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損害賠償等請求事件(平成26年8月8日横浜地方裁判所相模原支部)

概要

被告が経営する精神病院に准看護師として勤務していた原告が、被告に対し、
(1)業務に従事中、患者がはさみを取り出し自傷行為に及ぼうとしたのを制止した際、患者の持っていたはさみで指を負傷したとして、被告の安全配慮義務違反を理由として、損害賠償及び遅延損害金の支払を、
(2)未払残業代並びに付加金及びこれらに対する遅延損害金の支払を求めた。

結論

一部認容、一部棄却

判旨

精神病院においては,一般病院に比して,患者が精神的に不安定であり,かつ,予測できない行動を取ることが多く,暴力や自殺等の自傷行為又は他害行為等が多いという特有の危険があるといえ,患者が自傷行為に及ぼうとしたときに,病院職員がこれを制止しようとし,これに対して患者が抵抗し,この患者の抵抗によって病院職員が負傷するに至るという事態は,容易に想定し得るところであり,精神病院としては,患者の行動によって職員の生命,身体が危険にさらされることなく,安全に業務に従事できるよう配慮すべき注意義務があるというべきであるところ,本件患者については,自傷行為に及ぶ具体的危険性が認められていたというべきであり,医師が,本件事故当時,元准看護師に対して監視の方法について指示をすることはなく,他の病院職員に本件患者を監視するよう指示することもなかったのであるから,医療法人には,患者が自傷行為に及ぶ具体的危険性が認められる場合の患者の監視方法について,職員に対して周知徹底すべきことを怠った安全配慮義務違反があったといえる。

元准看護師は,本件事故により,右環指断端神経腫の傷害を負い,手術を行ったものの,現時点においても疼痛が残存していること,労働基準監督署長から後遺障害等級14級9号の認定を受けていることが認められ,これらによれば,元准看護師は,右環指に局部に神経症状を残す後遺障害を有しているものと認められるとされる。

損害額については,雑費,休業損害(有給休暇を利用した3日に関してのみ認容),後遺障害による逸失利益,入通院慰謝料,後遺障害慰謝料,弁護士費合計額として,250万3127円が認められる。

医療法人は,病院においては,時間外労働賃金の支払に代えて,従業員が時間外労働分の休暇を取得する扱いとなっており,元准看護師もこの処理に同意していた旨主張するが,時間外労働の割増賃金を休暇で代替できるのは,労働基準法37条3項に基づき,労使協定等の所定の手続が執られた場合に限られると解すべきであるから,同主張は採用できず,医療法人には時間外割増賃金の一部について未払が認められるから,医療法人に対しては,時間外割増賃金(9万6145円)等の支払と,労働基準法114条により時間外割増賃金と同額の付加金等の支払を命じるのが相当である。

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