人事評価の濫用、パワハラは認められないとされた事例(平成30年6月11日東京地裁)
概要
被告会社に雇用されている原告従業員が被告に対し、賞与に関して違法な人事評価をされたと主張して、雇用契約における賞与請求権に基づき、支給の賞与の差額としての金員等の支払を求めるとともに、被告の管理本部長、代表取締役、及び取締役兼管理本部長兼業務管理部長から、コンプライアンス上の問題に関するメールの送信を禁止されたり、厳重注意処分をされたりするなどのパワハラを受けたと主張して、安全配慮義務の債務不履行又は不法行為による損害賠償請求権に基づき慰謝料等の支払を求め、また、原告が取締役兼管理本部長兼業務管理部長の指示に反して、コンプライアンス上の問題に関するメールを送信したことを理由として被告が原告に対してした譴責処分は権利濫用に当たり無効であると主張して、同処分の無効確認を求めた。
結論
棄却
判旨
会社は,本件人事評価において,従業員の職務成果等について,より積極性を求める評価をし,他の基幹職2級の社員との相対評価の結果,D評価としたものといえ,前年度の人事評価がC評価であったのだとしても,会社が本件人事評価において裁量権を逸脱又は濫用したと認めることはできないこと等から,従業員の会社に対する賞与の差額請求は理由がない。
従業員は,業務管理部長兼取締役管理本部長兼総務・人事チームリーダーや業務管理副部長の言動に関して,自らの考えに固執し,元社長らに対し,特段の根拠も示さずに業務管理部長兼取締役管理本部長兼総務・人事チームリーダーや業務管理副部長に対する誹謗中傷,個人攻撃にわたるようなメールの送信等を繰り返していたものであり,元社長が従業員に本件メールの撤回ないし取下げを促して口頭注意をし,警告のため本件通知をしたことは,会社の秩序を維持するためにやむを得ないものといえ,従業員の人格権を違法に侵害するものと認めることはできず,従業員に対して本件メールの撤回ないし取下げを促し口頭注意をしたことや,本件通知をしたことが従業員の人格権を違法に侵害するものと認めることはできないから,元社長らのパワハラを認めるに足りず,これに基づく従業員の会社に対する損害賠償請求は理由がない。
従業員は,取締役兼管理本部長兼業務管理部長の言動がパワハラに当たるとの考えに基づき,上司の許可を受けることなく外出し,警察署で被害相談を行った上,その後も謝罪を求めるメールなどを送信していたのであって,このような状況の下,部長が従業員に対してコンプライアンス違反に当たらないようなことについてメールを送信することを禁止したことは,部下に対する注意指導の範囲内のものであって,これが従業員の人格権を違法に侵害するものと認めることはできず,さらに,従業員は,コンプライアンス違反に当たらないようなことについてメールを送信することを禁止する旨の職務命令を受けていたにもかかわらず,これに従うことなく,その後も同命令の撤回や謝罪を求めるメールの送信を繰り返していたというのであって,本件譴責処分は会社の秩序維持のためやむを得ず行われたものと解され,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められないとはいえず,権利の濫用に当たらない。