雇い止め無効確認請求が否定され、未払賃金支払請求等が一部認められた事例(平成30年2月1日東京地裁)
概要
本訴は、被告会社との間で有期雇用契約を締結しこれに基づいて就労し、契約更新の申し入れをしていたが被告から雇止めをされた原告が、労働契約法19条1号及び2号に基づき、被告に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに未払賃金の支払等を、さらに、被告代表者からパワハラを受けたと主張して、不法行為に基づく損害賠償等を求め、反訴は、被告が原告に対し、過払であった通勤交通費について、原告は通勤経路を変更した旨被告に申告した期日以降、受領する法律上の原因がないことについて悪意であったにもかかわらず、これを受領していたと主張して不当利得の返還を求めた。
結論
一部認容、一部棄却
判旨
本件雇用契約は6回更新され,契約期間も6年以上と長く,更新の際,労働条件の交渉等のために雇用契約書が取り交わされる前の段階でも元従業員が引き続き就労していたこと,就業規則において正社員と契約社員とで個別契約がない限り基本的な労働条件が同一とされていることは認められるものの,賃金等の労働条件は更新の度に見直され,必ず雇用契約書が作成されていることに鑑みれば,本件雇用契約を終了させることが「期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できる」とまではいうことができない。
元従業員は通勤交通費を不正に受給し,これに関する聴聞の手続を放棄した上,法律上の原因なくして利得した通勤手当の返済に関する協議に一切応じなかったばかりか,親会社関係者にまで副部長の不正疑惑を申し出て,職場における人間関係を破壊し,会社代表者との関係においても問題のある業務指示についてそれを指摘するにとどまらず,あえて反抗的な態度をとるなど強固な反発心を示していたことからすれば,会社において元従業員による有期雇用契約の締結の申込みを拒絶することが,「客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない」とはいえず,元従業員の地位確認等の請求は理由がない。
会社代表者は,元従業員に不相当又は全く理由のない始末書の提出を命じており,一度退職勧奨をしたことで元従業員に不安を与えたにもかかわらず,二度も軽率にそのような業務指示をしたといわざるを得ないし,その結果,元従業員からすれば,会社代表者が自らを退職させようとして嫌がらせをして継続的に圧力をかけていると受け止めるのは相当であり,元従業員が精神的苦痛を被ったことが認められ,会社代表者が元従業員に始末書の提出を命じたことについては過失のある違法な業務指示であり,不法行為を構成するというべきであるが,通勤交通費の利得について弁明の手続を放棄し,誠実に返還の交渉に応じなかったのみならず,会社代表者らを非難し,その名誉を毀損する言動を繰り返していたことからすれば,会社代表者による業務指示をエスカレートさせるに至った責任の一端は元従業員にもあるといわざるを得ないから,元従業員の精神的苦痛を慰藉するための慰謝料額は10万円が相当である。
元従業員は少なくとも平成25年6月以降、肩書住所地から通勤していたのであり,副部長が就業規則に反してバス通勤を認めるとは解されないこと,仮にそのようなことがあったとしても単に会社に対する同部長の業務懈怠にすぎず,元従業員において同部長にそのような許可権限があると信頼することを正当化する事情があるとは解されないことからすれば,元従業員は悪意の受益者であると認めるべきであるから,会社の反訴請求は,24万6330円等の支払を求める限度で理由がある。