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ゆう君とクレヨン

※文章の音声化についてはこちらをお読みください。
https://note.mu/misora_umitosora/n/nc76e754673e5

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ゆう君はお絵描きが大好き。
誕生日におじいちゃんとおばあちゃんからクレヨンをもらって大喜びです。

「おかあさん、おえかき!」

元気にそう言ってお母さんにクレヨンと画用紙を出してもらいます。

「みどりのでんしゃ、あかいリンゴ、オレンジのにんじん、きいろいちょうちょ」

画用紙はゆう君の大好きなものでいっぱいです。
次は何を描くのかな?
ゆう君は一生懸命考えます。

「あおいバス!」

ゆう君はお気に入りのバスのおもちゃを持って来て画用紙の前に置きました。
バスを見ながら絵を描きます。

「バスバス、ぶっぶー」

あれあれ?
ゆう君がバスで遊び始めました。
描きかけのバスと出しっぱなしの青いクレヨン。

「ぶっぶー」

バスは画用紙の上を進みます。

「どいて!」

ゆう君はバスの通り道をふさいでいた青いクレヨンをぽーんと放り投げました。

「バスバス、ぶっぶー」

バスは部屋中を進みます。
ゆう君のバスは空だって飛べるんです。
バスと一緒に走り回りながらゆう君はおおはしゃぎ。
その時です。
ゆう君の足元からポキンと音がしました。

「あしいたい」

ゆう君はそっと自分の足元を覗きます。
そこには折れてしまった青いクレヨンがありました。
さっきゆう君が投げた青いクレヨンです。

「あ……おかあさーん!」

ゆう君はクレヨンをお母さんの所に持って行きます。

「どうしの、ゆう君?」

「あお、おちちゃった」

お母さんはクレヨンを見ただけで全部解ったようです。

「ゆうくん、おじいちゃんとおばあちゃんにもらったクレヨン大事にしてね」

「だいじ?」

「そう、優しく使ってあげて」

「やさしく?」

「優しく優しく。クレヨンさんだって落ちたり踏まれたりしたら痛い痛いよ」

「いたいいたい?」

ゆう君はそう言って折れてしまった青いクレヨンを見つめます。

「ごめんなさい」

そう言ってゆう君はクレヨンを優しくなでました。

「いたいいたい、ごめんなさい」

お母さんはそんなゆう君を見て優しく微笑みます。

「ゆう君、そのクレヨンさんお母さんが直してあげる」

「ほんと?」

「大丈夫、お母さんおもちゃのお医者さんだから」

「わーい!」

ゆう君は喜んでお母さんに青いクレヨンを渡します。

「そのかわり今日のお絵描きはもうお終い。青いクレヨンさんが直るまでお絵描きはお休みね」

「はーい」

ちょっぴりしょんぼりしたゆう君。
でも、青いクレヨンが直るまでちょっとだけ我慢です。
ゆう君は優しくクレヨンを片付けます。

「おかあさん、あおいクレヨンだいじょうぶ?」

「大丈夫、きっと明日になれば直ってるよ」

「うん!」


次の日、目を覚ましたゆう君は一番最初にお絵描きをして遊びました。
優しく優しく、大事に大事に。
お母さんに直してもらったクレヨンで沢山の絵を描いて。
緑の電車、赤いリンゴ、オレンジのにんじん、黄色いちょうちょ、青いバス、そして大事なクレヨン。
今日も画用紙はゆう君の大好きなものでいっぱいです。

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