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ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか? ―国立西洋美術館65年目の自問|現代美術家たちへの問いかけ 展示レポート 3/3

6. あなたたちはなぜ、過去の記憶を生き直そうとするのか?


遠藤麻衣

国立西洋美術館所蔵エドヴァルド・ムンク《アルファとオメガ》の世界観に触発され、その物語をストリップ劇場の記憶も絡めて翻案し、演じ直す≒生き直すパフォーマンスの映像作品。

遠藤麻衣《オメガとアルファのリチュアル ─国立西洋美術館ver. 》2024年

 

期間中に遠藤によるトークセッションも行われている。

 

飯山由貴が突如パフォーマンスを行った同日、遠藤麻衣は百瀬文と所々赤く塗られた白い服を着て手を繋ぎゆっくりと歩くゲリラパフォーマンスを展示企画室前のロビーで行った。飯山に呼応したのだろうか。詳細は他メディアが詳しいのでそちらを見てほしい。

パフォーマンスをする遠藤麻衣と百瀬文
パフォーマンスをする遠藤麻衣と百瀬文



ユアサエボシ

じっさいには1983年生まれでありながら「大正生まれの架空の三流画家」を演じるユアサエボシはサム・フランシスの活動を1950/60年代に批判的に眺めていたというあらたな「設定」のもと、国立西洋美術館所蔵作品と並べて展示し、過去にありえたかもしれない作品を美術史に忍び込ませようとする。

ユアサエボシ《抽象画A》《抽象画B》《抽象画C》 それぞれ2023年 作家蔵


パープルーム

キャプションの解像度が異様に高いのでそのまま引用したい。

 「梅津庸一はかって、自分の身体像をラファエル・コランの《フロレアル(花月)》に描かれた女性像に重ねた複数の自画像を手がけた。これらの自画像は、制度批判の意識をはらみながらにーコランは日本の近代洋画の父と称される黒田清輝らのフランス留学中の師だった一過去の記憶を異化すると同時に、その異邦の絵画に別なる事後の生をパフォーマティヴにもたらすような産物であったと思える。今回の展覧会においては、国立西洋美術館のコレクションにはないコランの《フロレアル(花月)》を東京藝術大学大学美術館より借用し、梅津の絵画とはじめて併置する。そこでは、コランの所産にたいするオマージュでもパロディでもない梅津の作品の「生き直し」の様態が浮かびあがるだろう。そんな梅津が主宰するアーティスト・コレクティヴであるパープルームは、彼の芸術的志向を集団化したものとしてはじまったとみなすことができる。メンバーの一員である安藤裕美はピエール・ボナールらの造形言語を変異させつつ身体化し、パープルームの日々や出来事を絵画で記録しつづけている。「西暦2000年の若い画家たちのもとに蝶の羽で舞い降りたい」ーそう語ったボナールの言葉を受けるかのように、しかしその言葉を超えてゆこうともするかのごとく、安藤は制作をおこなう。この展覧会では、彼女の絵画がじっさいにボナールやエドゥアール・ヴェイヤールの作品と並ぶ。くわえてパープルームには、近代のアーティスト集団がしばしば実践した芸術と生活との(再)縫合という試みと通底する活動がめだつが、それを目下、もっとも鮮明に体現しているのは、わきもとさきである。彼女の作品は、一般的には他者の眼に晒すことが憚られるであろう品々を含んだ、みずからの生活の過程で排出される多種の事物のアサンブラージュだ。」
「パープルームとは、梅津ーが2013年以来、相模原の自宅で主宰してきた芸術の私塾にしてアーティスト・コレクティヴであり、彼ら一彼女らの共同生活/共同制作の現場にして展示空間でもある。また、結成当初に「不定形の理想共同体」というスローガンが掲げられていたとおり、そこにはさまざまなアーティストや関係者が出入りするため、パープルームの展示行為は伸縮をくりかえすかのごとく、コア・メンバーだけにかぎられない多種の表現者をとり込んできた。この展覧会では、正式なメンバーである梅津、安藤裕美、わきもとさきにくわえ、と覚醒のはざまで絵画を描く星川あさこ、1934年生まれの画家で美術団体展などで作品を発表してきた橋仁子が、パープルームの一員として展示をおこなう。ここでは、多種の制度批判的な意識とともに、美術館における展覧会の形式そのものが問い直されるだろう。」

パープルーム 入口
パープルーム 入口からの覗く

 

正面の壁
左から ラファエル・コラン《花月(フロレアル)》 1886年 東京藝術大学
梅津庸一《 鶏肉/星/華》 2004–2006年 高橋龍太郎コレクション、梅津庸一《フロレアル(わたし)》 2004-2007年 高橋龍太郎コレクション
梅津庸一《フロレアル─ 汚い光に混じった大きな花粉》 愛知県美術館


パープルーム 部屋の中心から右後ろを見る

 

パープルーム 入って右側の壁 安藤裕美の作品とボナールの作品が並ぶ。

 

 

パープルーム 中心から前方左側を見る

 

パープルーム 吊り下げられたパープルームのトート
パープルーム 左側の壁
左から 星川あさこ《存在の枠組み》 2020年 作家蔵
わきもとさき《又この泉にかえる》 2023年  みそにこみおでん氏蔵


パープルーム 中央から左後ろ側を見る
星川あさこ《荒れ狂う》 2022年 作家蔵


パープルームの部屋は他の作家と比べて暗い。安価な工事用の照明が複数取りつけられそれが強烈な光を放ち、一部明るいもののフラットに照明があたっておらず全体的に暗く白っぽい。作品を丁寧に見せるための照明ではないが、これはむしろ狙ったもので、パープルームで観賞しているような空間となっていた。

主宰の梅津庸一が本展について色々と発言をしている。
弊誌での記事はこちら。


参考



7. 未知なる布置をもとめて

杉戸洋、梅津庸一、坂本夏子、辰野登恵子

「今回の展覧会の準備過程で、国立西洋美術館という場やそのコレクションから着想を得たアーティストは少なくありませんが、当館がこんにちの日本に棲まう気鋭の美術家たちをおのずと、刺戟することは、どうやらほとんどないのです。それゆえ、この最後の章では、国立西洋美術館のコレクションがいまを生きるアーティストをどのように触発してきたか/しうるかと問うのはやめ、むしろ彼ら−彼女らの描きだしてきた絵画が、いかに当館の所蔵作品と拮抗するのかを見てゆきます。」
「杉戸洋、梅津庸一、坂本夏子という3人のペインターに、2014年に亡くなった辰野登恵子をくわえ、日本の「現代絵画」と呼ばれるものの実験性の程度をはかりつつ…当館のコレクションであるクロード・モネ、ポール・シニャック、ジャクソン・ポロックらの絵画と同じ空間に並べます。そこで提示されるのは、日本のペインターたちは、はたして既知の絵画空間を超える未知なる布置を生んできたのかという問いです」。

ここでは作品同士の造形的な近似性から呼応し合う作品を並べた新藤淳の審美眼を確認することになるのではないだろうか。無関係な作品同士と思いきやそれが置かれた空間は思いのほか良く、説得力を感じる。


左から 坂本夏子《秋(密室)》 2014年 高橋龍太郎コレクション、 辰野登恵子《WORK 87-P-34》 1987年 辻和彦氏蔵
辰野登恵子とモネの作品が並ぶ。


奥:坂本夏子《Tiles》2006年 個人蔵、梅津庸一《想像力の網》2022年 個人蔵 、梅津庸一《集合と離散》2021年 作家蔵、梅津庸一《内なるスタジオ(青)》2022年 個人蔵
右:辰野登恵子《 WORK 89-P-13》1989年 千葉市美術館、クロード・モネ《睡蓮》1916年 国立西洋美術館、松方コレクション
左から、坂本夏子《Tiles》2006年 個人蔵、梅津庸一《想像力の網》2022年 柵木頼人氏蔵 
梅津庸一《集合と離散》2021年 作家蔵、梅津庸一《内なるスタジオ(青)》2022年 個人蔵
左:辰野登恵子《 Work 85-P-5》1985年 国立国際美術館
右:ジャクソン・ポロック《ナンバー8、1951 黒い流れ》1951年 国立西洋美術館、山村家より寄贈


坂本夏子とシニャック、ルノワールの作品が並ぶ
左から ポール・シニャック《 サン=トロペの港》 1901–02年 国立西洋美術館
坂本夏子 《入口 》2023年 作家蔵


ルノワールと坂本夏子の作品とそして梅津庸一の作品群が並ぶ。梅津作品の横にちょっと離れて杉戸洋の作品が。
左から 坂本夏子《Tiles | Signals (Quantum Painting 001 )》 2021年 作家蔵
坂本夏子《階段》 2016年 国立国際美術館
ピエール=オーギュスト・ルノワール《木かげ》 1880年頃 国立西洋美術館、松方コレクション
左から 梅津庸一《クリスタルパレスのファサード》 2023年 作家蔵
梅津庸一《幾何学模様と雨模様》 2022年 作家蔵、梅津庸一《集団意識》 2021年 みそにこみおでん氏蔵
梅津庸一《モダンな壁紙》 2022年 作家蔵、梅津庸一《オリエンタル》 2023年 作家蔵、梅津庸一《不均衡な夢》2022年 個人蔵、梅津庸一《脇道に逸れる》 個人蔵 2022年
梅津庸一《タイル》 2023年 作家蔵、梅津庸一《花粉濾し器と小さな王国》 作家蔵、梅津庸一《クリスタルパレス》 2022年 作家蔵
杉戸洋《untitled》 2017年 個人蔵


梅津庸一の大きなドローイングと陶芸、杉戸洋の作品が並ぶ。SNS上で梅津が強く批判する杉戸だが、並べられた作品たちは呼応しており面白い。
梅津庸一の陶芸と大きなドローイング
梅津庸一《モダンな壁》 2022年 みそにこみおでん氏蔵
梅津庸一《 緑色の太陽とレンコン状の月》 2022年 みそにこみおでん氏蔵


左から、杉戸洋《untitled》 2017年 個人蔵、モーリス・ドニ《ロスマパモン》 1918年  国立西洋美術館 松方コレクション、杉戸洋《untitled》 2017年 作家蔵
左から、杉戸洋 《untitled》1994年 作家蔵、杉戸洋《the face》 2007年 個人蔵


坂本夏子と梅津庸一の新旧の共作が並ぶ。
坂本夏子/梅津庸一《ふたつの海(2枚組)》 2023年 個人蔵
坂本夏子/梅津庸一《絵作り》 2013年 高橋龍太郎コレクション



国立西洋美術館外観





概要

ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか? ―国立西洋美術館65年目の自問|現代美術家たちへの問いかけ
Does the Future Sleep Here? ―Revisiting the museum’s response to contemporary art after 65 years
主催:国立西洋美術館
会期:2024年3月12日(火)~ 5月12日(日)
会場:国立西洋美術館 企画展示室(東京都台東区上野公園7-7)
開館時間:9:30 ~ 17:30 金曜・土曜日9:30 ~ 20:00 ※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日、5月7日(火) (ただし、3月25日(月)、4月29日(月・祝)、4月30日(火)、5月6日(月・休)は開館)※最新情報は国立西洋美術館公式サイトにて。
ウェブサイト:https://www.nmwa.go.jp/jp/exhibitions/2023revisiting.html




ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか? ―国立西洋美術館65年目の自問|現代美術家たちへの問いかけ 展示レポート
https://note.com/misonikomi_oden/n/n349bb558e5bc
https://note.com/misonikomi_oden/n/nf1eac7f47c54
3
 https://note.com/misonikomi_oden/n/na43589d3c3eb


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