僕らの愛が届くころ
愛する準備が整った頃、愛する対象は全て僕の元から消え去っている。
それは切なくて虚しい。
しかし僕には何もかもがある。その時が来れば、なんだって差し出すことができる。
色とりどりの花、輝く木の実、豊潤な果実。
ただそれらを与えようとしても、全て手からこぼれ落ちる。
行先を与えられなかったものたちは、方向を失い、次第に力も失う。
彼らは何も悪くない。悪いのはいつだって僕だ。
僕がもっと彼らの存在意義について考えていれば、こんなことにはならなかったのだ。
僕は彼らを抱きしめる。
僕の元に生まれてきたことを後悔しているかい
僕の元で育ったことを憂いているかい
僕のことを愛しているかい
奥歯を噛み締め、震えながら、そっと呼びかける。
彼らは優しく穏やかに一定のリズムで答える。
優しさは残酷だ。
それは時に僕の心を抉り、胸を切り裂くような痛みとなって身体を蝕む。
どうか僕のために生きないでほしい。
もうこんな人生は懲り懲りなんだ。
彼らに鋭い視線を投げる。
彼らは微動だにしない。まるで僕の叫びを全身で吸収するかのようにじっとしている。
地面に雫が落ちていき、黒く淡く染まっていく。
彼らの声が聞こえる。
僕は耳を澄ませる。
「君がしたいようにすればいい。君が今までに得たものの使い道は、君自身が決めるんだ」
小さな声だったが、そこには確かな力と希望に満ちた響きがあった。
瞳を覗く。
彼らは僕に柔らかな微笑みを送る。
それはまるで春の麗かな日差しのような微笑みだった。
僕はゆっくりと頷いた。
心の靄がだんだんと晴れていくような感覚があった。
忽然と、彼らの背後に光が見えてくる。
僕は光に手をかざし、目を細め遠くを見つめる。
気づけば朝日が登っていた。
その光景の美しさに僕は息を呑んだ。
それはもはや色という概念を超えて、新鮮な血液のように空を鮮やかに染め上げていくのであった。