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夏の音、夏の匂い

※文章の音声化についてはこちらをお読みください。
https://note.mu/misora_umitosora/n/nc76e754673e5

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親に「たまには帰って来て顔でも見せろ」と言われたので久々に帰省することにした。
仕事を始めてから休みの日は疲れて寝てばかり。
たまには親孝行もいいかと思ったのだ。
自分で作らなくても美味い食事が出てくる……それも魅力的だった。

早朝の電車に乗り込み、実家の最寄り駅までぼんやり景色を眺める。
徐々に減っていく背の高いビル群。
地面を覆っていたアスファルトの面積が減り植物が増えていく。
夏の日差しにも負けない濃い緑を眺めながらの移動は、思っていたより悪くなかった。

実家はあの頃と変わらずそこにあった。
何かとやかましい両親に迎えられ、仕事で疲れた体を休めるために横になる。
風鈴の音色と蚊取り線香の匂い。
どちらも今の自分の家とは無縁のもの。
まどろみながらどこか懐かしさに包まれる。

線香の香りと仏具の音で目を覚ますと、親戚が仏壇参りに来ていた。
世間話や近況報告をしながらスイカを頬張る。
キンキンに冷えた大きなスイカはやたら美味かった。

延々続く両親と親戚の会話に居心地の悪さを感じて海へ出かける。
繰り返される波の音。
懐かしい潮の香り。
手頃な日影を見付けて腰をおろし、途中で買ったアイスを頬張った。
夏の暑さを気持ちいいと思ったのはいつ以来だろう。
数年ぶりに夏が来たことを実感した気がした。

そのまま近所の祭りへ。
昔と変わらない賑やかさに思わず笑みがこぼれた。
蝉しぐれと屋台の匂い。
子ども達が親からもらった小遣いで何を買うか真剣に悩んでいる。
それを横目で眺めながら、何年ぶりか分からないラムネを飲んだ。
閉じ込められたビー玉が涼しげな音をたてて揺れる。

夕闇と共に人が増え、ざわめきが大きくなる。
和楽器の奏でる祭囃子。
神輿を担ぐ声。
汗とビールと日本酒の匂い。
大人達が豪快に、そして陽気に酔っている。

人酔いを覚まそうと遠回りした帰り道。
微かに聞こえる虫の声。
祭りの残り香をさらうように風が吹き、少し汗ばんだ体に心地よかった。
遠くで花火が上がる音を聞きながら歩く。


ふとした瞬間に音や匂いから実感する夏。
子供の頃は当たり前だったのに、大人になって日常から縁遠くなったもの。
「また来年も来られるといいな」そう呟いて夜空に咲く大輪の花を見上げた。

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アドリブによる台詞の追加やアレンジ、人称や語尾変更ご自由にどうぞ。
素敵な写真は下記サイトからお借りしました。
ゆんフリー写真素材集 http://www.yunphoto.net Photo by (c)Tomo.Yun

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