久々にナンパされた
「よかったらお食事でもどうですか」
友達と飲んで解散した後に、いつもの癖でゲーセンに寄ってしまい、ぬいぐるみを3つほど抱えた私を真っ直ぐ見つめ、30代前半に見えるお兄さんはハキハキと私に話しかけてきた。
「とれとれ台!」と書いてあるクレーンゲーム台は、明らかに在庫処分のぬいぐるみたちが山積みにされていて、
ちょっとつまめば取れる物がたくさんあったので、ついついやってしまった。
大きな禰󠄀豆子・シナモロール・タキシードサムのぬいぐるみをそれぞれ100円の投資でゲットしてしまい、パンパンの袋を抱えて帰りの道路に降る雨を眺めていた時だった。
「主人が迎えに来るので...」と
まごう事なき事実を、私も彼のように真っ直ぐ目を見て返した。
(私はこういう時あえて「主人」という言葉を使う。この言葉はあまり好きではないが、あえて使うのは自分が何かに縛られている感じを出して相手を完全にブロックするため。)
「あ、、ご主人が、」と苦笑いし、去っていった彼。
もっと面白い返しでもできたらよかったが、私の頭の中も腕の中もぬいぐるみでパンパンであり、夫の車を探す目しか持っていなかったので予想外のナンパはキャパオーバーだったのだ。
後からジワジワ思いつく、空想。
もし独身だったら誘いに乗っていたのだろうか、
顔は割とカッコよく、身長も高く、夫より年齢は近いし、声も良かった。
急に恋愛に発展しないにしても、悪くない相手だとは思ってしまった。
ナンパは過去に数える程度、されたことがあるが、不思議といつもパートナーがいる時期だったので、こういうのについていった事はない。
彼は酔っているのだろうか、本当に食事だけなんだろうか、どこに住んでいるのか、平日の夜から飲み歩くタイプだろうか、実は性格に難があるんじゃないか、スーツはかっこよかったな、
そもそも幾つなのだろうか、ナンパはよくしているのだろうか。
なぜ私なんだろう、
マスクしてたから私の顔がよく見えたのだろうか。
束の間の心の浮気をしていたら、夫の車が見えた。
今の私があるのは彼がいて積み上げてきた時間があるから。
私がこの場所に居たのも2人で買った家があるから。
「今ナンパされたよ笑」と伝えたら
夫は運転しながら「誰だそいつは〜!出てこいコラ〜!」とおふざけの怒りで私を笑わせた。
やっぱり私の帰る場所はここだな、と思いながら私も負けじとくだらない冗談を助手席でペラペラ喋り続けた。
2人の家に着く。
「ただいま」「おかえり」
変わらない、いつもの私達。
ナンパは嬉しいとか悲しいとか何も思わないが、空想の材料としては貴重な経験だ。
友達とも久々会えたし、今日は楽しかったな。
今宵の彼に幸あれ。