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Mist
2015年6月26日 22:04
いよいよ夏が来るに当って、しかし私の心は凪いではいない。物憂くも、また、胸躍るわけでもなく、ただ、少しばかりざわめいていて、ああ、それは未来への不安か、焦燥か、あるいは……。 決別だ。ただ、それのみだった。私はもう後戻りの出来ないところまで来てしまっている。別れに涙はつきものだ。傷心もやむを得ない。あらゆるさよなら、また逢う日まで。 街の暮らしはどうだろう。海風吹いて、香るだろうか。電車に乗
2015年6月21日 22:48
伸びた感傷の影があの時計台をつらぬいて、気付けば夕暮れだった。今ここに立っている訳が、ぼくには判らなかった。ただ着慣れぬスーツの肩は降り始めた雨粒を載せてまだら、やがてそれは陽が沈むように黒くなった。 靴音が響くのは終着駅のホームを降りて、信号の明滅だけが息をしている孤独なY字路だった。一時停止をして、そのまま動けなかった。いつの間にぼくは大人になったんだろうか。振り返ってもあの頃のぼくはいな
2015年6月20日 10:33
日々は夢のように後ずさりながら、狭い部屋の中でふくらんでちぢむ。そうしてはじけた或る感情は、線路の向こうの波に消える。 灰色の波、人のうねり。海が見たい人は海を見られない暮らし。恋のためには善悪を伴わない暮らし。暮らしは人を強くして、そうして、だめにする。 戻れないのは向日葵。触れないのは帰り路。夕暮れ染まり、遊び疲れて、物足りず、蝉も鳴き止む。湯上りの宵風も、齧って溶けた氷菓子も、二度とな
2015年6月3日 23:01
あの娘は今日も私の家の駐車場に寝転んで、柔らかな白い腹を晒して甘ったるい声を上げる。私は車を飛び降りて、軽く頭を撫でてから抱きかかえ、キッス、それすら迷い心に、切れかけた蛍光灯のように数度ちらついて、消えた。いけない、あの娘は、別の人のもの。 惜しみつつ背を向けて玄関の戸を開ける、鍵を下駄箱の上に置く、閉まりゆくドアの隙間から、あの娘が見ている。ふたつの瞳のかなしい潤みは、黄金色した宝石箱。ご