「ごめんなさい」

今日一日で、何度死のうと思ったことか。刃のこぼれた包丁を手首に押し当ててみる。つめたさにぞくっとする。自傷行為をするやつなんて理解できないね、あんなことに、何の意味もないなんて、いつか自分で云ったこと、いまさら思い出して、ばからしくなって、やめた。けれど、今なら、少しわかる、きっと、許して欲しいのだ。きっと、誰よりもみじめになりたいのだ。誰よりもみじめで可哀想になって、自分の失敗を、愚かさを、あのひとは弱いからしかたないねと、許して欲しいのだ。そのための手段に、自分の身体を傷つけることくらいしか思いつかないなんて、どうしようもない。でも、だって、死ぬのって怖いじゃないか。手首を切ることだけでもこんなに怖いんだから、死ぬのなんて、もっと怖い。それに、死んだところで、きっと誰からも許されないだろう。むしろ、みんな少しだけ哀れんだそのあとで、やっぱり非道いやつだとののしるだろう。だったら、もう手の打ちようがないじゃないか。孤独は、死ぬのとおんなじくらい怖いんだ。怖くて怖くて、ひとりの夜がいつまでもつづく未来を想像したら、そんなの耐えられるはずがなくて、だったら永遠に眠ってしまいたい。できることならなんでもする。だけど過去にもどって誤ちを塗りつぶすことはどうしたってできなくて、だったらなにが正解なのか、考えてみてもそれより先に胸の奥がきゅうっと締めつけられて、考えられない、淋しい。あの人が帰ってきたとき、もしも私がベッドの上で、血を噴いて、赤いシーツの海の中に、まるで子供が食べ散らかした魚のように、ぐちゃぐちゃに横たわっていたとしたら、それでもあの人は許さないかもしれない。いや、きっと、そんなことで、人は人を許さない。それに、きっと、まだ、そこまで完璧に私のことを嫌いになっていないでくれたとしたら、あの人、悲しむだろう。だったら、なおさら、それはいやだ。許されるためだけに、傷つけることなんて、できるはずもなくて、だけど、傷つくのも怖くて、どうすればいいの、神様、ああ、いっそ私を、懺悔の雨でずたずたに撃ち抜いてください、それは、できれば一瞬で済ませてください、そのあとで、私のことを好きだった人たちに、私のことを始めからすっかり忘れてしまうための、魔法の薬をくばってください。お願いします。さようなら。

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