代表取締役のパワハラによる損害賠償請求が認められた例(平成27年1月15日東京地裁)
概要
被告会社に雇用されていた原告が、被告会社の代表取締役及び従業員から執拗にパワハラを受けたと主張して、代表取締役に対して民法709条に基づき、被告会社に対して民法715条に基づき損害賠償を求めた。
結論
一部認容、一部棄却
判旨
代表取締役は,平成23年2月15日,同月19日、21日,元従業員との間でチャットをし,「馬鹿をまた、さらす」「まじでむかつく,おまえ」「本当に,いなくなってほしい」「今すぐ辞表だしてもらってもかまわない」「おい,やめんのか?」「君に損害賠償する。」「しっかり検証して訴追する」「企業スパイ」「スパイ容疑だ」などの発言をしたことが認められ,これらの発言は,元従業員を罵り,退職をも示唆するとともに,元従業員をスパイであると断定し,厳しい口調で損害の賠償を求めるものであり,会話の途中で元従業員が過呼吸の症状を呈し,その場に倒れたことに照らしても,元従業員に過度の心理的負荷を加えるものであったことは明らかであるから,代表取締役の上記チャットにおける発言は,社会的相当性を逸脱する違法なものであり,元従業員に対する不法行為になる。
代表取締役は,元従業員に対し,損害額を明記した始末書を提出するように指示し,記載された損害額が納得できるものでなければ書き直しを命じるなどして,最終的に1000万円といった多額の損失を自認する内容の本件6通の始末書を作成させたものと認めるのが相当であり,これらの始末書を作成させた主たる目的とは,元従業員に多額の損害賠償義務があることを自認させて心理的負荷を加えることにあったと解さざるを得ないというべきであり,本件6通の始末書について,代表取締役が元従業員に作成を指示し,これらを作成させたことは,業務命令権を濫用したものであり,社会的相当性を逸脱する違法な業務命令というべきものであって,元従業員に対する不法行為を構成する。
代表取締役の元従業員に対するチャットにおける一連の発言及び一連の始末書の作成指示は,代表取締役の元従業員に対する不法行為を構成し,これらが会社の業務の執行について行われたものであることは明らかであるから,代表取締役は民法709条に基づき,会社は民法715条に基づき,連帯して元従業員が被った精神的損害を賠償する責任を負う。