プラチナエンドについての備忘録
2月上旬。Kindle。
掲載紙は追っておらず、コミックを2回に分けた形。
履歴を見ると、2017-12-05 に7巻までを購入している。そこから最終巻発売に合わせて 2021-02-05 に14巻まで購入し、読了。
区切りとしては8巻がそれまでの展開に対する一区切りであり次の流れへと向かっていくため、この読み方としてはタイミングが良かった。
作品概要
「DEATH NOTE」、「バクマン。」 コンビによる。
原作、大場つぐみ。作画、小畑健。
ジャンプSQ掲載。2015-11-04 ~ 2021-01-04、全14巻完結済みで、ジャンプ+ に Web 掲載がある。
2021年秋、アニメ化予定の注目作。
サムネイルはジャンプSQ公式より、1巻書影を引用。(90度反転)
ネタバレ度
物語後半に現れる登場人物やその心理描写、物語全体の構成について触れる。
自死から始める神様選抜
# 神様候補に与えられる天使と権能と生き残りの使命
この物語はざっくり言うと、天使が選んだ人間による神様選抜の話である。
要素として近いところを上げるとうえきの法則がある。候補者に与えられた多種多様な異能をぶつけ合うバトル漫画だが、うえきは能力バトルとしての面白さの比重が強い。
プラチナエンドにおいて天使から与えられる権能は3つしかない。ただし、天使の格や候補者の選択により3つの内どれをいくつ持っているかが変わってくるのがポイントで、候補者同士の勢力図や戦術に関わってくる。
自由の象徴である天使の翼は、描写によれば飛翔中ほぼ無限に時間を引き延ばす移動手段だ。愛の象徴である赤い矢は、いくつかの制限があるものの指した相手に射手に対する無条件の愛を強要できる。力の象徴である白い矢は、最上位の天使だけが候補者に与えられる刺した相手に即座な死を齎す。
候補者の共通点も面白い。いずれも生きる事を諦めた事があり、東京都在住で、(やや広い意味で)青少年である。これは選出条件によるもので、なんとなく納得できるものがありつつ皮肉が効いている。
相対的に恵まれた社会である日本だが、にもかかわらず自殺者の数は多い。日本の中でも特に人口が密集している東京都から候補者を選ぶことで、より神にふさわしい人間が現れる可能性を探っている。
主人公、架橋明日 (ミライ) 自身も両親を失った後の境遇により自死を決意した中学生である。卒業式を終えビルから身を投げた直後に、選抜のため地上に降りた特級天使ナッセの手で救われ、候補者としての資格を得る。
ナッセに導かれて権能を用い、両親の死が養子に迎えてくれていた叔母夫妻の策略によるものであったことを理解した明日は本来持っていた幸せを求める心を取り戻すが、これによって「人は幸せになるために生きるのであり、死ぬことはできない」という考え、それを他者にも適用してしまうという点で特異性を抱えてしまう。
プラチナエンドはそんな明日が3つの権能とそれを持つ候補者達と関わりの中で、"幸せ" に向かって歩んでいく姿が描かれる。
# 死を厭う者、齎す者
最初の山に来るのは、作中における戦隊ヒーロー、メトロポリマンの姿を被った候補者、生流奏と主人公達の対決である。
明日が「人が死ぬ事を自分は幸せだとは思えないから人を死なせる事は出来ない」という強迫観念にも近い言動を示す一方で、奏は自分が関心を持つ人物以外の命に全く価値を見出していない。
奏の目的は顕示欲を満たすと同時に候補者をおびき出し、他の候補者を残らず殺す事で神の地位に就く事だ。謎の力を持った正義の味方として権能を奮う奏に明日達は対抗していく。
明日の力になる候補者、六階堂七斗は末期癌の患者である。まだまだ少年の域を出ない明日達に大人として助力し、自身の亡き後に奏のようなものを神にする事は妻子を持つ者にはできないと鬼気迫る活躍を見せる。七斗のその姿は "対メトロポリマン" の後の物語で、明日の意思決定に強い影響を及ぼす。
誰の幸せが実るのか
# 候補者それぞれの幸せと神の定義
プラチナエンドという話全体の構成は大きくは起承転結結の5パートに纏められる。
メトロポリマンこと生流奏との対決までが大きくは承にあたるが、他の神候補を積極的に排除することで神になる権利を得ようとする者が居なくなった事で、選抜はより対話の方向に転じて行く。
それまで姿を隠していた候補者達も姿を現し始める。奏の野望が中心軸にあった神の地位に対する望みというテーマは、生き残った候補者達に広がり、よりそれぞれが選抜を通してどんな幸せを望むのかという部分にフォーカスされ物語が展開される。
特に重要な人物は世界的な大学教授である米田我工である。
最後に現れる神候補者であり、神の存在そのものや神になった候補者によって世界に与えられる影響について考えその意義を問う役目を担う、明日、奏に次ぐ三人目の主人公と言える人物だ。
彼が目指す幸せは作中では名言されていないが、自分なりに「解釈するに科学的な進歩とそれによる人類の自立」といったところだろうか。我工自身の望みは世俗を離れ自らが予測する人類の未来に貢献する研究に没頭する事だが、研究費のための活動など世事から離れられない事に失意を覚えている。
強固な意志を持つ我工も明日達と関わり対話を経るにつれて変化を遂げる人物なので、注目してもらいたいところだ。
# 二つの結末と神の正体
作品の結は2つのパートに分かれている。
一つ目は一連の事件のその後を描く、"幸せ" というテーマに対する結びだ。
大きくは明日にとっての結末であり、彼が見出した幸せの形が描かれる。幸せのイメージとしてありふれていて平凡ではあるが、それまでの境遇や作中での出来事を振り返ってみればそれを手に出来た事に納得と羨望がある。
二つ目の結びは主要な人物達からは少し離れて、この作品におけるSF的な部分への回答になっている。
選抜を始めた神様の正体が明らかにされるこのパートは、我工にとっての結末とも言える。物語の締め方としては曖昧にしたまま提示しないというのも選択肢になるはずだが、これをきちんと示したのは我工というキャラクターの重要性によるものだろう。
双方の結末がかなり対照的なので、その部分で賛否の分かれるところではあるかもしれないが、"幸せ" というテーマは一貫しており、作者的には必要なものとして描かれている事が伺える。
総評
# 幸せの正体に対する問いかけの物語
物語のテーマは "幸せ" で、これについては連載開始前のインタビューが公開されている。
主要な神候補は極端な幸せの定義を持っていたり、幸せ自体を見出していなかったり、一癖も二癖もある人物達ばかりだ。プラチナエンドはそういった人物達が誰もが持ち得るありふれた幸せを見出すまでの物語だ。
自身の幸せのためなら人の死なんて何でもないという者や全知全能の創造神という意味での神を否定しそこから離れた人類の進歩に幸せを見出す者、神様選抜を通して様々な候補者関わった事で変化や発展がある。
エピローグに至るまでのほぼ全てのエピソードが、ある意味でどんな幸せを肯定するのかという明日への問いかけになっている。
# 小畑絵によって綴られる大場節の効いた "幸せ"
私自身が作者買いで勝った作品だからという部分もあるが、やはりこの作品の一番のセールスポイントは、原作大場つぐみ、作画小畑健である、という事実だろう。
「DEATH NOTE」「バクマン。」という二本のヒット作を週刊少年ジャンプで連載したコンビが、より青少年向けにテイストを変えて送り出したのが本作である。真剣さの中にどこかコミカルな味がある味わい深いキャラクター達が説得力のある絵で活躍するのは相変わらずである。
"幸せ" というテーマや、ちょっとしたデスゲーム要素といった箇条書きにすればありふれていそうだが、要素をどう活かすか、キャラクターの行動原理にどう反映させるかという点で明確に独自性があるのが流石といったところ。
前作は読んだけれどこちらはまだ、という人は是非どうぞ。