ドラフト2024④ 高校生投手

今年も、真夏の季節になりました。
ドラフトで言えば、この時期になってようやく、高校生の候補の評価が固まってきます。大学生や社会人はドラフト前年の時点で、特に上位候補に関してはある程度、評価が固まっている面がありますが、高校生は最後の夏が終わるまで、評価を固めきれません。それだけ、大きく伸びる選手は幾らでもいますし、2年生の時点では指名当落線上だったのに、3年生では一気に上位候補になるケースも少なくありません。

今年は今のところ、高校生の候補が3年生になって大きく伸び、ドラフト上位指名戦線にも多く割って入ってきそうな予感があります。今回は投手を取り上げますが、右腕は長身速球派が多く、左腕もスピードのある投手がここに来てかなり増えてきています。それではまず右腕から。


【高校生右腕】

《上位指名候補》

上位指名される高校生右腕には、主にこのような共通項があります。

・ほぼ全員、MAX150km/h以上
(150km/h未満なら身長190㎝以上は欲しい)
・ほぼ全員、身長180㎝以上
(180㎝未満ならMAX152km/h以上は欲しい)

大学生の場合、全国大会出場や大学代表入りが、上位指名とかなり相関性がありますが、高校生の場合は大学生ほど強い相関性はありません。プロから求められているのは、天井の高さ。育った時にはフロントスターターやクローザーを張れるような、圧倒的なポテンシャルを持っているかどうかが測られます。

次に、身長180㎝以上&MAX150km/h以上の高校生右腕の人数を、2015年から順に並べます(志望届の有無は関係なし)。

2015 3人
2016 5人
2017 8人
2018 5人
2019  11人
2020 8人
2021 7人
2022 9人
2023 8人
2024  12人 ※現在

今年はここ10年で最多の人数を記録しています。今年同様、2桁の人数を抱えていた2019年は5名が上位指名されており、今年もそれぐらいの人数になる可能性はかなり高いと見ています。
それに加え、今年は、身長184㎝以上&MAX148km/h以上の右腕が多いのも特徴です。これも2015年からの数字を並べてみますが、

2015 4人
2016 4人
2017 5人
2018 6人
2019 7人
2020 5人
2021 8人
2022 6人
2023 8人
2024  15人 ※現在

これまでを圧倒するような人数。MAX150km/h未満であっても、たとえば達孝太(2021年ハム1巡)のように、MAX148km/hながら身長190㎝以上だったこともあってか1巡指名されたケースがあります。身長は器の大きさでもありますし、プロ入り後に努力で伸ばせるものでもないので、長身かつMAXが速めで、身体操作の上手そうな選手であれば、上位指名される可能性は高まります

では、現在、上位指名候補との評価を受けている投手や、個人的注目選手を並べてみます。

●今朝丸裕喜 身長188㎝ MAX151km/h 報徳学園
【今夏予選】26.2回 16被安打 24奪三振 3四死球 防御率1.01

センバツ準優勝投手。今春は平均球速を140km/h近くまで乗せてくるという進化を見せ、チームを選抜準優勝に導きました。夏は予選の初戦こそまだピークを持ってきていなかった感がありますが、次戦以降は無四死球・無失点に抑えて甲子園出場を決めています。高身長ながらバランスの良いフォームで、各種スタッツも安定しており、阪神が1巡目候補に挙げています。

強いて言うのであれば、まだバランサー好投手といった感じで、震えてくるほどの圧倒的なボールを連発するタイプではありませんが、そこは今後、ビルドアップでカバーしてきそうな投手かなと思うので、マイナス要素にはならないでしょう。夏の甲子園では初戦敗退ながら、センバツ時より平均球速を5km/hほど上げるなど成長の跡を著しく感じました。高校代表にも選ばれていますし、1巡目での指名を期待したいです。単独1位の可能性もあると見ています。

●村上泰斗 身長180㎝ MAX153km/h 神戸弘陵
【今夏予選】11回 2被安打 16奪三振 2四死球 防御率0.00

高校生版・西舘勇陽。弾丸のような速球を連発し、打者がことごとく圧倒されるような圧巻ピッチが魅力。投手を始めたのは高校からなので肩の消耗も少なく、クレバーな野球知識を持つことも彼の魅力のひとつでしょう。阪神のスカウトが上位候補との評価をしています。

強いて言えばまだ少し身体が細い投手ではありますが、進路はプロ一本なので、地区予選敗退後にビルドアップに励んでいる可能性もありますし、さほど問題ではないと思います。2-3巡目での指名があるのではと見ています。

●山口廉王 身長193㎝ MAX151km/h 仙台育英
【今夏予選】12回 15被安打 7奪三振 4四死球 防御率2.25

遅れてきた杜の王。今年に入るまで特にドラフト候補として名前が知れ渡っていたわけではありませんでしたが、150km/h以上のストレートを見せるようになると一気に知名度が上がり、上位候補とも言われるまでになりました。佐々木朗希のように高く足を上げて投げ込むストレートは唸る音が聞こえるような力強さがあります。

夏予選決勝で打ち込まれてしまったように、普段は抑える試合が大半なものの、捉えられる試合も何試合か見受けられるのは少し不安。本人もプロ志望かどうかは決めかねているようです。それでも、身長190㎝以上の体格からフォームも安定し、これだけのストレートを随所に見せているのですから、志望届を出せば3巡前後での指名があるのではないでしょうか。

●清水大暉 身長192㎝ MAX149km/h 前橋商
【今夏予選】18.1回 20被安打 19奪三振 14四死球 防御率2.95

前橋の巨塔。身長192㎝というビッグサイズには溢れ出るポテンシャルを感じます。フォームがそこまで悪いとは思いませんが、今夏は四球や被安打が多くなってしまったのはフォーム起因のようにも思いますし、今後はフォーム修正が必要になるかもしれません。

県大会決勝で敗退後にはオリックスのスカウトが上位候補との評価を与えています。今年はビッグサイズ高速右腕が多いだけに、上位指名盤石という雰囲気ではないですが、それでもなんだかんだ、3巡目以内で指名されそうな気がします。

●小船翼 身長198㎝ MAX152km/h 知徳
【今夏予選】19.1回 18被安打 19奪三振 9四死球 防御率3.26

静岡のビッグユニット。デカいだけではなく、スピードも持ち合わせています。昨年末の時点では上位候補と評したメディアもあったほど。今夏は初戦で顔面に打球が直撃したり、熱中症でダウンしたりと、アクシデント続きで、準々決勝にて敗退しています。

フォームはかなり我流といった感じで、今後は修正が求められるかもしれません。まだ進路は分かりませんが、志望届を出すのであれば3巡目前後での指名があるのでは、と思います。

●川勝空人 身長180㎝ MAX153km/h 生光学園
【※昨夏予選】26回 11被安打 26奪三振 14四死球 防御率1.38

早熟の空人。2年生にしてMAXは153km/hを計測し、チームを夏予選4強に導きました。昨年末の時点では上位候補の評価が揺らぎませんでしたが、今年は春先に肘の不調を経験し、復調する時期もあったものの、今夏予選は初戦敗退。スピードがさほど出ていなかったという話もあります。

四死球がやや多い点も不安はありますが、肘の不調がかなり評価を落とす要因となる可能性はあります。今年のほかの高校生右腕のラインナップを鑑みれば、相対的に序列が落ちて4-5巡目となる可能性もありそうですし、それなら順位縛り等をつけて進学との二段構えにしても良いのでは、という気もしています。

柴田獅子 身長189㎝ MAX149km/h 福岡大大濠
【今夏予選】17.1回 12被安打 13奪三振 1四死球 防御率1.56

双頭の獅子。どことなくダルビッシュ有のようなフォームからMAX149km/hのストレート。MAXは着実に更新し続けており、今後さらに上がり、平均150km/h近いストレートを連発する投手になるかもしれません。また、打撃フォームは大谷翔平に似ており、今夏予選では打率.526、二塁打2、本塁打1、三振率.148という圧倒的数字を残しています。

まだスカウトから順位に言及されるようなコメントは出ていないものの、今朝丸裕喜や藤田琉生を引き合いに出すようなコメントも出ていますから、上位候補と見ていいのかもしれません。投手としても、この四死球の少なさは買いですし、3巡目前後での指名を期待したいと思います。

《支配下指名候補》

春季関東大会で優勝し、プロからの評価も一気に高まってきていた昆野太晴(白鷗大足利・身長180㎝・MAX152km/h)は、夏予選でまさかの初戦敗退。春季大会では四球連発してしまう日もありましたが、そこまでフォームが悪いとも思わないですし、それ以外のスタッツは極めて良好でした。志望届を出せば、支配下指名は十分ありそうだと思います。

今夏、大きくスケールアップを果たしたのは狩生聖真(佐伯鶴城・身長186㎝・MAX150km/h)。長身ながら非常にバランスの良いフォームをしており、先発ですと140-145km/hを刻み、リリーフですと145-150km/hの球速帯。まだかなりの細身ですが、そこを伸びしろと捉えた球団であれば、ワンチャン上位指名があっても不思議ではないと思います。なお、夏予選は15イニング・10被安打・14奪三振・5四死球という成績でした。

甲子園での快進撃が記憶に新しい坂井遼(関東一・身長178㎝・MAX151km/h)は、支配下クラスまで到達したという元スカウトのコメントもあるほど、今夏、一気に評価を高めている投手。地方予選のスタッツも甲子園でのスタッツも素晴らしく、フォームも生粋のリリーバーという雰囲気でとても圧があります。高校時代からリリーバーを務める選手とはいえ、甲子園では5イニング以上のリリーフもしており、評価を落とすものではなさそう。高校代表にも選ばれましたし、志望届を出せば支配下指名も現実味があります。

今春のセンバツでも登板した小川哲平(作新学院・身長184㎝・MAX148km/h)は、今夏予選では先発で、力感のないフォームから平均143km/hほどのストレートを淡々と投げ続け、2完封を含む29.2回を自責点ゼロ、四死球ほぼなしで投げ切るという快投を見せています。まだ少しMAXは遅いものの、公式戦の中でMAXを更新し続けていますし、志望届を出すのであれば支配下指名されうる選手だと思います。

長身右腕で言えば、身長200㎝菊地ハルン(千葉学芸・MAX149km/h)が気になるところ。夏予選ではかなり早く敗退してしまいましたが、奪三振能力と、まずまずバランスの取れたフォームは魅力的。ただ、公式戦ではそこまで速いストレートを連発できてはいないので、育成指名かなと思っています。

逆に、身長180㎝未満で気になるのは、井上剣也(鹿児島実・身長175㎝・MAX154km/h)、田中稜真(旭川実・身長178㎝・MAX152km/h)、高尾響(広陵・身長172㎝・MAX148km/h)あたりの面々。ただ、井上は被安打が多めで、高尾は高卒直プロにかかるにはさすがに身長が低い点が気にかかります。田中はこの面々の中で言えば奪三振が安定して多いのが魅力的ですし、育成も含めれば指名は十分にあると思います。

今年の高校生右腕に関しては、身長184㎝以上の長身高速投手たちがどれぐらい指名されるか、そこに身長180㎝前後の剛球投手たちがどのあたりの順位で食い込んでくるかがひとつの見どころであると感じます。

【高校生左腕】

《上位指名候補》

高校生左腕が上位指名されるには、MAX147km/h以上のストレートを投じる先発投手というのがひとつの指標になってきます(支配下指名の基準もこれと同じです)。あとは憶測でしかないですが、平均140km/h以上のストレートを投じれるかどうかも問われているのではないか、と感じます。なお、信頼できる場でMAX150km/h以上を計測したのであれば上位指名の可能性はかなり高くなります。ただ、高校生右腕と比べますと、高校生左腕の上位指名は年に1~2人で、そこまで多いわけではありません。

一時期はMAX150km/h以上でないと上位指名されないような風潮すら感じましたが、ここ3年ほどは甲子園での実績や投球成績なども加味した総合評価によって上位指名される高校生左腕も増えてきています。いくらMAXの数字が魅力的であっても、地方予選どまりで、かつ投球成績が悪ければ上位指名は難しいです。やはり、甲子園に出ている、高校代表に選ばれている、せめて3年時の地方予選でスタッツ優秀、などの事柄は必要になります。

なお、高校生左腕の場合、高身長が高評価、低身長が低評価と一概に言えないケースも多々あり、身長で線を引くのはあまり意味がないように思います。ただ、MAX147km/h前後で上位指名される場合、身長180㎝以上の投手が多いようにも感じます。

補足として、高校生左腕で、MAX147km/h以上を計測した投手の人数(志望届の有無は関係なし)を、2008年から並べてみます(MAX150km/h以上は実名を太字で記載)と、

2008 2人
2009 1人 菊池雄星
2010 2人
2011 0人
2012 3人
2013 2人
2014 1人 塹江敦哉
2015 1人 小笠原慎之介
2016 6人 寺島成輝 堀瑞輝 古谷優人 高橋昂也 高山優希
2017 6人 金成麗生
2018 3人
2019 4人 及川雅貴
2020 4人 
2021 5人 木村大成 泰勝利 松浦慶斗
2022 5人 門別啓人
2023 7人 東松快征 福田幸之介 仁田陽翔
2024 9人 

2016年から一気に人数が増えていますが、今年は少なくとも2008年以降では最多の人数となっています。ただ、MAX150km/h以上の左腕が現状ではいないのを見ても、今年が突出しているというわけではありません。全体のレベルが年々上がっているということの証左です。

今年、現状、上位確実かな、と思える左腕は、藤田琉生(東海大相模・身長198㎝・MAX149km/h)だけかなと思います。5月頃までは直プロとかそういう雰囲気もなかったですが、夏にかけて一気に球速を伸ばしてMAX149km/hを計測。(左腕だと2km/hほど辛く出るような印象のある)甲子園でも初戦で平均142km/h以上を計測するなど、最速詐欺ではなく、間違いなくスピードアップしています。スタッツはどれも飛び抜けているわけではないですが、かねがね良好ですし、試合を壊すことはありません。

スカウトの口からも、今朝丸裕喜と並び、1巡目もあるとの評価が出てきています。長身かつ甲子園実績もあり、高校代表にも選ばれているので、上位指名の要素をかなり多く満たしています。外れ1巡まであるのではないでしょうか。

彼以外で言いますと、高橋幸佑(北照・身長178㎝・MAX148km/h)が魅力的。北北海道大会ではどの項目でも圧倒的なスタッツを記録し、実況を聞く限りではコンスタントに142km/h以上を先発で計測するほどのスピード能力を持っています。少しサイド気味に出てくるアームアングルも良いですし、春には高校代表候補にも選ばれています。3-4巡目での指名は十分ありそうな予感。

《支配下指名候補》

支配下指名が狙えそうな高校生左腕で言いますと、西川歩(山村学園・身長172㎝・MAX147km/h)、澁谷純希(帯広農・身長181㎝・MAX147km/h)、冨士大和(大宮東・身長186㎝・MAX144km/h)らになるかな、と思います。

西川歩は激戦区埼玉で、花咲徳栄の壁を越えられなかったとはいえ、3年生になって以降、優秀なスタッツを残し続けている投手。少し出所が見づらく、ボールが急に出てくるように見えるような腕の振りをしているように感じます。プロへの意識が高そうなのも良いですし、下位なら指名がありそう。

澁谷純希は肘の故障などもあり、本格的に投げ始めたのはここ1年もないほどですが、夏予選では圧倒的な奪三振率を見せました。2試合目の終盤に打たれて逆転負けを喫するも、8月の登板機会ではMAX更新の147km/h計測と、まさに伸び盛り。もう少し公式戦登板が多ければ支配下指名確定クラスだったのでは、と思いますが、現状、育成まで残ると考えるのが妥当かもしれません。

冨士大和はこれまで紹介してきた左腕とは違い、長身サイドスローという珍しいタイプで、埼玉県予選とはいえ、かなりスタッツが優秀な投手。特に奪三振率が素晴らしく、2年生以降の大会では10.00前後の奪三振率を記録し続けています。プロに入れるだけの尖った特徴を幾つも持っていますし、サイドスロー左腕なら144km/hでも遅いわけではないですし、ワンチャン支配下指名ありそうと見ています。

他にも気になる左腕はいますが、直プロを明言しているわけではなかったりで、3~4年後に期待したいところです。高校生投手は3~4年すれば、育成クラスから競合クラスまで伸びることがありますから、高校生投手が育成OKでプロに来るかどうかは大きな判断の分かれ目になります。

おつかれさまでした!

ざっくりまとめてみました。個人的に、高校生投手で上位指名されそうなのは、

今朝丸裕喜
村上泰斗
清水大暉
山口廉王
柴田獅子
藤田琉生

の、6名かなと思います。2017年以降、高校生投手の上位指名は(2020年を除き)5~7名の間で推移しており、今年もこれぐらいの人数になるのではと思います。

次回は、高校生野手について考えてみます。9月初旬には出せたらと思います。それ以降は、上位指名考察・各球団の指名ポイント考察・直前予想と続き、ドラフト会議後には振り返りをしようと思います。それではまた次のnoteにて。

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