
「ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか?―国立西洋美術館65年目の自問|現代美術家たちへの問いかけ」記者発表会速報
2024年3月12日(火)から5月12日(日)まで、上野の国立西洋美術館で、企画展『ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか?―国立西洋美術館65年目の自問|現代美術家たちへの問いかけ』が開かれる。
企画は同館主任研究員である新藤淳によるもので、18世紀ロマン派の作家ノヴァーリスの言葉「展示室は未来の世界が眠る部屋である」をパラフレーズしたタイトルを冠し、【1959年の開館以来初めての試みとなる、現代アーティストとの大々的なコラボレーションによる展覧会】(プレスリリース)を行うという。
発表以来、国立西洋美術館が通常行う展覧会の枠に収まらない冒険性が話題になってきた同展だが、1月22日(月)に記者発表会と一部参加アーティストによるトークセッションが開かれ、初めて企画の具体的な内容が公に発表された。事前に配られた案内状全文は以下の通り。
このたび、国立西洋美術館(東京・上野)では、企画展「ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか?──国立西洋美術館65年目の自問|現代美術家たちへの問いかけ」【会期:2024年3月12日(火)~5月12日(日)】(主催:国立西洋美術館)を開催する運びとなりました。
20世紀前半までの西洋美術作品を収蔵・展示してきた国立西洋美術館。本展覧会は、1959年の開館以来初めての試みとなる、現代アーティストとの大々的なコラボレーションによる展覧会です。
国立西洋美術館の母体となった松方コレクションを築いた松方幸次郎は、日本の若い画家たちに本物の西洋美術を見せるため、膨大な数の美術品を収集しました。開館65年、館設立の原点を見つめ直し、館の未来を思い描くなかで生まれた問いかけ――。
「国立西洋美術館の展示室は、未来のアーティストたちが生まれ育つ空間となりえてきたか?」
それは、国立西洋美術館の自問であると同時に、参加アーティストたちへの問いかけです。そして、展示室を訪れてくださるみなさんとともに考えたい問いにほかなりません。
国内外で活躍する現代アーティストたちが西洋美術館の所蔵作品からインスピレーションを得て制作した作品や、美術館という場所の意義を問い直す作品など、少なくない新作を通して、西洋美術館やそのコレクションが現存のアーティストをいかに触発しうるかを検証します。また、モネ、セザンヌ、ポロック・・・西洋美術史に残る巨匠たちの名品約70点も展示。過去に生みだされた作品、現代に制作された作品を通じて館の新たな可能性を模索します。現代の、また未来のアートシーンを知るうえでも必見の展覧会です。
■本展出品アーティスト(五十音順)
飯山由貴、梅津庸一、遠藤麻衣、小沢剛、小田原のどか、坂本夏子、杉戸洋、鷹野隆大、竹村京、田中功起、辰野登恵子、エレナ・トゥタッチコワ、内藤礼、中林忠良、長島有里枝、パープルーム(梅津庸一+安藤裕美+續橋仁子+星川あさこ+わきもとさき)、布施琳太郎、松浦寿夫、ミヤギフトシ、ユアサエボシ、弓指寛治
会の進行は、国立西洋美術館館長の田中正之が館にとっての挑戦となる企画の意義を述べたあと、担当学芸員である新藤による解説——収蔵品と参加作家がいかに「コラボレーション」したか——があり、最後に当日同席した参加作家の梅津庸一、小田原のどか、鷹野隆大と新藤を交えてのトークセッション、質疑応答が行われた。
筆者はRomance_JCTと発表会、トークセッション共に参加し、全体の様子を撮影した。
各作家の試みる作品の概要についての考察や、トークセッションの詳細な書き起こしレポートはまた後日別でアップされるかもしれないが、今回は以下、会場写真とキャプションで場の雰囲気だけをご紹介したい。

会場の様子。国立西洋美術館、地下二階講堂。スライド資料は非公開とするよう申し入れがあったため、公開できず。

西洋美術館館長、田中正之が発表会冒頭の挨拶を行った。

国立西洋美術館館長、田中正之。アドルノの有名な言葉「美術館は芸術の墓場である」を引きつつ、今回の展覧会は国立西洋美術館がそうした墓場とならないための、未来に向けての試みだと、企画の意義について語っていた。

館長の挨拶に続いて、企画の内容について解説する担当学芸員の新藤淳。

国立西洋美術館主任研究員、新藤淳。各作家の企画を解説すると共に、展覧会タイトルの直接的な参照先となった、18世紀ロマン派の作家ノヴァーリスの言葉「展示室は未来の世界が眠る部屋である」についても語っていた。曰く、ノヴァーリスの同発言は美術館について語られる言説としてこれまで重視されてこなかったが、当時の日本の若い芸術家たちに西洋美術を紹介するという目的で行われた松方コレクションの活動を基に成立した国立西洋美術館は、その存立精神において響き合うのではないか、と。

トークセッションの様子。「敢えて」の雰囲気が強く伝わる挑発的な言辞を次々繰り出す梅津庸一が常に場をリードしていた。 梅津は、その特有のユーモラスな調子を維持しつつも文言としては相当に激烈な表現を使ってコンセプトから人選、美術館のあり方まで彼の考える展覧会の問題点について熱弁をふるい、ときに会場を爆笑の渦に巻き込んでいた。集まったプレスの反応も極めて良いものだった。

トークセッション中の梅津庸一。参加作家の立場を超えて、人選やコンセプトなど、展覧会やそれが成立する美術の構造についての疑義を積極的に発言していた。

小田原のどか。横倒しにさせたロダンの作品『考える人』と共にインスタレーションをおこなう今回の自作について「それによって炙り出されるもの」がなんであるかを問いたいと、制度批判的な側面について丁寧に説明していた。

鷹野隆大。IKEAの家具を使った「一般家庭の、普通の部屋」に名画=収蔵作品を配置するインスタレーションを行う今回の作品について、「モダニズムデザインの極地であるとデザインの専門家から聞かされた」というIKEAの家具と、国立西洋美術館が所蔵する近代美術の組み合わせの中から、「美術を見る難しさ」について観客と共に考えたい、と語った。同時に、参加作家は美術館という制度、権威への批判精神が強い作家が多く、世界の風潮も同様だが、全てを否定した先の結果については慎重に評価すべきだ、その意味で文化を保存する美術館の役割について再評価したい、とも。

新藤淳。学芸員として進行役を務めていた。

梅津庸一と新藤淳。梅津の忖度しない発言に新藤はしばしば苦笑していた。

梅津庸一と小田原のどか。梅津は「僕は興味ないですけど、客観的に見て、小田原さんほど強度のある作品をつくる作家はいませんよ」と独特の賛辞を送っていた。

鷹野隆大と小田原のどか。

鷹野隆大、小田原のどか、梅津庸一の3ショット。なぜこの3人が登壇したかの理由は特に説明がなかった。

トークセッション後の質疑応答。館長の田中も参加した。
筆者と同様、レビューとレポートから派遣されたRomance_JCTはトークセッションで出た「言論の場を作るのが重要だ」との発言に関連して、会期中、作家や観客が展覧会を語る場を設けるのかとの質問をしていた。

質疑応答の様子。国立西洋美術館館長、田中正之。質疑の最後に、読売新聞文化部の記者から、「国立西洋美術館として、これからも現代美術と付き合っていく覚悟はあるのか、それと、何が起きるか分からないのが現代美術の展覧会だが、そのあたりをどこまで館長として引き受けて対処するのか?これまでは、逃げたり、逆に圧迫する側に回ったり、無責任と感じさせる態度を表明する方もおられた。そのあたりの覚悟もお聞きしたい」などと大胆な問いが投げかけられた。田中館長は、「私も逃げるかも」と冗談めかしつつ、「これからの予定は決まっていないが、今回の経験を活かしたい。トラブルに関しては、それは対処するしかないでしょう」と苦笑しながら答えていた。

フォトセッションの模様。各人の立ち方にも個性が出る。
ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか?
―国立西洋美術館65年目の自問|現代美術家たちへの問いかけ
会場:国立西洋美術館 企画展示室
会期:2024年3月12日(火)~ 5月12日(日)
開館時間:9:30 ~ 17:30(金・土曜日は9:30~20:00)※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日、5月7日(火)(ただし、3月25日(月)、4月29日(月・祝) 、4月30日(火)、5月6日(月・休)は開館)
https://www.nmwa.go.jp/jp/exhibitions/2023revisiting.html
託児サービス
2024年3月12日(火)~ 2024年5月12日(日) 13:00~16:00
https://www.nmwa.go.jp/jp/experience-learn/detail/event_63.html
取材・撮影・執筆:東間 嶺
美術家、非正規労働者、施設管理者。
1982年東京生まれ。多摩美術大学大学院在学中に小説を書き始めたが、2011年の震災を機に、イメージと言葉の融合的表現を思考/志向しはじめ、以降シャシン(Photo)とヒヒョー(Critic)とショーセツ(Novel)のmelting pot的な表現を探求/制作している。2012年4月、WEB批評空間『エン-ソフ/En-Soph』を立ち上げ、以後、編集管理人。2021年3月、町田の外れにアーティスト・ラン・スペース『ナミイタ-Nami Ita』をオープンし、ディレクター/管理人。2021年9月、「引込線│Hikikomisen Platform」立ち上げメンバー。
東間嶺の記事
レビューとレポート