僕の狂ったフェミ彼女 感想

あらすじ

”初恋を引きずりながら 大企業に就職し3年目を迎えた「僕」ことスンジュン。周囲はほとんど結婚して、「まだ独身なの?」とからかわれることも多い。結婚する女性を選ぶだけなのに、なかなか結婚への意欲がわかない。そんなある日、初恋の彼女と出くわした! 心がまた動き出す……ところが、彼女はこともあろうにフェミニストになっていた! ”(引用元https://www.eastpress.co.jp/goods/detail/9784781620633)

総評


かなり面白かった。韓国のラディフェミ掲示板「メガル」の住人であるフェミニストが出てくる。彼女たちの主張の中には4Bというものがあり、その中に非出産が含まれるため、反出生主義について触れられるかなと思ったが、そういった内容はなかった。

4Bだのよくわからない、韓国フェミニズムに詳しくないという人でも、問題なく読めると思う。知っていれば知っているほど笑えるシーンは増える。記憶が正しければもう閉鎖されてしまったけど、メガルの文化を知る意味でも参考になる。

あと、フェミ彼女の態度をより理解するために「私たちにはことばが必要だ: フェミニストは黙らない(イ・ミンギョン)」を読むことも推奨したい。彼女のスタンスはこの本から来ている気がする。気がするだけですが。

metooから急速にフェミニズムが広がった韓国で、男と女の間にべっとりと横たわる無理解を書き尽くした最高の小説だった。


以下ネタバレ感想なので、ご注意ください。

笑ったところ


主人公とフェミ彼女が再開する冒頭のシーン
フェミニストを公言してる人間なら誰でも(はいいすぎ?)受けたことのある「マジで実在するフェミニスト!うわ!性的搾取とかガチで言ってる!」という好奇の目。
最近、スペースで全く同じことを言われたので笑ってしまった。フェミニストあるあるは国境を越えるんだなと笑った。

あと、主人公が友人に「奥さんや彼女がメガル(フェミニスト)だったりしない?」と聴き、返ってきたこの台詞。

「ツイッターなんかやるなよっていつも言ってる!」(3章どうせ現れたなら39頁)

全く正しい。フェミニズムとか関係なく、マジでツイッターは体に毒なので。
いや、内容的には男が妻の趣味を制限し、自由を奪っていることを悪びれもせず語り合うシーンで、グロテスク極まりないのだけど、ツイッターは毒だから…


家父長制に取り込まれる


中盤以降、弱ったフェミ彼女を懐柔して「結婚が幸せ」「家父長制も悪くない」的な方向に促すシーンがある。かなりホラーだった。

ラディカルフェミニストだって人間なので、優しさに触れると絆される。それが例え家父長的な優しさだとしても「その人がその人なりの価値観で優しくしてくれている」には違いないから。作中でも、主人公は彼女のそういう部分を見抜いていた(根はいい子と表現されている)

特に心が乱れたのは、突然の訪問に怯えるシーン。

「実際、一生女一人で生きるのは大変なことだよ。さっきも電子ロックいきなり押されて怖かっただろ? 僕だって怖かったもん」(11章 僕のチャンス188頁)

女の一人暮らしはリスクがありすぎる。「男物のパンツ干せ」から分かるように、男と暮らした方が絶対に安全だ。怖い思いをした後に、恋人から結婚や同棲を匂わされたら、私なら一緒に暮らす。それが女性を家父長制に引きずり込むシステムの一つであると分かっていても、自分の安全の方が大事だから。

家父長制に反対していても、少し開いた「家父長制に乗った方が楽だな」という隙間を広げられることで、徐々に家父長制の仕組みの中に取り込まれてしまう。
彼女はそんなものを突っぱねて、1人で生きていく道を選んだが、相当な覚悟がないとできないよなと尊敬した。

男に頼らないラディカルな生き方は、ただでさえハードモードな女の人生を、更にキツくする。

「フェミなんて狂ってて、辞めるべきで、家父長制に迎合した方が幸せかもしれない」という揺らぎと選択が、如実に描かれていたと思う。

そこが素晴らしいと思った部分のひとつだ。
「狂ったフェミ彼女」の人物像がすごくリアルだった。フェミ彼女は強烈なフェミニストだけど、話の通じない化け物ではなく、様々な揺らぎと悩みの中で選択していることがわかる。多面的で人間らしい様が魅力的だった。


フェミニストとノンポリは付き合えるのか。


フェミニストに限らず、TRA、ヴィーガン、共産主義者、新自由主義者、反ワクチン…内容はともかく、思想を持つ人にとって、他人事ではないテーマだと思う。
寂しさを感じない人や、恋愛に興味のない人であればいいけど、そうじゃない人達にとって「思想の相違」は死活問題だ。

価値観の合う人間と結婚するべきというのに同意してくれる人は多いと思う。私もその通りだと思う。では、政治思想とは究極の価値観なんじゃないのか。長い時間を共にすることになる恋人に対して、納得のいく政治思想を求めるのは、おかしなことか?

私は数年間かなり悩んでいたテーマだったので、言葉にしてくれたようで嬉しかった。
愛する恋人の部屋に出向いた時、本棚に『日本国紀』や『カエルの楽園』を見つけ、本気で別れることを検討した経験がある。
本棚は脳みそをそのまま反映すると思っている私は、マッチングアプリの「好きな本」欄にフェミ本を並べ立て、同じ志を持つ人を探した。
それなりにリベラルな男性とは出会える。でも、付き合っていて少しでも「ミソジニスト」な部分が見えると、途端に冷めてしまう。

狂ったフェミ彼女も同じことを言っててちょっと笑ってしまった。

正直「こいつはミソジニストじゃないだろうな?」みたいな疑惑をもって、相手を試しては安心するような恋愛はさっぱり楽しくなかった。人間と付き合ってるのか、思想と付き合ってるのか分からなくなった。

狂ったフェミ彼女のように、私も彼氏をフェミニストにしようとした。というか、彼氏は性犯罪に怒れるし、女性差別はダメという意識があるから、当然フェミニストになると思っていた。

しかし、私がどれだけ性犯罪のニュースを伝えようと「悲しい事件だね…」と言うだけで、署名もしない。投票にも行かない。社会を変えようなどと思わない。それどころか「女の子だから、夜道は危ないし送るよ」「女の一人暮らしは危ないから、一緒に住もうよ」と言う。女の被害は、女を自分の手中に収めるための理由でしかない。そして、彼らに家父長制を推進している自覚はなく、本気で優しさで言っている。

元彼の目にも、私は狂ったフェミ彼女に見えていたかもしれないな〜なんてことを思った。

韓国の話だけど、日本も全く他人事じゃないよなぁと思う。新型コロナウィルスを取り巻くワクチンの問題が原因で、離婚した夫婦の話などが記憶に新しい。
子供ならともかく、大人の思想を変えることは不可能に近いと私は思う。フェミ彼女が言っていたこのセリフが思い浮かぶ。

「説明しないとわからないことは、説明してもわからないんだよ」 (14章 再び、光化門で 252頁)

寂しさを感じる人間は、恋人に政治思想を求めるのをやめてノンポリと付き合うか、同じ思想の人間と付き合うか、諦めて1人で過ごすしかないなぁと思う次第。モヤモヤしてた気持ちが晴れた小説でした。


雑記でした。恥ずかしくなったら消します。
読んでくれてありがとうございます。

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