あわいとうつわ。 なぜ私は『 #日本現代うつわ論 』の制作に携わるのか
こんにちは、ナツメミオです。
私は2021年より、ゆめしか出版という出版チームにて『日本現代うつわ論』の発行に携わっております。
主にデザイン全般を担当しておりますが、エッセイや論考の執筆・企画原案など多岐に渡って制作に関わらせて頂いております。
ここで登場する「うつわ」とは、美術作家の大槻香奈さんが提唱した概念です。
私自身は「日本現代うつわ論」のことを、日本的な中心の無さ・空虚性を「空虚さを否定しないまま空虚と向き合う(自分たちの手で掴んでみる)試み」の一つと捉えております。
詳しくは大槻さんの巻頭言をご参照ください。
さて、私は日頃から「間(あわい)」という概念や在り方を探り、思考実験や物理的な実験を行っております。
まだ私自身の定義を打ち出せるまでには至っておりませんが、現時点では、いわゆる「場と間」的な「間」や、AとBの間を橋渡しする(江戸時代頃は、間と書いて「はし」とも読まれたそうです)一般的なイメージとそう変わらないものとして捉えて頂ければと存じます。
過去のXを遡ってみると「『無』が『在る』」ということについて考えていたポスト発掘されました。
こうして比較してみると、中心がからっぽであることを前提とした「うつわ」に対して、「あわい」は一見関係無さそうな概念のようにも見えるかもしれません。
では、「あわい」を探りたいと考えている私は、なぜ「うつわ論」の制作に携わっているのでしょうか。
それを知って頂くには、私が企画原案を担当した『日本現代うつわ論3』の巻頭言をご覧頂くのが一番シンプルでわかりやすいかなと思いましたので、こちらに転載致します。
こちらのテキストから、私自身が「あわい」という立ち位置・在り方をもって何をしたいと考えているのか、感じて頂けたら幸いに思います。
「うつわ」や「あわい」が気になったら、ぜひ書籍もお求め頂ければと存じます。(初版箔押し仕様のものは数量限定です)
以下、『日本現代うつわ論3』より転載。
はじめに ―発行と発光、そして発酵による実験―
この度は『日本現代うつわ論3』をお手に取って頂きありがとうございます。ゆめしか出版のデザイン担当、ナツメミオと申します。
これまでの刊行物全てにおいて本文およびブックデザインを手がけてきた私ですが、今回は企画原案(!)を担当することになりました。
しかし私は普段、デザインや色彩などの実験を通して「あわい(間)」の概念に関する研究を行っております。そのため、本音を言えば「うつわ」という言葉【だけ】で物事を語ることを難しく感じています。チームメンバーなのに、です。苦笑
そこで自己紹介を兼ねて、デザイナー視点での『日本現代うつわ論』という書籍の見え方・在り方について記していきたいと思います。
なお、以下に記すものはあくまでもナツメ個人の意見であり、ゆめしか出版の総意ではないことをあらかじめお断りしておきます。
2021年11月、美術作家・大槻香奈の企画により発刊された『日本現代うつわ論』。
この本は、指南書のように何かを手ほどきするものではなく、実験の場なのではないかと、私は考えています。
「本」という架空の場に身を置いた時、人はそこで何を感じ取り、日常に何を見出すのか。
ここはそうした実験が行われる場なのです。
また、書籍という形式を取ることで、読者の皆様と世の中の橋渡しをするような「あわい」としての機能も持っているのではないかと考えています。
「様々な物語を受け止めるうつわでありながら、物語(あるいは世界)と人を繋ぐあわいでもある」
こうした表裏一体のかたちであることが、この『日本現代うつわ論』という書籍の一つの在り方なのではないかと思うのです。
「百聞は一見に如かず」と言われるように、その場に赴いて空気を感じ実物を見た方が、得られるものはずっとずっと多いかもしれません。
しかし、自分にできる範囲内で一聞なり十聞なりと知見を得ていく過程も、やはり大切な行為であると考えております。だからこそ、この本を読んでもらえたらと願うのです。
そして、本書掲載の方々の作品や言葉を通して感じ取ったことたちを、日常に持って帰って頂けたら…そんな風に思っています。
持ち帰った感想や知見は、きっと、日々の小さな変化を察知するアンテナを養うことでしょう。
それによって、か弱い発光 ―小さくとも確かに存在するものや変化― に気づく機会が増えたならば、生命の営み(はじまりからおわりまで)の豊かさや尊さをより肌で感じられるかもしれません。
そしてこれらの小さな積み重ねは、個々人の内側で美学を育み、芸術と日常が地続きであるという実感へと繋がっていくのではないかと、私は考えております。
この本を読み終えた後、身の回りを見渡した時に、小さくても確かな新しい発見があることを願い、はじめの言葉とさせて頂きます。
―追伸―
私自身は、本は発酵食品のようなものだと思っております。また、それを読んだ(摂取した)身体も発酵・熟成が進んでいくと考えています。
一読したのちにもいつかまたこの本が開かれ、発酵後の味わいもお楽しみ頂けますように。
最後に、私の原案を「企画」のかたちにすべく、直接の取材やインタビューを行ってくれたゆめしか出版チームの皆様に心から感謝を申し上げます。
さあ、うつわ探しの旅のはじまりです!
2023年7月某日 ナツメミオ