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修羅場に遭遇した話



遭遇っていうかもうほぼ当事者なんですけどね。
こないだまあ大変な事があったので、
その苛立ちはこうしてネタにする事で浄化してみようと思います。
そうだ、せっかくだから仮名使って小説風に書きますね。

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「今日麻雀のあとに飲みに行くけど君も来る?」
「んーメンバーは?」
「麻雀のメンバーと地元の女の子も一人来るかも。あ、ジョージもいるよ」
「わかった。エミリーにも声掛けてみる」

 エミリーはごく最近仲良くなった友達だ。夫の友人であるジョージの彼女として紹介されたのだが、人見知りの私にしては珍しく意気投合し、連絡先を交換してよく二人で飲みに行くような仲になった。エミリーははじめ大人しい子かな?と感じたのだが、エミリーも同様に人見知りで緊張していたのでなんだか親近感が湧き、この子なら仲良くなれそうだと思った。

 私達はもう今年三十歳だ。周りに子持ちが増え、昔の友人達は皆次々に母となっていった。気軽に飲みに行ける女友達など尽きかけていた所に運命的にお互い出会ったので、毎週のように飲みに誘い合うようになるまではすぐだった。

 エミリーと二人で飲む回数を重ねると、次第に会話はエミリーのジョージに対する不満や、将来への不安が多くなっていった。私のように既婚だけど子供は作らないという家庭は増えているが、エミリーは昔から結婚願望も妊娠願望も人よりも強く、ずっと夢見ているのに未だに何も出来ないでいる自分に焦りを感じて、マッチングアプリを始めジョージと出会ったのだ。ジョージとは付き合って一年ほどだが、そろそろ同棲の話でも出てもいいのではないかと感じ始めているらしい。

『エミリー、今日旦那たち麻雀のあとに飲みに行くけど一緒に来ない?』
『いいね!誰が来るのか分かる?』
『麻雀のメンバーと、地元の女の子も来るみたい』
『…え?女の子がいるの?ジョージから聞いてないよ?』
『他の子が連絡取って決めてると思うから、ジョージはまだ地元の女の子が来るって知らないんじゃないかな?』
『…そう。まあ分かった』

 うちの旦那は地元で男女共に仲が良く、女の子達も皆別の畑で結婚し子持ちなので間違いが起こるような仲ではない。私もはじめ旦那とまだ付き合いたての時、この人は女友達が多いんじゃないか?と不安になったが、何人かの女の子達と会って、すぐに安心した。女女した人達ではなく、もう近所のオバチャンのような貫禄と、母である強さを感じる人達だったのだ。

 だがエミリーはそんな事知らない。エミリーももちろん男女の友情など成立しないと思っているタイプだ。知らない女=不穏の種だと決めつけてしまう気持ちも、何も知らなければ仕方ないとは思う。

 旦那たちの麻雀は思ったより長く、連絡も途切れ途切れになっていった。私はエミリーに声をかけた手前、あまりに待たしてはばつが悪いので先にエミリーと合流して二人で飲んでおくことにした。

「もう本当にムカつく」
 エミリーと合流した瞬間からエミリーは機嫌が悪かった。
「どうしたの?」
「ジョージから全然返事が来ないし、まだ女の子が来ることも聞かされてない。さすがにあなたの旦那さんが話したでしょ?なのにまだ報告してこないのよ」
「…なるほど」
 
 エミリーとその辺の安いチェーン居酒屋に入った。連絡がいつ来るかも分からないので、あまり食べておくこともないかなとスピードメニューだけ頼むことにした。
「今日はジョージの誕生日プレゼントを買いに先に街に出てたの」
「そうなんだ!何あげるの?」
「迷ってるんだけどね、この間ジョージが欲しいって言ってたやつを見に行ったの…コレ」

 会話が弾んでいる時、旦那からようやく連絡が来た。
『返事遅れてごめん!雀荘が地下で電波がほとんどなかった!今この〇〇って店に入ってるよ』

 そうして、連絡が来たのでエミリーに伝えた瞬間……。
 私はこの時のことを二度と忘れることが出来ないだろう。エミリーの表情が一瞬で崩れ落ち、まるで悪魔が乗り移ったかのようにみるみる顔が真っ赤に歪んでいくのを。

「は?」
「エ、エミリー?」
「どういうこと?もうジョージは飲み屋にいるの?」
「そ、そうみたい。だから私達ももう行く…?」
「信じられない」

 エミリーの瞳からジワジワと涙が溢れてきて、私はぎょっとした。そもそもさっきからエミリーの声が怒鳴っているように大きく怖いのに、次は涙まで流し始めたらどうしていいのか分からない。

「エミリー、どうしたの…?」
「なんで女の子がいるって分かった瞬間に私に連絡して来ないの?」
「そ、それは確かに嫌だよね、でもどうせ後で私達が来るからって思ってたんじゃない?」
「先にジョージの口から聞いておきたかったのに」

 エミリーの声があまりにも大きい。一人で怒鳴っているようだ。外国人の店員が心配そうにチラチラとこちらに視線を送り、隣に座る金髪の若いカップルはニヤニヤしながら私たちの会話を盗み聞こうとする。非常に居づらくなってきた。

「エミリー、少し落ち着いて」
「もう嫌。このグラス、叩きつけていい?」

 エミリーはメガハイボールのデカいジョッキを掲げ、今にも床か机かに叩きつけようとした。それにしてもなんでそんな事聞くのだろう?やりたいなら聞かずにやればいいのに、そもそも止めて欲しいのか心配して欲しいのか行動の意図が分からない。これはさすがに共感性羞恥心が爆発しそうだ。

「やめて。店員さんにも迷惑がかかるから」
 慌ててエミリーからグラスをひったくると、次にエミリーは携帯を触りだし、ジョージにあらぬ暴言をLINEで送ろうと文字を打ちだした。
「なにやってるの!?」
「もういいの。ジョージに全部言ってキレてやる」
「ちょっと待って。冷静になりなよ。まだジョージ浮気も何もしてないのに」
「私の知らない女がいる飲み会に私に内緒で行ったのよ?れっきとした浮気よ」
「どこがよ?その女の子は皆が知ってる地元の幼馴染みみたいな子だし、私達もこれから行くことになってる飲み会だし、そんなに怒る理由がどこにあるの?ジョージはその子と挨拶すらしてないかもしれないじゃない」

 私はさっきから、自分がエミリーがこうなった火種になった気がしてすごくジョージに申し訳なく感じたし、何故か自分のせいでこうなってしまったように感じてしまいなんとかエミリーを黙らせなければ!という使命感に駆られていた。
「エミリー、とりあえずもうこの店は出よう」
「ジョージの所には行かないからね。もう私帰る」
「うん。今日は帰って冷静になった方がいいよ」

 店を出て、エミリーを連れて駅に向かうと段々エミリーの足取りが重く、しまいには立ち止まって必死に携帯で何かをうちはじめた。
「エミリー、なにしてるの?早く行こう」
「見て。今ジョージにLINEでキレてやった」

 ……はあ?まじかよ。何やってんだよこの馬鹿女……。後々後悔するようなこと簡単にすんなよ……。
「待って、ジョージから電話が来た」
 エミリーはジョージからの電話に出始めたが、繁華街のど真ん中で立ち止まるので慌ててジェスチャーでエミリーを道の端に誘導した。

 エミリーは電話でものすごく怒鳴り始めた。通行人はこちらに物珍しい視線を送ってくるが、居酒屋の時よりはマシだと感じ一人で考えた。

……今私は帰ってはいけないだろうか?それよりも私は元々旦那に行くと伝えていたのに、私も帰らなければならないだろうか?私だけ行ってもエミリーはよく思わないだろうし、帰った方が良さそうだな。だけど、エミリーの電話はいつ終わるのだろうか?今この瞬間、私のこの時間はものすごく無駄なんじゃないだろうか?

 そんな考えが頭をぐるぐる巡り、色々と状況を考え直していたら段々腹が立ってきた。何故私はこんなしょうもない癇癪に付き合わされているのだろう?と言う気になってきたが、ジョージも旦那の大事な友人だし、その彼女エミリーを邪険に扱う事も出来なかったので必死にエミリーの電話が終わるのを待った。

 エミリーは号泣し、顔を真っ赤にしながら電話に叫ぶ。このままでは誰かが動画でも撮り始めTiktokにでも載せられてしまうんじゃないかと心配していたが、ようやく電話終わった。
「……ごめんなさい。待たせちゃって」
「いいよ。話して、納得した?」
「全然してないわよ」
「……そっか。まあ今日はもう帰ろ。エミリーの終電ももうすぐだし」
「……いや、このまま帰れない」
「は?」

……は?何言ってんだよこの女。めんどくせぇなぁ!!!!クソっ!!!もう我慢も限界になそうだぜぇ!!!!
「一人でどっか一杯飲んでから帰るわ」

エミリー、あのさ、そんなボロボロな状態で一人で飲もうだなんて、ジョージへの当てつけに誰かに声を掛けてもらいたいというクソ哀れビッチかつだからお前っていつまで経っても結婚出来ない女なんだよって自ら証明しているようにしか思えないんだけど?
……という暴言はすんでで飲み込んで、
「いや、ジョージも心配するし今日は冷静じゃないんだから真っ直ぐ帰りなよ」と伝える。

「もういいわよ。分かった。真っ直ぐ帰るから、ここで」
「いや、エミリー駅そこじゃん。降りるの見送るから」
「……今日は違う駅まで一人で歩いて考えながら帰るわ」
「……は?あっそ。じゃあ私もう帰るね」

 我慢が限界だ。この妖怪構ってちゃん三十路女にはもう構ってられない。ジョージに来てもらいたい欲が丸見えだ。だからもうジョージじゃないお前は帰れって言われてるようだ。このままでは私の貴重な人生の時間が無駄になってしまう。と思い私はもう帰ることにした。
 後で旦那たちと合流してからキチンと食べるつもりだったからお腹も満たされてないし、何しに化粧してオシャレして街に出てきたのか分からない。なんか今日一日がとんでもなく無駄だったように感じ、家までの道を歩きながらふつふつと怒りが込み上げてきたが、どうしようもないし自分の中ですぐに沈静することにさせた。

 家に帰り、しばらくゆっくりしていると旦那が帰ってきてその後の話を聞いた。
電話で酷い口論(と言ってもエミリーの一方的なわめき)になった為、ジョージはそのまま飲み会を抜け出してエミリーに会いに向かったらしい。見事に二人とも終電を逃し、タクシーで帰る羽目になった。ジョージのその行動や説明でエミリーはようやく納得したそうだ。

 ジョージよ、よくまだ付き合ってられるな?そんなメンヘラ爆弾三十路女……。めんどくさい事がなにより嫌いな私はもはや今回の出来事でエミリーとは距離を置きたくなった。ていうかもう二人では飲みに行きたくない。最近ずっと愚痴ばっかでジョージへの愚痴の吐き捨て場にでもされてるようだったしな。

 三十歳にもなって、繁華街の真ん中で男に嫉妬してブチギレる友人を見守るという経験をして私はなんだか懐かしかった。高校生かそれくらいの頃も友達が彼氏にキレてるのを見守ってたなあ……。私って基本見守る専なのかなあ……。ていうかむしろ私がいらん事言ってるのかなあ……。なんて思いながら改めてわかったことがある。

感情的な人間が本っ当に大嫌いだし苦手だ。
めんどくせぇ。めんどくさすぎる。やっぱり私は根っからの理性的合理的な女なんだ。女社会が向いてねぇんだ。よくやってきたよここまで女を。いつも彼氏がなんだ辛い悲しい寂しいっていう友達のしょーもない愚痴をよく優しく聞いてきたよ。偉いよ。私。
 エミリーはその後、謝罪のLINEを送ってきたがそれとなく返事してもう今後二人での飲みには誘わないことにしたし、エミリーからの誘いにも乗らないことにした。ジョージが今回の件を流してまだエミリーと付き合い続けるのなら、いつかの飲み会でバッタリ会うかもしれないが、二人きりじゃなければいい。
 私の三十路での新しく出来た飲み女友達は長くは続かなかったけど、もういいんだ。人間なんて結局めんどくさい生き物だから、出会いの数と共に面倒事も増えるんだ。
 なんだか今回の件で人間嫌いが大きく増した気がする。もう一丁前に飲みに行ける女友達が欲しいだなんて考えは捨てて、家で一人で過ごそう。既婚者で子なしを決めたんだ。孤独くらいそろそろ慣れなければ。

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ていう感じで……こんな事がありました。
いやー大変でしたね。まー真夏の夜でしたからムシムシして暑い中だったし。
その後もちろんエミリー(仮名)とは会ってません。なんかさ、エミリーってお仕事も頑張ってて基本的には優しい子だから、すごい安心感があったし、何せこんな歳で新しく出来る友達は貴重なんでね。嬉しかったんですけど。そんな風になってしまうってもちろん分からなくて。

私が許せば今後も飲み友達は出来るんですけど、もうめんどくさくなっちゃいました。
また読書に趣味を戻します。

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