大作商事事件(令和元年6月28日東京地裁)
事案の概要
被告会社の従業員として稼働していた原告が、在職期間中、時間外・深夜労働に従事していたとして、被告に対し、労働契約に基づき、請求期間の時間外労働等に係る割増賃金及び確定遅延損害金並びに賃金の支払の確保等に関する法律6条1項所定の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、労働基準法114条に基づき、付加金及び遅延損害金の支払を求めた。
反訴請求事件は、被告が、原告において、在職中、遅刻をしていたのに給与を不正に取得していたなどとして、原告に対し、不法行為(民法709条)又は不当利得(同法704条)に基づき、損害金又は不当利得金及び民法所定の割合による金員の支払を求めるとともに、原告が在職中、不正な出勤簿を作成し、不正なパソコンのログデータを作成し、挙句、不正な本訴請求に及んだことが不法行為又は債務不履行に該当するとして、原告に対し、不法行為又は債務不履行に基づき、損害金及び遅延損害金の支払を求めた。
結果
一部認容、一部棄却
判旨
具体的に他の従業員による使用があったと認められる稼働日はともかく、そうでない限りは、ログ記録を手掛かりとして元従業員の労働時間を推知することに相応の合理的根拠はあるといえ、これを基礎に、出勤簿記載の労働時間を超えて業務に従事していた旨述べる元従業員本人の供述にも相応の信用性を認めることができるところであって、他に的確な反証のない限りは、ログ記録を手掛かりとして元従業員の労働時間を推知するのが相当であるところ、始業時刻については、基本的には、通常の稼働日につき所定始業時刻である午前9時からの始業があったものと認めるのが相当であり、ただ週初めの営業日として朝礼が行われていたと推認される日については、定時前の具体的な労務提供が義務付けられていたものとして午前8時半からの始業があったものと認めるのが相当であり、終業時刻については、ログ記録がある日については、基本的にはこれを基礎に元従業員の労働時間を認めるのが相当であり、他方、ログ記録のない日については、出勤簿の記載時刻を超える残業時間があったことを裏付ける的確な証拠がないから、上記出勤簿記載の限度で残業時間があったものと認めるのが相当である。
出勤簿やタイムカード記録による出退勤管理には及んでいた本件における付加金として50万円の限度で認めるのが相当である。
そもそも元従業員に会社の主張するような頻回の遅刻欠勤があったとまでは認め難いところ、元従業員の自認している遅刻についても、出勤簿にみられるように、会社において異議なく通常出勤があったものと認め、基本給を支払っていることからすれば、これを宥恕していたものとみるのが相当であり、これに反して不法行為又は不当利得の成立をいう会社の主張は採用することができず、これら請求権は肯認することができない。
元従業員がログ記録を創作したなどとはたやすく認め難く、元従業員会社間に、残業代請求に係る確定判決があったわけでもなく、むしろ、会社に割増賃金の支払義務があるということができるのであって、元従業員の本訴請求がおよそ事実的、法律的根拠を欠くということはできず、本訴提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くということはできないから、本訴提起が違法性を帯びるということはできないのであって、そもそも会社の主張するように不正な残業代請求などということはできず、不法行為の成立をいう会社の主張は採用することができず、また、元従業員に本訴提起を避止すべき労働契約上の義務があるとは到底認め難く、労務提供義務がおよそ不履行の状態にまで至っているとも認め難いところであって、債務不履行の成立をいう会社の主張も採用することができない。