永訣の午後

いつか誰かのものになると知りながら、私たちが見守ってきた白い花は、いま、誰かの手に摘まれて、遠くへ行ってしまおうとしている。せめてその人が、誰より優しい人であったなら。せめてその人が、誰より誠実な人であったなら……。

君の心は、君のものだ。私たちはこれからも、そっと見守っていてあげることしかできやしない。カラスや野良猫に咥え去られる鳥の雛に、人間が決して手を出してはならないように。

大切だからこそ、君にはただ、幸せになってほしかった。そうだ、君と離れるのはもちろん淋しいけれど、何より私が怖いのは、君が君を愛せなくなることなんだ。君が素直に笑えなくなることなんだ。

私たちにできるのは、あとはもう願うことだけだろう。君が夜露にぬれないように、いつまでもあたたかい手のひらの中で過ごせることを。

さようなら。私の一番ながい友達よ。君は私の映し鏡だった。いつまでもそばにいるはずなんてないと分かっていたけれど、それでも平気じゃいられない。永遠に会えなくなるわけじゃないけれど、これから君の部屋を訪れるたび、ノックしなくちゃならなくなるのが、私には少し淋しいんだ。


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