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【第1審】職員に対する降格人事、懲戒処分が有効であるとして、職員の各請求が否定された例(平成27年3月27日高知地裁)

概要

被告・医療法人に雇用され、被告が設置・運営する病院に勤務している原告ら(A及びB)が、被告の原告Aに対する降格人事及び配転命令(2回)並びに原告Bに対する懲戒処分としての降格、出勤停止及び譴責並びに配転命令がいずれも懲戒権・人事権の濫用又は労働契約上の条件違反により無効であり、被告が原告らに対して行った同人事及びパワハラにより精神的苦痛を受けたとして、被告に対し、地位確認、未払役職手当の支払い、慰謝料等を求めた。

結論

一部認容、一部棄却、一部却下

判旨

医事係の係長補佐であるAが,業務の一部に深く関与しようとせず,いささか他人任せにしていると他の職員からみられるような態度になっていたとの事実が認められ,このような態度を執っていると他の職員から見られ,それが苦情になっている状況下において,Aにつき,係長補佐としてふさわしくないとして降格する人事をすることは,医療法人の裁量を逸脱したものであるとはいえず,その裁量権を濫用したものであるともいい難いから,Aの降格人事(管理部医事係長補佐役職解任)が違法であるということはできない。
Aの本件契約に係る雇入通知書には,「仕事の内容」欄に「事務管理部」との記載があること等から,その業務内容は事務職のそれとは著しく異なり,医療法人病院における清掃は,かつては,事務を担当する職員ではなく,各病棟の看護師及び看護補助者が行っており,平成22年頃からは医療法人から委託された業者が行っていたことからすれば,Aには,本件清掃業務へ配転されないことに合理的な期待があったといえること等から,Aの配転命令(清掃業務への配転)は,医療法人がその配転命令権を濫用して行ったものというべきであるから,違法であり,無効である。
本件契約において,Aが従事する業務が医療事務以外の一般事務に限定されていたということが困難であるところ,医療法人としては,Aを管理部医事係へ配転することを回避する途を探り,医療法人は,Aに同係での勤務を命ずる内容のAに対する配転命令(入院医療業務への配転)を発したのであり,医療法人は,Aを退職に追い込むという不当な目的でA配転命令を発していたことや,医療法人は,Aが管理部医事係での勤務を希望しないことを知りながら,配転命令を発したことをも併せ考えれば,Aの配転命令も,医療法人がその配転命令権を濫用して行ったものというべきであり,A配転命令は違法であり,無効である。
Aが,管理部総務係係長補佐としての労働契約上の地位の確認を求める訴えであるところ,かかる義務の存在を確認する利益はないから,上記部分は,確認の利益を欠くものとして,不適法であり,却下を免れない。
Aが,管理部係長補佐の職位にあり役職手当として毎月2万5000円の支払を受ける地位を有することの確認を求める訴えであるところ,Aは,支払を受けていない役職手当のうち本判決確定の日までの支払を請求していること,その日の翌日以降の役職手当についても給付判決を求める方法があることからすれば,上記部分は,確認の利益を欠くことになるから,上記部分は不適法であり,却下を免れない。
医療法人は,Aを退職に追い込むという不当な目的の下に,Aに委託業者への出向を命ずるとともに,Aに対し,これまでの業務と全く異なり,かつ,Aにおいて従事することを想定していない清掃業務に従事するよう命じ,情報を遮断するかのような扱いを受けたというのであるから,医療法人の行為は,一連の行為が不法行為に該当することは明らかであり,これによりAが多大な精神的苦痛を被ったことも明らかであり,この精神的苦痛を慰謝するに足りる慰謝料は160万円をもって相当と認める。

Bは,Bの降格処分により係長の役職を解任されているところ,医療法人がBの降格処分を人事権の行使ではなく,懲戒処分として行ったとの事実が認められるので,Bの行為が,医療法人が主張する就業規則に該当するかにつき検討するところ,Bの降格処分は,Bが就業規則に定める懲戒事由に該当しないのにされた違法なものであり,無効である。そのため,原告Bは役職手当の支給を受ける権利を有することとになる。
Bは,医療法人の病院運営に重大な危険を及ぼす内容の発言をしているところ,企業秩序の維持という懲戒処分の目的に照らすと,Bが上記の発言をしたことは,就業規則にいう「職場秩序を乱し,業務の正常な運営を阻害したとき」に該当するというべきであるから,医療法人が,懲戒権を濫用してBの出勤停止処分をしたということはできない。
Bには心筋梗塞の既往があるため,Bは,水分を十分に摂取することが必要で,重労働は避けるべきであったところ,医療法人の部長は,Bの配転命令を発する前月に,Bの主治医と面談し,Bは心筋梗塞の既往があるため水分を十分に取る必要があることや重労働を行うべきではないことを聞きとっていたのであるから,医療法人としては,Bに本件清掃業務のような業務をさせるべきではないことを認識していたものというべきであるから,Bの配転命令(清掃業務への配転)は,Bに精神的な圧迫を与えるという不当な目的の下に行われたものと推認されるから,Bの配転命令は,医療法人がその配転命令権を濫用して行ったものというべきであるから,違法であり,無効である。
医療法人は,Bが議事録の閲覧を求めたことにつき,Bが特段の説明をしなかったため,就業規則に基づき,Bに譴責処分をしたというのであるが,上記の説明をしなかったということをもって,Bが業務上の指示に従わなかったであるとか職務怠慢であるとして,Bを譴責に処する必要があるかは甚だ疑問であるから,結局,Bの譴責処分は,同号の懲戒事由に該当しないのにされた違法なものであり,無効であるというべきである。
Bが,管理部総務係係長としての労働契約上の地位の確認を求める訴えであるところ,かかる義務の存在を確認する利益はないから,上記部分は,確認の利益を欠くものとして,不適法であり,却下を免れない。
Bが,管理部係長の職位にあり役職手当として毎月5万円の支払を受ける地位を有することの確認を求める訴えであるところ,支払を受けていない役職手当のうち本判決確定の日までの支払を請求していること,その日の翌日以降の役職手当についても給付判決を求める方法があることからすれば,上記部分は,確認の利益を欠くものとして,不適法であり,却下を免れない。

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