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学園及び研究課長に対する損害賠償請求の一部が認められた事例(平成30年2月22日長崎地裁)
概要
被告学校法人が開設する大学及び大学院の教授であった原告が、同大学の副学長兼同大学院の研究課長であったAから、担当する授業科目の単位認定を強要されたなどと主張して、被告Aに対しては不法行為に基づき、被告学園に対しては民法715条1項に基づき、損害賠償を求めるとともに、被告学園及び被告学園の理事長であるBは、それぞれ原告が73歳を迎えた後の年度末まで原告を任用すべき義務を負っていたが、被告Bは、被告学園をして原告を雇止めする意向を示させ、それぞれ同義務に違反したなどと主張して、被告学園及び被告Bに対し、それぞれ不法行為に基づき、損害賠償を求めた。
結論
一部認容、一部棄却
判旨
大学院生は,平成26年9月17日から平成27年6月17日までの間,研究工程論文構想の可否について審査を受けておらず,元教授が,本件授業科目について単位を認定することはできない状況にあったが,研究課長は,上記単位を認定することができる元教授に対し,5回にわたり,本件院生に係る本件授業科目の単位の認定を求めていたものであり,この研究課長の行為は,一連のものであると認められるところ,研究課長が,元教授に対して,研究科委員会に単位の認定の権限があると説明した形跡や,平成27年6月17日の福祉文化系担当者会議を除くと,元教授以外の本件授業科目の担当教員として記載されている教員に対して,元教授に対するものと同様の要請をした形跡がうかがわれないこと等に照らせば,上記研究課長の一連の行為は,故意によるものであったと認められ,また研究課長と元教授との間に学内組織上の上下関係があったものと認められることを併せ考慮すると,上記研究課長の一連の行為は,故意により,職場内の優位性を背景になされた違法なものとして不法行為を構成する。
学園及び研究課長は,元教授がハラスメントと感じたのは,元教授が,自分に単位認定の権限があると勘違いをしていたことに起因しているとして,過失相殺がされるべきであると主張するが,元教授は,1人で本件院生の本件授業科目の単位の授与に係る認定をすることが可能であったから,同主張を採用することはできない。元教授は,研究課長から求められる都度,メモを作成して,対応を考えるなどしていたことが認められ,不法行為を構成するとした研究課長の一連の行為により,相応の精神的苦痛を被ったものと認められるところ,研究課長は,約9か月間に5回にわたり,単位の認定を求めたこと,本件訴訟提起前,元教授は,訴訟代理人弁護士らから,上記単位の認定に関し謝罪の意向を伝えられていたことなど,本件に顕れた全ての事情を考慮すると,学園及び研究課長が賠償する責任を負う慰謝料の額としては,35万円とすることが相当である。
元教授は,定年である65歳に達して学園を退職した後,学園により,任用期間を1年間として,3回採用されているが,本件就業規則には,定年にかかわらず任用を更新することができるのは,「特殊資格において補充の著しく困難な場合」である場合であるとされており,元教授もこれを認識していたものと推認されること,学園における定年退職後の契約更新回数は同一ではないことを考慮すると,上記定年後の採用に係る労働契約が,実質的に期間の定めのない労働契約と異ならない状態で存続していたと評価することはできず,また,元教授が,理事長から任期は73歳までである旨を述べられたとの事実を認定することができないことを考慮すると,元教授において,上記労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があったと認めることはできない。