるといえるほど過重なものであったとは認められないこと等から,会社の安全配慮義務違反は認められない。
元従業員は,本件復職時においても,本件疾病の薬を処方されており,本件疾病が寛解していたとはいえず,本件復職後もその症状が相当程度悪化していっており,薬の処方や元従業員の主訴の内容をみると,本件復職取消時には,従前の業務を支障なく遂行できる健康状態になかったことはもちろん,休職前の業務よりも軽易な業務に就くこと,かつ相当期間内に従前の業務に就くことが見込まれる状態ですらなかったと認められるから,産業医が平成23年8月4日に元従業員が労務提供不能状態にあると判断したことは相当であったといえ,本件復職取消しは,有効なものといえる。
元従業員が申請した傷病手当金支給申請書の担当医師記載欄に,労務不能と認めた期間として「平成23年8月5日から平成23年12月27日まで144日間」と記載していることが認められ,同医師によれば,元従業員は,休職期間が満了する同年8月14日が経過するまで,労務提供不能状態にあったと認められるから,元従業員は,休職期間満了により会社を自動退職したものといえ,元従業員の会社に対する地位確認請求は理由がない。