熱視線
こんなに暑い日には、汗をかきながら外を歩くのがいちばんだ。街路樹にとぎれとぎれになったボーダーの影がときどき幽かなやすらぎをもたらすけれど、これからはじまる一日の最高気温にそんなことは関係ない。私はいつでもプールの中を歩き進んでいるみたいに、汗でシャツも透明だ。だけど古びた電器屋の、色あせたテレビの箱には、灼熱の日がよく似合う。陽炎が揺らす時代の名残りが、私にとって真夜中のベッドのように心地よい、あの夏休みの思い出をよみがえらせるからである。しかしながら午前十時。真昼の長さは夏の癖だが、こんなに麦茶の恋しい朝もない。今年の夏は気が強いね。彼女は赤いドレスしか着ない。彼女はビアカクテルしか頼まない。彼女は空を泳げる男としか手をつながない。そんな彼女の視線に撃たれて、私は隠れる場所もない。34℃のロマンスは、引っ込み思案な私でさえも舞台の上に引きずり出して、真昼の白いスポットライトに灼かれながら、危険な恋のはじまりだ。
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