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未払い残業代及びパワハラに基づく損害賠償が認められた事例(平成30年12月7日長崎地裁)

概要

被告会社社に採用されて広告制作業務に従事し休職した原告が、
(1)被告会社から時間外労働に対する賃金が支払われていないとして、未払賃金及び遅延損害金の支払を求めるとともに、労働基準法114条所定の付加金及び遅延損害金の支払を
(2)被告との間で労働契約上の地位を有することの確認を
(3)休職は上司であったAのパワハラ及び長時間労働の強制が原因で精神疾患を発病したことによるものであり、原告は休職後も月例賃金及び賞与の請求権を失わないと主張して、被告会社に対し、休職後の月例賃金及び賞与並びに遅延損害金の支払を
(4)原告は被告Aのパワハラ等により休職に追い込まれ治療を余儀なくされたものであるとして、被告Aに対し不法行為に基づく損害賠償金及び遅延損害金の支払を求めるとともに、被告会社に対しては被告Aの使用者として、被告Bに対しては被告会社の代理監督者としてそれぞれ前記金員の連帯支払を
(5)本件訴訟係属中における被告会社の原告に対する文書4通の送付がパワハラに当たり不法行為を構成するとして、被告会社に対し不法行為に基づき慰謝料等及び遅延損害金の支払を
(6)同じく本件訴訟係属中、被告会社及びその親会社である被告X社の両社の代表者である被告Cが原告に対し嫌がらせ行為を行ったとして、不法行為及び会社法350条に基づき、慰謝料等及び遅延損害金の連帯支払を求めた。

結論

一部認容、一部棄却、一部却下

要旨

従業員は,被告会社との間で残業代は支払わない旨の説明を受けて採用されたことが認められるところ,会社はさらに残業代を支払わない代わりに,多数回かつ高額の賞与を支給することでその填補をする旨を合意した旨を主張するが,労働者の雇用契約書及び雇入通知書には,賞与は年3回,各年度の業績に連動して支払う旨に理解される記載があるにとどまり,残業の多寡が賞与の額の算定上考慮されるとうかがせる記載は全くないし,会社としては残業している分は賞与で填補しているつもりであり,この点につき従業員との間にも暗黙の合意があったといえる,という旨の抽象的なものにとどまり,従業員と会社の間で,雇用契約時又はその後において,賞与の全部又は一部を残業代の支払に充てる趣旨で支給する旨の具体的な合意がされたことを裏付けるものではないから,会社の賞与の支払をもって時間外労働に係る賃金が填補されたものということはできない。
上司であったAの叱責は,内容的にはもはや叱責のための叱責と化し,時間的にも長時間にわたる,業務上の指導を逸脱した執拗ないじめ行為に及ぶようになっていたところ,従業員は職場の状況から多くの作業を抱え込み,長時間労働を余儀なくされており,更にAの前記のような嫌がらせ,いじめ行為を含む継続的な叱責を受けたため,強い精神的負荷を受け,その結果適応障害を発病して休職を余儀なくされたと推認され労働者の休業が労働災害によるものと認められ,従業員が休業補償給付決定を受けたことからも肯認でき,Aの行為は従業員の人格権等を違法に侵害する不法行為に当たるというべきであり,Aは従業員の損害を賠償する責任を負うというべきであり,またAの行為は会社の業務を行うにつきされたものであるから,会社も使用者責任に基づき従業員の損害を賠償する責任を負うというべきである。
会社が従業員に送付した文書は,訴訟代理人間で法的主張を交換する中でされたり,使用者の業務権限に基づいてされたものであるのと異なり,直接従業員に宛てて,全体として従業員が自らのパワハラ被害を訴えて会社及びX社を批判し,本件訴訟で係争すること自体が非常識で分をわきまえない行為であるであるかのように従業員を見下して一方的に非難し,貶めたりするものであって,これらの文書を送付する行為は,従業員の名誉感情を侵害する違法な侮辱行為に当たり不法行為を構成するものと認められ,また文書の一部は,専ら会社、X社の代表者であるCの意思で作成され,同時期に送付されたものであるから,当該一部の文書の送付行為は,会社代表者及びX社代表者の意思連絡の下でされた共同不法行為に当たると解するのが相当であるから,民法719条1項,709条,会社法350条に基づき,当該一部の文書の送付により従業員の被った損害を連帯して賠償する義務を負うと解するのが相当であり,従業員の精神的苦痛を金銭をもって慰謝するには20万円が相当である。

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